らいぶらりぃ
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関西歌劇団創立50周年記念・日伊共同製作

グランドオペラ「アイーダ」

●日 時1998年11月25日(水)18時30分開演
●会 場フェスティバルホール
●演 目ヴェルディ/歌劇「アイーダ」
●出 演アイーダ:栢本淑子
ラダメス:コンスタンティン・ニーカ
アムネリス:荒田祐子
アモナスロ:南川良治
ランフィス:井上敏典
エジプト国王:岸俊昭
巫女:津波陽子
伝令:大谷幸宏
ティツィアーノ・セヴェリーニ指揮関西フィルハーモニー管弦楽団
関西歌劇団/関西歌劇団創立50周年記念合唱団
日本バレエ協会関西支部
四条畷学園少年少女合唱団
演出:ステーファノ・モンティ

 関西歌劇団の創立50周年を記念しての公演は、「アイーダ」。かつては甲子園球 場での野外公演ということもしたことがあるそうですが、それだけの大作を、どんな ふうに見せてくれるか、が楽しみでした。

 最初は序曲。何か、弦の響きがうすいなぁ、と思っていると、案の定(?)、オケ は関西フィル。この前の定期では、それなりに聴けたのですが、どうも、今回はアラ が目立つようです。いまいち、クリアに響いてこない、という不安を抱きながら、幕 が上がります。

 幕が上がって、目を引くのは、大きな舞台装置。舞台のちょうど、奥行きの半分く らいのところでしょうか、大きな壁が立っています。真ん中に大きな三角形の穴が空 いていて、そこを埋めるように、壁の向こう側に、大きな三角形の板が2枚、合わ さっています。これが、今回の公演の演出のポイントなのです。この三角形を中心に して、舞台上には、常に三角形が見えているのです。特に印象的なのは、2幕1場か ら出てくる、三角形の大きな鏡。2幕1場のアムネリスの広間で召し使の女性達がた むろっているのを、この鏡がちょうど斜め上から写し出していて、より立体的に、そ の艶めかしい雰囲気を出しているのです。この三角形という形は、エジプトの象徴た るピラミッドを表わしているのでしょう。確かに、壁とかには、エジプトらしい装飾 が施されてはいます。が、具体的な形として、あまりはっきりとは、エジプト、とい うものを表現せず。このような象徴的な形の枠によって、その雰囲気を伝えようとい う演出は、なかなかお洒落とも思います。それに、三角形=三角関係、ということ で、この物語そのものをも、象徴しているわけですな。素敵な演出です。

 1幕1場の聴きどころは、何と言っても、ラダメスの歌う「清きアイーダ」。まだ 幕が上がって間もない頃に歌われるので、多少、緊張もしていたのでしょうが、ニー カさん、なかなか美しい声を聴かせてくれます。今回が初来日とのことですが、その 声は、派手さこそありませんが、とてもクリアな響きで、繊細さを感じさせるような ものですね。カレーラス系の声、と言うか、どちらかと言うと細めの線で、ぴぃんと 張った響きを聴かせる、という感じの声、ですね。この魅力は、後半の3幕以後にな ると、さらに発揮されていくのです…

 一方のアイーダの栢本さんは、どちらかと言うと、ふわっとした響きの声ですね。 アイーダというと、どうしても、ドラマティックで、激しく燃えるような歌唱を期待 してしまうのですが、栢本さんの声は決して、そのようなドラマティック性を持って いるというわけでもありません。そういうイメージで聴いてしまうと、おそらく、物 足りなさを感じてしまうのでしょう。けれど、そのどちらかというと細い線で、しっ とりと聴かせる声は、後半、3幕でその魅力をたっぷりと発揮していくのです…

 また、アムネリスは、荒田さん。こちらはなかなか堂々としたもので、貫禄という ものも見せながら、実にたっぷりと歌っています。相変わらず、安定してはります ね。さすが、です。

 …と3人がそろった後、1幕1場の最後で歌われる合唱、兵士達が出陣していくの に歌うわけですが、これが、何とも… で。(--; 男声合唱と言うにしては、とても 情けないくらいに、響きもないし、全然まとまっていない、のです。全員がばらばら と歌っているだけ、という感じで、およそ、音楽というものを、そこには感じること ができません。おいおい… とこの先、2幕2場の凱旋の場面も心配になってくるの ですが… その問題の2幕2場になり、トランペットが高らかに凱旋のファンファー レを鳴らし、凱旋の喜びを歌う合唱が始まります。…テンポもちょっと速めかしら ん、とも思うのですが、問題の合唱は、ここでもやってくれますねぇ。これほど合唱 らしく聴こえない合唱というのも珍しいのではないでしょうか。男声なんか、ほん と、学生合唱団でももっとましに歌えるぞ、と思うくらいのもの。支えのない声、 ピッチの定まらない音、一つに決してまとまることのない響き、…何だかなぁ、とあ まりの出来に、情けなくなってきます。もうちょっと頑張ってもらいたいものです。

 ま、文句はそれくらいにしておきまして。3幕になると、アイーダとラダメス、ア モナスロの3人のやりとりが展開されます。この場面で、アイーダとラダメスのそれ ぞれの栢本さんとニーカさんの魅力というものが十二分に発揮されるのです。ここで は、栢本さん、アイーダを、一人の女性として、祖国への想いと恋人への想いとの狭 間で苦しむ女性として、弱き女性として、歌おうとしていたのではないでしょうか。 この場面でのラダメス、或は父親のアムナスロとのそれぞれのやりとりは、ドラマ ティックに展開してもいいのでしょうが、むしろ、リリックに歌われるべきなのでは ないかしらん… そのような考えに基づいて、栢本さん、とてもリリックに歌ってい ました。彼女の声には、このような歌い方が合いますね。あくまでも己の愛を貫き通 す、強い女性としてのアイーダでなく、もっと、我々に近い存在としての、周りの思 惑等によってその運命を決められてしまうような、弱い一人の女性としてのアイー ダ、栢本さんは、このようなイメージのアイーダをとてもよく表現していたと思いま す。また、ニーカさんのラダメスも、彼女によく応えていて、その細い線の響きが、 やはりリリックさを表現していました。…グランドオペラと言うて、ドラマティック な面だけが強調される「アイーダ」ですが、その中には、このようにリリックで詩的 な部分というものもあるのですね。そういう魅力を改めて見つけることができたので した…

 最後の4幕の2場は、アイーダとラダメスが死へと旅立つ場面ですが、ここの演出 もなかなか素敵ですね。地下牢ということが分かるように、中央には、例の三角形の 鏡が置かれていて、そこに写っているのは、床に置かれた幾何学模様。これが、下へ とくぼんでいるかのようにも見えるのが、不思議です。そして、2人が共にここで死 のうということになる時、例の壁の向こう側には、1幕2場の神殿にも使われていた 大きな階段が置かれ、そこをアムネリスが上っていきます。そして、その頂上の部分 のみが大きな三角の窓から見えるようにして、残りの部分を板が覆い隠すように動い てきます。ちょうど、神殿の部分が、地下牢の真上に、菱形の形の窓からのぞくよう な形になります。これで、地下の場面と地上の場面とを区別しているわけですね。そ の対比が素敵です。そして、最後、2人は、舞台中央から奈落へと降りていくのでし た…

 50周年記念と言うて、どれだけ充実した内容のものかと期待していたのですが、 実際のところ、ちょっと期待外れ…という感は拭えません。と言うのも、やはり、合 唱の出来の不味さが一番の要因です。合唱だって、このオペラにおいては、重要な役 割でしょう。それが、あのような不出来では、どうしても、満足することはできませ ん。舞台装置や演出が素敵だっただけに、その点さえ良ければ、と残念でなりませ ん。