らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

セルゲイ・ナカリャコフ トランペットリサイタル

●日 時1998年9月27日(日)14時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演トランペット:セルゲイ・ナカリャコフ
ピアノ:ヴェラ・ナカリャコフ
●曲 目ペルゴレージ/「スターバト・マーテル」より アリア
ヴィヴァルディ/「蛮族の王ホロフェルネスに勝利して凱旋するユディット」より アリア
ストラデッラ/主よ憐れみたまえ
ショパン/マズルカ第13番イ短調Op.17-4
     夜想曲第13番ハ短調Op.48-1
ウェーバー/変奏曲へ長調
R.シュトラウス/アンダンテ
シューマン/幻想小曲集Op.73
スクリャービン/2つの詩曲Op.32
リムスキー=コルサコフ/熊蜂の飛行
            「春」より”高嶺に吹く風もなく”Op.43
            「詩人に」より”八行詩”Op.45
アーバン/「チロルの歌」変奏曲
(アンコール)
小六禮次郎/うらら・イン・ザ・スカイ
      ともだち
ディニーク/ホラスタカート

 この半年間、毎朝、お茶の間に流れていた、さわやかなトランペットの音色、この 正体こそ、ナカリャコフさん、ということで、それまでも人気を博していたのが、さ らに広くその名を知られるようになったことは記憶に新しいことですね。ちょうど、 昨年の矢部達矢さんのように。(^^) そのナカリャコフさんの演奏を生で聴けるとい うことで、会場は、かなりの混雑でした。やはり、というか、若いギャルが多いです ねぇ…(^^; あと、ブラバンの関係者と思われる方が多かったような気もします。こ れも言われれば、当然なのかもしれませんが。

 さて、そのナカリャコフさんの演奏ですが、実に素晴らしいですね。私もトラン ペットだけを聴くということは滅多になく、どうしてもオケの中なんかで、ここぞと いう時にかぁん!と鳴らしてくる、いわば、”鳴らし屋”としてのイメージが強いの ですが(^^;、彼のトランペットは、そういうのとは全く違います。さらさらと流れる 清流のごとく、濁り気のない、清涼感あふれるものなんですね。トランペットって、 こういう音も出るんだぁ、ということを改めて実感させられます。それに、彼の演奏 には、とっても”歌心”というものがあるんですね。ただきれいに演奏するだけでな くて、各フレーズを非常に大事にして、たっぷりと歌い上げていくのです。例えば、 ペルゴレージの「スターバト・マーテル」のアリアにしても、普段、我々は歌詞の言 葉が歌われるのを聴くわけですが、その言葉がなくても、その意味あいがこちらに はっきりと伝わってくるような、それだけ説得力のある演奏なのです。一番、印象深 いのは、ストラデッラの曲。ラテン語で言えば、”Kyrie eleison”ということになる のでしょうか、いかにもそういう祈りを捧げる、といった、敬虔な雰囲気に包まれた 曲で、これを、実にしっとりと演奏されては、もう、たまりません。その素晴らしさ に、思わず、ほろりとくるのでした…

 また、ナカリャコフさん、トランペットだけでなく、フリューゲル・ホルンの演奏 も披露してくれました。R.シュトラウスとシューマンの曲がそうです。このシュー マンの「幻想小曲集」も、もとはクラリネットの曲ですね。これを、フリューゲル・ ホルンでさらりと演奏してしまうのが、また素敵です。聴き慣れたクラリネットとは 確かに違うのですが、それでも、その自然な演奏に、この曲が初めからこの楽器のた めに作られたのではないかと思ってしまうのでした… その一方で、実に「超絶」技 巧的なことも平気でしてのけてしまわれます。最後のアーバンの曲がそうで、テーマ の呈示があった後、変奏が続いていくわけですが、次第に、技術的に高度になってい くのです。ピアノで弾いても、指が吊りそうになるくらいの、細かで速いパッセージ を、事もなげに吹いてしまわれる… その才能には、ほんと、感服いたいました。

 ところで、伴奏をしていた、お姉さんのヴェラさん、彼女のピアノも実に素敵です ね。しっかりしたタッチで、丁寧に弾いてはります。何よりいいのは、その作り出す 音楽にドラマがある、ということ。セルゲイさんのトランペットが入ってくる前に、 ピアノの序奏がある場合など、その序奏だけで、その曲の世界をしっかりと作り上げ てしまっているんです。それだけに、ソロの演奏でのショパンも、実に魅力的なもの 仕上がっていましたし、スクリャービンも、説得力のある演奏でした。

 ヴェラさんのピアノが、ドラマの場を作り出す、劇場オーケストラで、セルゲイさ んのトランペットが、歌心たっぷりに歌う、オペラ歌手である、そんなふうに例えて 言うことができるかな、と思います。だからこそ、これだけの素敵な演奏が実現する のでしょう。逆に言うと、そういう歌心、歌いまわし方等を、聴く側がしっかりと受 け止めてほしいな、とも思います。特に、おそらく会場の中にたくさんいたであろ う、学生でクラブ活動等で、トランペット等を演奏する人達に、彼の演奏を、ただ単 に音がきれい、で終わらせてしまわずに、その中に込められている、歌心というもの をはっきりと感じ取ってほしいと、思うのです。それが音楽をするということなので すから。

 なお、アンコールは、やはり、お約束の、「うらら」のテーマ曲。生でこの曲を聴 けて、ちょっと嬉しかったですぅ。(^^)