らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

ジャン・ワン 長谷川陽子 チェロデュオ

●日 時1998年10月4日(日)15時開演
●会 場イシハラホール
●出 演チェロ:ジャン・ワン/長谷川陽子
ピアノ:津田真理
●曲 目ヘンデル/2台のチェロとピアノのためのソナタト短調Op.2-8
プロコフィエフ/ソナタハ長調Op.119
カサド/無伴奏チェロ組曲
ロッシーニ/2台のチェロのための二重奏曲二長調

 第2のヨー・ヨー・マとも言われるジャン・ワンさんと、日本を代表する陽子さん との共演です。いや、とても内容の濃い演奏会でした。

 最初はお2人でのヘンデル。陽子さんのチェロがたっぷりとテーマを歌い出すと、 それに続いてワンさんのチェロも、さらに厚みのある響きで歌い出す、もうこれだけ でもじぃ〜んときます。そして、この2つのチェロによるフーガ展開、まさに重厚な 響きが会場を覆います。緩−急−緩−急と楽章が展開していく中での、それぞれの表 情もたっぷりと出ていて、素敵でした。

 プロコは、ワンさんのソロです。その内容の何とも濃いぃこと! 1楽章は超重低 音から始まりますが、そのごぉっとした響きは半端でなく、体の芯を揺するようで す。苦悩に打ちひしがれたような感じの曲想が続き、そのうねうねとしたうねりが、 また、心を打ちます。が、やがて、その苦悩から抜け出し、光明を見い出したかのよ うに、次第に明るみを増していきます。生き生きと歌い出すワンさんのチェロ、厚み のある歌いに、聴き惚れてしまいます。が、再び、冒頭の不安がよみがえってきて、 明るさと暗さとが同居するかのような感じで、終っていきます。2楽章は、軽快で、 楽しげな感じ。チェロもピアノも、お互いに弾け合うかのようで、その表情がとても 生き生きとしています。それでも、中間部では、やはりたっぷりと旋律を歌っていま す。3楽章になると、まさに、その歌一色という感じで、華やかな雰囲気の中、プロ コフィエフらしい奇麗なメロディがたっぷりと歌われていきます。ワンさんのチェロ は初めて聴いたのですが、息をつく暇もないほど、その緊張感に満ちた説得力のある 演奏は、実に素晴らしいものでした。さすが、ポスト・ヨー・ヨー・マと言われるだ けのことはありますね。それと、ピアノの津田さん、彼女のピアノも実に表情が豊か で、ワンさんのチェロをしっかりサポートしていましたね。それもまた印象的です。

 後半は陽子さんのソロによるカサドから始まります。無伴奏の曲ですが、そのスペ イン情緒あふれる曲想が素敵ですね。1曲目は幻想的な感じの曲、2曲目は軽やかな 感じの曲ですが、一番感動したのは、3曲目です。フィナーレということで、舞曲に なっているのですが、そこへ至るまでの部分が、とても印象的です。ぽろろん、とま るでギターを弾くかのような音が出たりして、思わず、陽子さんのお姿に、この夏に 追っかけをしていた村治佳織さんのお姿がオーバーラップしたりして(←こらこら …)、気分は、まさにエスパーニャ!です。(何のこっちゃ…^^;)でも、実際、最後 の方の盛り上がりなんか、ギターをじゃかじゃかとかき鳴らすかのような響きで、い いなぁ、と聴き惚れてました。それにしましても、陽子さんのチェロは、いつも、そ の音楽の持っている本質というものを、よく捉えていらっしゃいますね。

 最後は、ロッシーニ。いかにも、ロッシーニらしい、「歌」に満ちた曲ですね。1 楽章は、例えて言うなら、オペラの序曲。いかにもこれから何かいいことが起こりそ うだとでもいうような、わくわくとした期待感に満ちた曲です。チェロ2本だけの、 無伴奏の曲ですが、その響きの厚さは、まるで、オーケストラを聴いているかのよう な感じすら与えます。2楽章は、バリトンのアリアといった趣きの曲。陽子さんがピ チカートで伴奏をしていく上に、ワンさんが朗々とそのメロディを歌い上げていきま す。3楽章は、全員総出演の華やかなクライマックス若しくはフィナーレ、といった 感じ。お2人とも、実に楽しそうにやりとりをしていらっしゃるのが、印象的です。

 陽子さんとワンさん、まだお若いお2人の素晴らしい才能に、時の経つのさえ忘れ て聴き入っていた一時でした。