らいぶらりぃ
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モナコ公国/モンテカルロ・バレエ

                                                                       
●日 時1998年10月29日(木)18時30分開演
●会 場神戸文化ホール・大ホール
●演 目プロコフィエフ/ロミオとジュリエット(全3幕)
●出 演芸術監督・振付:ジャン=クリストフ・マイヨー
演奏:ラファエル・サンシェーズ指揮東京ニューシティ管弦楽団
ソリスト:ベルニス・コピエテルス
     サンドリーヌ・カッシーニ
     フランシスコ・ナッパ
     クリス・ローランド
     ガエタン・モルロッティ
     ヴェロニク=ディーナ・ジャン
     オーレリア・シェフェール
     カロル・パストレル
     マウリツィオ・ドゥルーディ
     ニコラス・カーン
     パスカル・モラト

 昨年くらいから、オペラを生で見に出かけるようになり、今年は、サイトウキネン の「カルメル会の修道女の対話」や、ボローニャ歌劇場の「フェドーラ」等、とって も素晴らしい上演に恵まれているのですが、そんな私も、まだ足を踏み入れていない 世界がありました。…それが、バレエ、なんです。何か難しそう、オペラと違って、 歌も台詞もないし、言葉がないから、分からないのではないか、といった印象があっ たのですが、この際だから、と思い切って、初めてバレエを見に行ってきました。そ れも、バレエの本場、モンテカルロのバレエ団です。いきなり、こんな名門の公演を 見ていいのかしらん…(^^;

 演目は、お馴染みの「ロミオとジュリエット」。プロコフィエフの作曲ですね。曲 だけは、何回か聴いたこともありますし、以前には、芦屋交響楽団の素晴らしい熱演 に感動した覚えもあります。どの曲にしても、それぞれの描写している場面がはっき りと分かるような素晴らしい音楽なのですが、その上に乗って、舞台上にバレエが展 開されるのです。実際に見てみて、その美しいこと! 言葉や歌がなくても、人間の 体だけも、これだけ、感情表現することができるのだということを、改めて実感させ られました。

 幕が上がると、舞台の上は白一色です。白色の床に、白色の壁が立っています。舞 台奥の真ん中の辺りには、ゆるやかなスロープのようなものが設けられていて、舞台 の奥へと周りこんでいます。また、上手寄り或は下手寄りの所に立っている壁は、す るすると動いて、場面に応じてその立ち位置を変えていくという、柔軟な作りにも なっています。この簡素な風にも見える舞台装置が、これから展開するドラマを、よ り鮮明に表していくのです。この演出はなかなか素敵だと思います。

 そして、最初に登場してくるのが、ロレンス神父。2人の従者と一緒に出てきます が、この彼の役割って一体、何なのだろう、と疑問にも思います。最初から最後ま で、一貫して出てくるのですね。そして、出てくる度に、悲しそうな表情を見せるの です。それは、あたかもこの悲劇を最初から知り通しているかのようでもあります。 ということは、彼はこの物語りの語り役、ということなのかしらん、とも思うので す。言うなら、「マタイ受難曲」等の福音史家のような感じかしらん…

 バレエ自体の流れはとてもスピーディです。キャピレット家とモンタギュー家との 両家の面々が登場してきては、ストーリーを展開していきます。見ていて、全く飽き ることがありません。しかも、音楽の上に乗って、言葉以上に雄弁に、それぞれの登 場人物の心情が踊りによって語られていきます。ジュリエットと乳母とのやりとり や、母親と とのやりとりなども、なかなか説得力があります。そして、ジュリエッ トとパリス伯爵の婚約を祝うパーティの会場、そこで知り合うロミオとジュリエッ ト、そこで芽生える愛を、Vnがまた美しく歌っていきますが、そこでの踊りもま た、美しいですね。やがて、有名なバルコニーの情景の場面、奥のスロープの部分が ぐぐ〜っと上へ上がっていって、その上にジュリエットが立っています。近寄るロミ オ、彼の告白のダンスもまた、素敵ですし、それに、お互いを認め合い、ジュリエッ トがスロープから降りてきての、2人の愛の踊り何と美しいこと! 音楽ももちろ ん、素敵なのですが、この音楽の上で、こんなにも素敵なダンスが展開されるん だぁ、と思わずため息をしながら、見とれていました…

 2幕になると、さらにドラマティックに物語は展開していきます。ここでの見どこ ろは、何と言っても、両家の争いの場面でしょう。ティボルトとマーキュシオとの決 闘のシーン、音楽はアップテンポで、狂おしいまでの感情の高ぶりを表現しています が、ついにマーキュシオが死んでしまう辺りから、舞台上の人々の動作が、スロー モーションになっていきます。ティボルトの一撃がマーキュシオを刺し、マーキュシ オがばたりと倒れ、そこから後は、もう、両家の面々が入り乱れての騒動。音楽もま すます激しくなり、そして、ついに、ロミオが仇を討つべく、ティボルトを倒しま す。Timpが15連発の打撃音を叩き、ついに、ティボルトも死にます。この全て の動作が、スローモーションなのです。音楽の動きとは全く反対なのですが、そのこ とが、逆に、この場面のドラマティックさを引き立てています。この辺りは、マイ ヨーさんの演出の素晴らしさですね。

 3幕の最初は、ロミオがジュリエットの部屋で一夜を明かすシーン、ジュリエット は、最初、ロミオに、ティボルトを殺したことに対して、平手討ちを食らわします が、しかし、すぐにしっかと抱き合う2人、愛を確かめ合います。やがて、2人は別 れていき、悲しみに暮れるジュリエットに、ロレンス神父が、仮死薬を手渡します。 この時の彼の表情には、既にこれから起こる悲劇の匂いが強く表われているようで す。薬を受け取り、仮死状態に陥るジュリエット、葬儀がすみ、そこへロミオがやっ てきて、悲しみのあまりについに自ら命を絶つ… この時の「うっ」という声が、そ の悲劇性をより引き立てているようにも思います。そして、目覚めるジュリエット、 ロミオの死を知り、彼の短剣で胸を刺して、死んでいきます。舞台の端には、ロレン ス神父が、背を向けて立っています。やはり、彼は、この悲劇の語り手だったので しょうか…

 悲劇の内容はよく知っていても、初めてバレエという形態で、この悲劇を見終えて みて、改めて、シェークスピアの原作の素晴らしさやプロコフィエフの音楽の美しさ を感じ取ることができました。また、バレエが決して難しくないものであるというこ とも分かったような気がします。さ、次は何のバレエへ行きましょうかねぇ…(^^;