らいぶらりぃ
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ザ・パーセル・クヮルテット・オペラ・プロジェクトII

歌劇「ポッペーアの戴冠」

                                                                                                                 
●日 時1998年10月3日(土)16時開演
●会 場八幡市文化センター
●演 目モンテヴェルディ/歌劇「ポッペーアの戴冠」
●出 演演出:ピーター・ジェームズ
音楽監督:リチャード・ブースビー
ポッペーア:ジュリア・グッティング
ネローネ:ギ・ド・メイ
オットーネ:アクセル・ケーラー
オッターヴィア:スーザン・ビックリー
アルナルタ/乳母/メルクーリオ:ドミニク・ヴィス
ドルシッラ/美徳/侍女/ヴェネレ:スージー・ル・ブラン
セーネカ/警吏/護民官:リチャード・ウイストライヒ
幸運/パッラーデ:サリー・ブルース=ペイン
愛/小姓:ニッキー・ケネディ
兵士/ルカーノ:ジュリアン・ポッジャー
兵士/自由奴隷/執政官:ジョナサン・ジョブ
ヴァイオリン:キャサリン・マッキントッシュ
       キャサリン・ヴァイス
ヴィオラ・ダ・ガンバ/リローネ:リチャード・ブースビー
チェンバロ:ロバート・ウーリー
テオルボ/バロックギター:ヤコブ・リンドベルイ
キタローネ:カジェイミエシ・ミハラク
ハープ:ジャン・ウォルターズ

 モンテヴェルディの問題作、「ポッペーアの戴冠」です。普通ならば、オペラのス トーリーって、勧善懲悪というふうになると思うのですが、この話は違います。暴君 ネロの話を元にした、フィクションであり、そのネロ(オペラ中ではネローネ)が己 の欲望のままに、愛人のボッペーアを皇后の座につかせる、その過程を扱ったものな のです。

 さて、舞台の上には、階段のついた大きな段が組まれています。手すりをつたって 階段を上ると、ちょっとしたスペースがあり、そして、その下の空間も、カーテンが 閉ざされてはいますが、ポッペーアの部屋等として使われていく、という寸法になっ ています。そして、その階段を下りてきたところ、上手寄りの場所にオーケストラ用 のスペースがあります。たったこれだけで全てを演出していこうという、なかなかシ ンプルな構成となっています。

 最初は、シンフォニアから始まります。3人の神が何やら言い争いをしています が、やがて愛の神が他の2人の神を負かして、この世では愛が全てに勝つということ を歌い上げます。ま、いわば、これがこのオペラの言いたいことなのでしょうね。

 そこへ、外国からオットーネが帰ってきます。愛する妻、ポッペーアの待つ部屋の 前に来ると… そこにはネローネの手下達が、寝ずの番(って、実際は寝てるんです が)をしているのです。はたと気付くオットーネ、自分の不在の間に、皇帝と自分の 妻とが不倫の仲になっていようとは… と、ここから彼の苦悩が始まっていきます。 このカウンターテナーのケーラーさんの声が、とっても繊細な感じの響きで、そうい う不安さというようなものをうまく表現していますね。やがて、夜が明けると、ネ ローネが部屋から出てきます。そして、手下達と戻ろうとするのですが… そうそ う、今回の演出は、話の内容はローマ帝国の時代なのですが、思いっきり現代っぽく してあって、登場人物達も、皆、今ふうの衣装なんですね。即ち、男声陣は、皆、 ダーク・スーツに身を包み、女声陣も、綺麗な、というか、派手な(?)衣装で着 飾っているんです。で、ネローネ一行、立ち去ろうという時に、全員揃って、さっと 取り出すのはサングラス… あんたら、ヤクザさんかいな、と突っ込みたくなります …(^^; しかし、ポッペーアは別れを惜しみ、ねちねちとネローネに付きまとってま す。で、2人が愛をささやきあうのですが、グッディングさんのポッペーアは、なか なか、派手な格好で、いかにも男を惹き付けてやまないという雰囲気がよく出てお り、いいですねぇ。もちろん、声の響きも明るく、ハリがあって素敵です。一方のメ イさんのネローネも、なかなか、説得力のある歌い方で、そういう2人の愛のささや きは、もう、何だかたまらんなぁ、という感じにもなります。

 そして、ネローネが帰っていくと、部屋の中で、ポッペーアとアルナルタとのやり とりが始まります。アルナルタは、そ、あのヴィスさんです。こういう、どこかコミ カルな役には、ほんと、ぴったりの方ですね。女装もばっちりと決まっていて(^^;、 どこかイヤミな感じの女性をしっかりと演じてはります。

 場が変わると、そのヴィスさん、早変わりをして、オッターヴィアと一緒に、その 乳母として登場してきます。ヴィスさん、今回は3役をこなしてはるから、大変なこ と。で、オッターヴィアが、ネローネの不倫を嘆いています。そのひたすら、悲しむ 声は、切々と胸に響いてきます。乳母が、復讐を、とそそのかしてますが、今は、た だ悲しむばかりの皇后さまなのでした… そこへ、セーネカがやってきて、ひたすら 耐えるように、と美徳を説きます。このセーネカのウィストライヒさんのバスが、 ごっつい説得力があるんですね。「魔笛」のザラストロなんかにもぴったりなような 感じで、こんなんで、美徳を説かれると、なかなか逆らえないってもんです。(^^;  で、そのセーネカに文句を言うのが、オッターヴィアの小姓。これも、「愛」との2 役のケネディさんですが、ころころとした感じの可愛らしい声ですね。最初の神達の 言い争いのところでも、最後に、万歳をして、世界は愛によって動くということを 歌っていたのですが、ほんと、可愛らしい、という表現がぴったりくるように思いま す。

 やがて、ネローネの前に姿を現すセーネカ、ネローネは、既にオッターヴィアを追 放して、ポッペーアを皇后の座につけると決めているのですが、それを、セーネカ が、阻止しようと、必死に訴えます。この2人のやりとりは、なかなか、迫真のもの があります。2人とも、声が素晴らしいから、なおさら、です。段々と激情してくる ネローネ、どこまでも沈着冷静なセーネカ、この対比がいいですね。ついに、ネロー ネの怒りが爆発して、セーネカは去って行くのでした… その苛立ちのまま、ポッ ペーアのもとを訪ねるネローネ、うふん、いらっしゃぁ〜い、って感じで迎えるポッ ペーア、すごくお熱いことで…(^^; その場で、ネローネは、セーネカを処刑するこ とを決定するのでした。

 ネローネが帰った後に、再び、オットーネが現れます。ポッペーアへの愛を切々と 歌うオットーネ、その細く美しいカウンターの声が、とても切なく聴こえてきます。 しかし、ポッペーアの心は、もう戻ることはなく、私はネローネのものよ、と言い放 ち、カーテンをぴしゃっと閉めてしまいます。哀れ、オットーネ… 一人で悩み苦し むのが、聴いていても、痛々しいです。そこへ、彼のことを慕っているドルシッラが 現れて、彼を慰めようとします。男って、こういうふうに慰められると弱いんですよ ねぇ…(^^; オットーネも、ドルシッラのことを愛している、と言い渡します。け ど、彼の心の中には、まだポッペーアがいるんですね。う〜む、こういう気持ちも、 分かるような気がします…(^^;

 ここでようやく1幕が終わり、休憩となります。既に1時間30分近くが経過して ます。いやぁ、疲れるわけですなぁ…

 さて、第2幕は、セーネカが死を迎えるところから始まります。セーネカのもと へ、ネローネからの使いがやってきて、彼にネローネの命令を伝えます。この使いの 自由奴隷も、自分が悪事に荷担しているようで嫌だ、と言っているのが、何か、印象 的です。やはり、ネローネは悪役なのか、と思えます。そして、その命令を受け入れ るセーネカ、彼をとりまく人々が、死なないでください、と訴えていきます。ここ で、始めて、出演者による合唱が聴けます。フーガ形式で展開していくもので、セー ネカに死んでほしくないという言葉を歌っていきます。とっても綺麗な曲で、素敵で す。しかし、セーネカは… 死を迎えます。

 と、場面は急に変わって、セーネカのもとにいた人のうちの2人が、ぱぁっと服を 脱ぎ捨てたと思ったら、小姓と侍女がそこに。(^^; 2人が、何やら、愛の言葉をさ さやき合っています。このやり取りが、とっても可愛らしいですね。何でこのような ところに、このような場が設けられているのかしらん…とも思うのですが、セーネカ =「美徳」の死により、この世は、愛によって動く、ということを、もう1回、呈示 している、ということなのでしょうか…

 そして、ネローネ、配下のルカーノと一緒に、セーネカの死を喜んでいます。これ で、ポッペーアと結ばれることができる、と喜びに満ちている時、その一方では、と いうことで、場が変わって、オットーネの独唱が始まります。心の衝動で、一時、愛 するポッペーアを殺そうと思ったけど、けれども、やはり愛する人はどこまでも愛お しい、という気持ちを、また切々と歌い上げていきます。と、そこへ、オッターヴィ アが現れ、ポッペーアを殺すよう、彼に命じます。オッターヴィアの、1幕での悲し みはついに、憎しみへと変化・爆発し、ポッペーア殺害計画にまで及んできたので す。この憎悪の爆発、という感じが、よく表現されているんです。ビックリーさんの メゾの声は、実に幅の広い響きで、情感がこもっていて素晴らしいですね。この場面 での憎悪の感情や、1幕での悲哀の感情、さらには、3幕での打ちひしがれた感情な ど、それぞれ、その感情をはっきりと感じることのできる、素敵な歌唱でした。私は 彼女の歌が一番、印象的に感じました。

 彼女の命令に怖れおののくオットーネ、とそこへドルシッラが現われ、何も知らぬ ままに、彼の手助けをすることになります。オットーネはポッペーアの部屋に忍び込 むのに女装していかなくては、ということで、ドルシッラの服を借りるわけです。お やすいことよと、服を脱ぎ出す彼女、おぉっ!と思っていると、オットーネが、さ、 こっちへ、と言ってカーテンの向こうに隠れてしまいます。(^^; しばらくすると、 見事に(?)女装したオットーネが現われます。さぁ、これで忍び込むわよ、と意気 込みながらも、やはり、愛するポッペーアよ…との想いは打ち消すことができませ ん。天井からは、愛の神が、彼の思惑を阻止しようと、声をかけてきますし、そうこ うして悩んでいるうちに、アルナルタに見つかってしまいます。もはやこれまで、と 取り出してきたのは、何故か、チェーンソー。歌詞は「剣」なのにぃ…(^^; チェー ンソーを振り上げて襲いかかろうとしますが、そこへ、アルナルタの大声を聞いて兵 士らがかけつけて来ます。やったぁ、ポッペーアを守ったぞぉ、と愛の神がガッツ ポーズをするところで、原作では2幕は終りとなります。

 が、今回は、そのまま引き続いて3幕へとなだれ込んでいきます。この幕間が、実 は一番のお楽しみだったりします。(^^; オットーネをアルナルタと兵士らが追っか けるという、大(?)捕物が展開するのです。そのばたばたと舞台上を駆け回る様 は、ほとんど吉本新喜劇の世界です(^^;。追いかけているうちに、オットーネは、 ふっと舞台ソデへと隠れてしまいます。替わって舞台には、下着1枚のドルシッラが 現れてきます。と、そこへ、アルナルタらが、いたわよ!と叫んでやってきます。囲 まれるドルシッラ、ここで彼女もオットーネのしたことを全て悟り、彼の身代わりに なろうとします。ネローネが登場し、さすが、皇帝陛下、貫禄ある声で、責めを問う ていきます。そこへ、まだ女装姿のオットーネがおどおどと現れてきて、犯ったのは 自分だと自白します。ネローネに泣きすがり、罪を白状し、ドルシッラの命乞を懸命 にするオットーネ、あぁ、やっぱり貴方は哀れなのねぇ、と何だか同情したくなりま す。と、暴君とは言えどもさすが、皇帝陛下、そのお慈悲を以って、命だけは助けら れ、オットーネとドルシッラの2人は国外追放を命じられるのでした。う〜む、2人 にとってはめでたしめでたし、なんでしょうかねぇ… そして、ネローネは、遂に オッターヴィアの尻尾をつかんだぞ、と彼女の追放をも命じます。

 場面が変わると、暗い港にオッターヴィアが立っています。願いは敗れ、愛する国 土を離れて行く身の不幸を嘆いています。ここでも、ビックリーさんの声が素敵で す。切々とその悲しみを訴えてくるので、思わず、ほろりときてしまいます。あぁ、 かわいそう…

 と、その哀しみが終るや否や、 舞台はぱぁっと明るくなり、下手ソデから、アル ナルタが登場します。そして、前のオッターヴィアと対照的に、ポッペーアの戴冠を 祝い、これから私も上流の仲間入りよ、と誇らし気に歌い出します。ヴィスさんの実 力発揮というところで、どこか滑稽な感じでいながら、いい味を出していますねぇ。 やっぱ、ヴィスさん、好きやわぁ、と思うのでした…(^^)

 そして、いよいよ、クライマックス、邪魔者を全て排して、ポッペーアとネローネ とが結ばれる日がやってきます。照明も変わり、舞台は厳かな雰囲気になります。中 央のいすに2人が腰をおろし、神の前に誓いを立てて、ポッペーアの戴冠となるわけ です。家臣達は3人だけですが(^^;、それでも、その荘厳・厳粛な雰囲気はよく出て います。華やかな場面が終ると、最後は、2人きりで、愛を語らいあい、静かに終っ ていきます。めでたしめでたし、ハッピーエンド…(と言っていいのか疑問は残りま すが)となります。

 バロックオペラですから、もちろん、先週に見てきたボローニャ歌劇場の「フェ ドーラ」のような派手さや華麗さはありませんが、逆に、小規模で小じんまりとして いるからこそ、気軽に楽しむことができる、と言えましょう。それに、演出も現代風 にアレンジしてあって、この物語を、現代のものとして見ることができます。また、 声楽陣の1人1人は、それぞれ、素晴らしい技量の持ち主ばかりでしたし、オーケス トラの方も、声楽陣をよく支えていて、ドラマの場面に応じた、それぞれの雰囲気を うまく表現していたと思います。それにしましても、結構、疲れました…(^^;