らいぶらりぃ
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ローマ・サンタ・チェチーリア・アカデミー管弦楽団

●日 時1998年7月8日(水)19時開演
●会 場フェスティバルホール
●出 演チョン・ミョンフン指揮
ローマ・サンタ・チェチーリア・アカデミー管弦楽団
●曲 目ロッシーニ/歌劇「セビリャの理髪師」序曲
メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調「イタリア」
ブラームス/交響曲第1番ハ短調
(アンコール)
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
ロッシーニ/「ウィリアム・テル」序曲

 一昨年のロンドン響との公演の感動が未だに記憶に新しい、チョン・ミョンフンさ ん、今回は、その首席指揮者を務めるローマ・サンタ・チェチーリア・アカデミー管 との来日公演です。

 このオーケストラは、ローマでも最古の音楽院のオーケストラ、ということで、伝 統の重みというものを、名前からも感じます。(^^;) が、演奏の方も、実にシャープ な切れ味を出していて、素晴らしいです。最初の「セビリャの理髪師」序曲からし て、その研ぎ澄まされた音が、響きます。透明感のある音、というのとは、ちょっと 違って、まさに”研ぎ澄まされた”音なんですが、…表現するのが難しいぃ…(^^;)

 そして、それがさらにくっきりとしてくるのが、「イタリア」です。さすが、イタ リアのオケだけのことはあって、この曲の曲想をよく表現してはります。第1楽章、 心地好くリズムが刻まれる上を、Vnがテーマを歌っていきますが、音がシャープな だけでなくて、ブレスを長く取って、たっぷりと歌っているんです。短いフレージン グの終わりでも、そこで終ってしまうのでなく、次へ次へとつながっていくように、 緊張感が保たれているんですね。それを、変に誇張することなく、ごく自然に流して いくのが、また素敵です。そ、ミュンフンさんの指揮は、まさに、この変に歌い過ぎ るということなく、このオケの切れ味のシャープさを最大限に生かして、むしろ、コ ンパクトな感じでまとめあげているようです。その分、内容は濃くなるわけで、第2 楽章ののどかさや第3楽章の美しさも、素敵でした。特に3楽章のHrのソロは、こ の上なく美しくてよかったですねぇ。Obなんかもいい味を出していたのですが、各 パートの技量の高さというのもはっきりと分かります。さすが、ローマ帝国以来の文 化の伝統ですかねぇ。(^^;) が、ここまでの美しさを打ち破るかのように、第4楽章 は、凄まじい演奏でした。これがイタリア本場の民族舞踏というものや、ということ をまざまざと見せつけられたような感じです。最初の弦のリズムの刻み方からして、 違います。まさにイタリアーナ!と言うような。(^^;) その上に乗ってくるテーマ、 これもまた1楽章と同様、歌い過ぎることなく、むしろ、ミョンフンさんが抑え気味 にするような感じで、巧みに歌い分けていきます。抑えるところは抑えておいて、い ざ、という時には、わぁっと全面的に歌い上げる、このメリハリが、たまらなくいい ですね。それは、イタリア人の血気と、韓国人のミョンフンさんの緻密さとがぶつか り合いながら、ひとつの素晴らしい音楽を作り上げていくのを、まざまざと見せつけ られたような気がします。

 しかし、今宵の感動はこれだけじゃ終わりません。後半のブラームス! 第1楽章 の出だし、じゃぁ〜んと和音が刻まれて行きますが、この一瞬、感じたのは、「朝比 奈隆大先生が振ってはるみたい!?」ということ。実にたっぷりと堂々と、ゆったり としたテンポで進めていくんですね。しかも、これが中途半端じゃなくて、「イタリ ア」でもそうだったように、実に長ぁくブレスを保っていくので、変に間延びするよ うなこともないのです。まさに雄大そのものです。長い序奏を経て、主題呈示部に 入っても、やはり、雄々たる様は変わりません。緊張感の糸が切れることなく、 ずぅっと続いていくのです。大きなうねりの中で感じたのは、決して、どの1つの音 も洩らすことなく、全てを大事にしながら、堂々と曲を攻めていこう、というような ミョンフンさんの意気込みです。単にテンポをゆったりとすればいいというものじゃ なくて、ゆったりとした上で、どのように歌い上げていくか、ということを、実に緻 密に考え抜いてはるようで、それは、決して、朝比奈大先生の真似なんかではなく、 まさにミョンフンさんご自身の音楽なんですね、これを実にじっくりと歌い上げてい ます。第2楽章に入ると、そのゆったりした上に優雅さが加わります。特に、Vnソ ロの何とも美しこと! このコンマスさんのVn、繊細な上に、実に歌い上手なんで す。このようなソロを弾く人がコンマスをしてはることが、このオケ全体の歌い上 手、にもつながっているのかもしれませんね。見事、です。第3楽章は、程よく歩く ようなテンポで、割と淡々とした演奏です。うん、これは割と普通の(?)演奏かな という感じがします。が、この楽章がさらりと終わると、間をあまり取らずに、すぐ に第4楽章の長大な序奏へと入っていきます。

 これが、また、長ぁ〜いんです。低弦が音を延ばした後の、ピチカートで応答する 部分も、実にゆったりとしたテンポ。ほんと、これは朝比奈隆大先生の世界みたいで すね。十分にたっぷりと持ってきて、たどりつくのが、Hrによるクララのテーマ。 ここもHrの音が冴え渡っています。その後のFlもHrの作り上げた世界をしっか りと受け継いで、次のTbによるコラールへの橋渡しをしっかりと果たしていきま す。そのTbのコラールもまた重厚な響きで美しく、再び、クララのテーマをたっぷ りと歌い上げて… もう、この序奏だけでもお腹いっぱい、という感じです。(^^;)  そして始まる主題呈示部、これもまた、歌い過ぎることなく、割と淡々として感じ で、それでいて、ゆったりと、堂々と進んでいきます。それは、重厚な響き、と言う よりは、まさに朝比奈大先生の作り出す音楽に似た、長者としての風格を備えたどっ しりとした響きです。これはもう、若手指揮者のリーダーとしてだけではなく、既に 老練に達したと言ってもいいようなくらいに熟練したミョンフンさんの、真の実力が 現われている、というものです。そして、悠然としながら曲は進んで行くのですが、 最後のクライマックスへ向かって、次第にその風格から抜け出すかのような、パワー がみなぎってくるのが伝わってきます。accel.していって、コーダへ突入してくると ころ、ここではもうすっかり、「老練」なんて表現は似合わなく、ブラームス自身が 若い頃からずっとため続けてきてこの曲を作曲した若々しい想いというものが、噴出 してくるようです。再びコラールのテーマが高らかに、堂々と現われた後は、もう、 若さ全開!と言うようなもので、一気にその終結へとなだれを打って、突き進んで行 くのでした。最後の和音が消えると同時に、会場から割れんばかりの拍手が湧き起 こったのは、言うまでもありません。実に貫禄たっぷりの、感動的なブラームスでし た。今まで生で聴いたうちでも、最高!だと思います。

 アンコールは、このブラームスでためていたものを一気に爆発させるかのように、 ハンガリー舞曲と「ウィリアム・テル」。はちきれんばかりの勢いで、一気に演奏し ていきます。「ウィリアム・テル」も生ではあまり聴かないよなぁ、などと思ってい る間に、そのシャープでパンチのきいた演奏は、怒濤の如く響き渡り、終るのでし た。まさにミョンフンさんの若さ爆発、と言った感じの力強い演奏でした。

 しかし、こういう若々しさを保ちながらも、あのブラ1で見せたような、熟練の味 をも表現できる、ミョンフンさんって、ほんと、素晴らしい指揮者ですね。改めてそ の才能に感嘆する思いです。あのブラ1は、まさに世界最長老の朝比奈大先生の域に も達しようかという程のものだったのではないでしょうか。ほんと、ミョンフンさん は、これからの世界をリードしていく指揮者としてますます活躍していくものと確信 します。感動的な一夜でありました。