らいぶらりぃ
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小松亮太 ブエノスアイレスの夏

●日 時1998年9月19日(土)18時30分開演
●会 場大阪厚生年金会館中ホール
●出 演バンドネオン:小松亮太
ヴァイオリン:フェルナンド・スアレス・パス
ギター:オラシオ・マルビチーノ
ピアノ:パブロ・シーグレル
ベース:エクトル・コンソーレ
●曲 目ピアソラ/ブエノスアイレスの夏
     92丁目通り
     鮫
     ミロンガ・フォー・スリー
     ストリート・タンゴ
     五重奏のためのコンチェルト
     天使の死
     デカリシモ
バルディ/恋人もなく
ピアソラ/愛のデュオ
     天使のミロンガ
     チャウ・パリ
     アディオス・ノニーノ
     ブエノスアイレスの冬
(アンコール)
ガルデル/想いがとどく日

 「バンドネオンの革命児」として話題沸騰中の小松亮太さん、私も密かにアコー ディオンなぞの練習をしている者としましても、これはぜひとも聴いておきたい演奏 です。しかも、曲はずらりとピアソラの曲が並んでおり、とても魅力的です。

 それで、聴いてみての感想を一言で言うなら、まさに、そこにピアソラがいるかの ような、これこそ、真のピアソラ、と断言できる程の素晴らしい演奏だった、という ことになるでしょう。クインテットを組んでいる皆さんというのは、実は、ピアソラ 本人ともバンドを組んで演奏したことのある人達ばかりなんですね。そのような大家 の中に入って、亮太さん、全くヒケを取らず、実に堂々としながら、音楽をリードし ていきます。そして、そこにかける情熱というか、気迫というものが、凄いです。音 楽にしっかと向き合いながら、ピアソラの髄へと迫っていこうという、その気迫は、 聴く者の心をぐっと捉えて離そうとしないのです。この不思議な魅力(というか魔力 というか…)の前に、私はただ、じぃっとピアソラの世界を味わうだけしかないので した…

 以下、思いつくままに書いていきますが…(^^;

 どの曲も素晴らしいのですが、一番印象に残っているのは?と聞かれたら、2つの 「天使の…」の曲と答えるでしょう。「天使のミロンガ」は、何と言っても、その美 しいメロディが素敵で、これを、バンドネオンで、たぁっぷりと聴かせられたら、も う、たまりません。甘く切ない響きが、私達の心の中にしみじみと響き渡ります。夢 見心地で、うっとりとしてしまうのでした… 「天使の死」は、それと打って変わ り、激しいフーガです。息をつく間もなく、実に緊迫感に溢れた演奏です。その充実 感たるや、中途半端ではありません。ぐいぐいと曲の中に引きずり込まれそうになる のを禁じえないのでした…

 また、「五重奏のためのコンチェルト」も素敵な曲ですね。何と言っても、5人の メンバーそれぞれのソロをフューチャーしながら曲が進んでいくため、各メンバーの 音がはっきりと聴けるから、いいのですね。各人とも、ほんとに腕達者な方達ばかり で、そのソロの番になっての歌い方は、ほんとに凄いです。亮太さんもそうですが、 全身全霊を傾けて、メロディを歌っているのですね。また、ソロ以外の部分でも、こ こでも全身全霊を込めて、タンゴのリズムを作り出しているのです。全体が、ぴりっ とした緊張感に包まれるのも当然というものです。そんな豪華メンバーの中で、気に なったのが、ピアノのシーグレルさん。ジャズ・ピアニストでもいらっしゃるのです ね、だからからか、タンゴの中に、どこか上品なジャズっぽさのようなものが含まれ ていて、いいなぁ〜って、ずっと聴いてました。彼のピアノは、ソロでもたっぷりと 聴いてみたい、と思ってしまうのでした…

 それから、一番最初に演奏された「ブエノスアイレスの夏」もいい曲だと思うので すが、一番最後の「ブエノスアイレスの冬」も、それ以上にいい曲だなぁ、と思いま した。具体的に何がどう、と言えないのですが、「冬」いうイメージからくる、しみ じみとしたものが、こう、心の中に入り込んでくるのですね。この曲が最後にあるこ とで、演奏会全体が、実にしっくりとまとめあげられていたようにも思います。

 そうそう、「恋人もなく」は、バンドネオンとヴァイオリンのデュオによる演奏 だったのです。パスさんのヴァイオリンも、もちろん素敵なのですが、亮太さんのバ ンドネオンの歌い方は、ほんと、最高ですな。一体、どうやったら、あそこまでしっ とりとした、甘く切ない響きというのが出せるのでしょう。それは、アンコールでさ れた「想いのとどく日」でも同じで、こちらはソロの曲だけに、より一層、その美し い音色に惚れ惚れとします。

 あっという間の演奏会でした。それは、亮太さん達の織り成すピアソラの世界が、 時間の経つのを忘れさせるほど、私達を魅了したからに他ありません。もっともっ と、聴いていたい、未練のようなものも感じながら、幕が降りたのでした。しかし、 これだけの演奏を聴いてしまうと、他ではピアソラは聴けそうにないような気がする のが、ちょっと恐かったりします…(^^;