らいぶらりぃ
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ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

●日 時1998年10月16日(金)19時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アルト:アンナ・ラーソン
アーノルト・シェーンベルク合唱団/東京少年少女合唱隊
●曲 目マーラー/交響曲第3番ニ短調

 今年一番のメインイベントがやってきました。ベルリン・フィル!であります。今 までにも何回も来日しているのですが、今までの私は、どうせチケットの値段も高い んだし、すぐに売り切れるんだろうし…と、どちらかというと、敬遠する傾向にあっ たのですが、今回は、何故か、行ってみたい!と思ったのでした。曲目がマーラーの 3番という、大曲であるのも、私の気を引いた一因でしょう。Aプロ、Bプロはまた 別のものなのですが、私は、やっぱり、このマラ3のCプロに行きたい、と思い、発 売日には、必死になって、チケットをGETすべく、電話しまくっていたのでした…

 さて、職場を出るのがちょっと遅れたため、ぎりぎりの駆け込みで会場に入ると、 おぉ、既にいっぱいのお客さんが。中には、きっと、昨日のAプロとのかけもち、と いう方もいるのでしょうね… ピリスのピアノも聴きたかったな…等と思いながら、 汗を拭いて、開演を待ちます。そういや、マラ3って、去年も、芦屋交響楽団の演奏 で聴いたな…なんてことを思い出したのですが、比べちゃいけませんね。(^^; やが て、クワイア席に少年少女達が、続いて女声合唱の皆さんが入ってきます。今日の演 奏の合唱部隊は、このクワイア席に陣取るわけです。そして、BPOの皆さんも、わ らわらと入ってきて、その最後に安永さんが入ってこられます。そういや、この前 も、四方恭子さんがコンミスをしてはるケルン放送響を聴いてきましたが、日本人の 方が、こういうドイツの名門オーケストラのコンサートマスターをしてはるのって、 何とも頼もしいことですね。最後に、アルトのラーソンさんと、アバドさんが入って きて、聴衆の拍手を受けます。おぉ、生のアバドだぁ! と思わず興奮してしまいま したが(^^;、そのお姿には、貫禄というものが漂っていますね。さ、いよいよ演奏が 始まります。

 第1楽章は、力強いホルンのファンファーレで始まります。その切れ味の良いホル ンの音色に、思わず、ぞくっとします。すぐに続く低弦の、ばちっ!という響きを聴 いて、もうこれだけで、汗も仕事の疲れも、すぅっと抜けていくような気がします。 その後、いくつかのテーマを繰り返しながら、うねうねとした感じで曲は進んでいき ますが、その動きには決して無駄はなく、全ての音を大事にした音楽作りをしてはる のが、はっきりと分かります。やがて、中間の辺りで、曲は行進曲風になりますが、 決然とした感じでリズムを刻みながら、その上に乗ってくるテーマの歌い方の素晴ら しさ! まさにこの曲のテーマである、「生命の誕生」の喜びを高らかに歌い上げる ようで、その生き生きとした優しい表情には、うっとりとします。弦の艶やかな音色 が、とっても素敵に響いてくるんですよね、これが、とってもたまらない、という感 じなのです… もう、この辺りで私の汗や疲れは全て、吹っ飛んでしまい、この素晴 らしい響きの中に完全に身を預けるような感じになってしまってます。これほど、リ ラックスして音楽を聴くのも、実はあんまりないだけに(^^;、感動もまた、一段と深 まります。再び、冒頭の雰囲気が戻ってきて、うねうねとした動きが続き、やがて、 最後のクライマックスへと向かって、全身全霊で、その喜びを力強く賛えるかのよう にして、楽器が加わり、音が膨らんでいきます。そして、最後は、はちきれんばかり の勢いで、終っていきます。何だか、これだけでも、もうお腹いっぱい、という感じ の演奏でした。団員さん達も、満足げなお顔をしていらっしゃるし、オケの中(2nd Violinの後ろ、Hornの前)で聴いてらっしゃる、ラーソンさんが、まぁ、すごい演奏 ねぇ、というような、にっこりとした笑顔を、団員さんに向けていらっしゃるのが、 この演奏の素晴らしさを表わしているというものなのでしょう。

 第2楽章は、穏やかな牧歌調の曲、各管楽器の音色が、優しく響いてきます。特に オーボエやクラリネットの音色が、他ではちょっと味わえないような感じに聴こえ て、いいなぁ、と思います。花咲く野山といった風景をうまく描写できていると感じ ます。こんなところで、愛する人と愛を語れたら…等と、つい、余計なことを考えて しまうのでした…(^^;

 第3楽章は、2楽章に引き続いて、同じような雰囲気を作っていきます。ここでも 各楽器が、森の動物達の声等を模写しているのが、面白く、また素敵です。中でも、 E♭クラの音色が妙に印象的ですね。が、一番、印象的なのは、舞台ソデから聴こえ てくるポストホルンでしょう。朝のしじまの中、静まりかえった森の中に、静かに響 き渡るホルンの音色、それはまさに、天上から聴こえてくるかのような、清楚さを 持っています。その安定した音色には、ほんと、感心しました。また、その舞台ソデ での演奏の音量調整をするために、ステージマネージャーの方(かな…?)が、ソデ への扉を曲に合せて開閉しているのも、どこか面白く、印象に残っています。(今回 の私の席は、2FのRB6という、まさに下手ソデの扉の正面なのです…)素晴らし い演奏は、素晴らしい演奏者だけでなく、それを支える素晴らしい裏方がいてこそ、 成り立つというものだ、ということを改めて実感したのでした。

 第4楽章、お待たせしました、のラーソンさんがすっくと立ち上がります。オーケ ストラの中から出てくる、そのお声は、とっても深みのある声で、言うなら、慈悲深 い、母なる声、とでもいうところでしょうか… 何故か、あのナタリー・シュトッゥ ツマンさんを連想してしまうのは、私だけかしらん… そして、そういう声が、オケ と一体となって響いてくるのです。それは、オケ全体をふわっと包み込み、さらに会 場全体を、その慈愛の中に覆い込んでしまおうというような感じで、しみじみと心の 中に浸み入ってくるのでした…

 4楽章が終るや否や、少年少女達がすっくと立ち上がり、「Bimm bamm…」と鐘の音 を歌い出し、第5楽章が始まります。やがて、女声合唱が加わってきますが、この シェーンベルク合唱団の皆さんの声もまた、素敵です。響きが見事に一つにまとまっ ていて、その透明感のある響きは、まさに「天使」と言うにふさわしいものでしょ う。特に、ソプラノの皆さん、声にハリがあって、いいなと思います。

 第6楽章、この曲全体の終結の部分です。弦楽が主体となる、アダージョのテー マ、ここに至って初めて、BPOの弦楽の素晴らしい響きを体感することになりま す。渋みのある、優しさがじわっとにじみ出てくるような、そういう音色をしている んですね。そのような音色で、この美しい曲を、たっぷりと歌われたら、もうたまり ません、ほろりとしてしまいます。それにしても、この曲は、5番交響曲の4楽章と 同じくらい、マーラーの音楽の中でも美しいものですね。そういう、この曲の魅力と いうものも、その演奏からはっきりと再認識させられます。やがて、管楽器も加わ り、神々しさが増してきて、ますます、感動は深まっていきます。そして、その神々 しい輝きの中に、クライマックスが築かれて、長大な曲の幕が閉じられるのでした…

 余りにも素晴らしすぎる…としか、言いようのない感動が、胸の中からむせび上 がってきます。大きな感動のうちに、私の生BPOの初体験は終ったのでした… 団 員達が退場した後でも、延々と続く大きな拍手、それに応えて何回も出てくるアバド さん、私も、いつになく興奮したような感じで、拍手を送り続けていたのでした…