らいぶらりぃ
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上村昇&小山実稚恵デュオコンサート

●日 時1998年6月28日(日)19時開演
●会 場イシハラホール
●出 演チェロ:上村昇
ピアノ:小山実稚恵
●曲 目シューマン/アダージョとアレグロ 変イ長調Op.70
ショパン/チェロ・ソナタ ト短調Op.65
シューベルト/アルペッジョーネ・ソナタ イ短調

 今日は、シンフォニーホールでは佐渡裕さんの手による演奏会もあったのですが、 買おうかどうしようかと悩んでいるうちに、売り切れてしまい(;_;)、他に何かないか しらん、と探し出してきたのが、この、日本を代表するチェリストとピアニストによ る、デュオコンサート。プログラムもロマン派で固めていて、魅力的です。大急ぎで 飛びついたのは、言うまでもありません。(^^;)

 最初はシューマン。いかにもシューマンらしい、憂いに満ちた旋律が流れていきま す。それを、上村さんのVcが、より憂いを深めていくかのように、しみじみと歌い 上げていきます。そして、小山さんのPもそれを上手くサポートしていきます。小山 さんというと、どうしてもソロで活躍する方、という印象があるのですが、なかなか どうして、こういった室内楽系でも、その魅力は落ちることはありません。彼女が得 意なのは、どちらかというと、ロマン派系のではないかと思うのですが、今回のプロ グラムは、まさに彼女にもぴったりという感じで、丁寧に音を扱いながら、優雅に歌 い上げていきます。そして、その上に、上村さんが更に情感的たっぷりと歌い上げて いく、それは、まさにこの曲の奥深くまで入り込んでいこうというものです。

 2曲目のシューベルト、これもまた、いかにもシューベルトらしい、「歌」に満ち た曲ですね。上村さんのVcは、まるでバリトン歌手が朗々と歌っていくかのような 雰囲気たっぷりの演奏です。また、所々、小山さんのPに主役がまわってくるところ があるのですが、そこは、小山さんもたっぷりと歌っているのは当然ですが、ピチ カートで伴奏役にまわる上村さんのサポートもいいですね。決して、邪魔にならず、 ベース楽器としての役割を完全に果たしています。そ、お2人とも、それぞれの役割 というものを、場面に応じて、はっきりとさせているからこそ、見事なまでに1つに まとまった演奏になっている、ということを、この曲を聴きながら、はっきりと確信 します。旋律を互いに受け継いだりするところの何ともなめらかなこと! ひょっと したら、これは、今までに聴いたことのないほど、内容の深ぁい演奏会なんじゃない か、という気にさえなってきます。

 3曲めは、ショパン。小山さんって、日本を代表するショパン弾きだと思うのです が、これは、そんな彼女の魅力が十分に出ていたと思います。いかにもショパンらし い書法が、最初からPに展開していきますが、これを、これまたいかにも小山さんの ショパン、という弾き方で、聴かせてくれます。1音1音、丹念に扱いながらも、流 れるところは、フレージングたっぷりに流していき、また、fで押すようなところ は、明朗にくっきりと音を出してくる、そんな彼女の魅力が全編に満ちています。ま た、上村さんのVcもそれ以上に歌っていて、特に2楽章の中間部に出てくる甘美的 なメロディーや、3楽章の美しいラルゴのテーマなどの歌わせ方と言ったら! 思わ ず、うっとりと聴きほれてしまうのでした…

 小規模ながらも、これほど内容がぎゅっと詰まった演奏会というのも、なかなかな いのではないでしょうか。舞台上で見られた、上村さんの素朴そうなお人柄や、小山 さんのにっこりとした笑顔の美しさなども印象的ですが、ほんと、心に残る演奏会の ひとつになるような気がします。素敵な一夜でした。