らいぶらりぃ
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大阪フィルハーモニー交響楽団第320回定期演奏会

(朝比奈隆90歳記念コンサート)

●日 時1998年7月16日(木)19時開演
●会 場フェスティバルホール
●出 演朝比奈隆指揮大坂フィルハーモニー交響楽団
●曲 目ブルックナー/交響曲第5番変ロ長調(ハース版)

 昨年とか今年の朝比奈隆&大フィルのベートーヴェン・チクルスとかブラームス・ チクルスとかいったものには何故か、行かないんですね、私って。(←単なる天の邪 鬼…)そのくせ、今回のブルックナーの5番というプログラムには、妙に食指が動い てしまいました。

 会場へ入ると、立ち見も出ているような盛況。さすが、朝比奈大先生です。その人 気というものは衰えませんね。さらに舞台や客席にはTVカメラが。おぉ、今回のは 放送もされるのね、と妙に感心してしまいます。…で、そのせいか、オケも今日はい つになく張り切っていたようでした。(^^;)

 第1楽章、序奏が低弦から始まります。他の楽器がその上に乗ってきて、モチーフ を形作りますが、うん、確かに、今日のオケの音は、いつもと比べると、クリアな方 かな、と思います。やがて、テーマが朗々と現われてきますが、朝比奈先生の指揮 は、いつものように、ゆったりと、堂々とした風に曲を進めていきます。特に、fで がぁん!と出てくるようなところは、まさに圧巻と言うべき迫力を持って、会場中に 響き渡ります。うねうねとしながらも、曲は確実にテンポを刻んで歩んで行きます。 それは、まさに王者の風格を漂わせており、これこそ、朝比奈大先生の音楽、という ものが、はっきりと伝わってきます。

 が、気になることがいくつか。確かにいつもの演奏に比べれば音は多少はクリアな ように聴こえるのですが、段々と耳が慣れてくると、やっぱり大フィルやねんなぁ、 ということを感じざるをえないような部分もあるのに気がつくのです。例えば、Fl 等で音が1オクターブ下がる部分があると思うのですが、それがひとつのメロディー ラインの中での動きであるにも関らず、下に下がった音ですっかり緊張感がなくなっ てしまっているんですね。だらんと音が下がってしまっているというか。音楽を前へ 前へと進めて行こうと思ったら、声楽で言うところの”支え”を保っていかないとい けないと思うのですが、それができていないように見える部分がいくつかあったよう に思います。また、fのところの迫力は素晴らしいと書きましたが、それでもTpの 音などはもっともっとクリアになると思うんです。何かが混じっているような音に聴 こえてしまって、せっかくの盛り上がりがちょっと…というふうに感じないでもない のです。ま、これらのことはごく細かなことですから、別にええやんと言ってしまえ ば、それまでなのですが、しかし、ブルックナーのこの曲は、細かなところまで緻密 に作り上げられた曲ですから、やはり、一つ一つの音を大事にしてほしいなと思うの です。欲張りかしらん…(^^;)

 第2楽章、第1テーマのObの音がとっても綺麗です。ほぉ、と感心していると、 やがて出てくる第2テーマ、弦がこれまた、すっごく美しくメロディーを歌い上げて いきます。これがほんまにいつもの大フィルなのか? と思わず目を見張る程の美し さ。(^^;) これだけの演奏ができるのなら、いつもの演奏でもそないにしてよ、と思 いながらも、朝比奈先生の指揮は、団員のそういう歌心を見事に引き出しているかの ようで、実にたっぷりと、ゆったりとこの楽章を歌っていきます。

 第3楽章、木管の第1テーマの音にちょっと、ん?と思いながらも、この微妙にテ ンポを揺らしながら進んでいく様は、なかなかですね。金管が入って、わぁっと鳴る ところへ至るまでの持って行き方などは、さすが、朝比奈先生というものです。

 そして、第4楽章、第1楽章の冒頭が再現され、これまでのいろいろな主題が回想 されながら、やがて新しいテーマが生まれていきます。第2テーマもやがて現われて きて、そして、金管のコラールのテーマが朗々と登場してくる、ここまでの経過がど れほど素晴らしかったことか。よく言われるように、ベートーヴェンの第九に似た手 法なわけですが、この様々なテーマを回想しながら、苦しみとかを乗り越えていっ て、やがて歓喜へと至る、こういう雰囲気が、実によく現われていたと思います。だ からこそ、コラールが映えて聴こえるわけです。そして、このコラールと第1テーマ との二重フーガが展開して、やがてコーダへ向かっていく、この経過でも緊張感はぴ んと張っていて、一寸のスキもないですね。気分はどんどんと高揚していき、そして クライマックスへ。輝かしいばかりの響きでコラールのテーマが鳴り渡り、そして、 今まで沈黙を守っていたバンダの金管も一斉に鳴り響いて、これでもかというくらい の最高の盛り上がりを築き上げていきます。敬虔なカトリック教徒だったブルック ナーの信仰心が、実に華々しく歌い上げられて、「超」感動のうちに、曲は終わるの でした。

 朝比奈先生は、今年で90歳になられるのですね。そのご高齢にも関わらず、これ ほどの大曲を、最後までしっかりと立って指揮をされるという、その体力もすごいで すし、曲への集中力もさすが、ですね。まさに世界に君臨する王者としての貫禄たっ ぷりの演奏だったと思います。団員全員が退場しても、客席側は総立ち状態で、満場 の拍手は鳴りやまず、朝比奈先生を再び、舞台の上へ呼び戻したという、それほど、 心にぐっとくるものがあった演奏会でした。先週のローマ・サンタ・チェチーリア管 弦楽団の演奏会で、チョン・ミョンフンさんのことを、朝比奈大先生と比べるなどと いう、不届きなことをしてしまいましたが(--;)、ミョンフンさんの実力もさることな がら、朝比奈大先生の方もなかなかどうして、その世界に冠たる実力は未だ健在な り、ということをはっきりと見せつけられたように思います。歴史に残る名演ではな いかとすら、思えます。

 しっかし、この2週間、村治佳織さんの追っかけをしている合間に、こんなヘビー な曲を聴くのは、なかなか疲れますな。(^^;)