らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

ハンガリー国立交響楽団(大阪公演)

●日 時1998年11月29日(日)14時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演小林研一郎指揮ハンガリー国立交響楽団
ソプラノ:菅英三子
アルト:伊原直子
ハンガリー国立合唱団/武蔵野合唱団
●曲 目マーラー/交響曲第2番ハ短調「復活」

 今年は、何か、マーラーの演奏会が多いようですが、今回は、コバケンさん指揮の ハンガリー国立響で、2番の「復活」です。

 オーケストラの音色がとてもクリアなのは言うまでもないことですが、それに加え て、コバケンさんの情熱あふれる指揮から繰り出される音楽の、表情の素晴らしさ!  感動しっぱなしの演奏でした。

 1楽章冒頭、弦のトレモロと低弦の不気味なテーマが出てくるだけで、思わず背筋 がぞくっとします。音に何の淀みもなく、それが、まさに「死」に向かい合うかのよ うな説得力を持って、こちらに響いてくるのです。木管の音も重く響いて、その不気 味な雰囲気がよく出ています。やがて、そういう中へさぁっと光がさすように、第2 テーマが始まります。この弦の音も、何か、噎び泣くかのような美しさで、切々とし たものが伝わってくるようです。そして、展開部へ、生と死、光と闇とが交錯するか のように、音楽は複雑に絡み合いながら、進んでいきます。そのどこを取っても、音 楽は常に前へ前へと進んでいきます。そして、そういう、非常に前向きな姿勢から来 るのでしょうが、演奏者の想いというものが、びんびんに伝わってくるんですね。知 らず知らずのうちに、身を乗り出してしまうのでした… いくつもの山を乗り越え、 苦しみを乗り越えていき、やがて、終結部へ。嵐のような激しさが鳴り響いた後、静 けさの中に消え行くようにして、終わります。ここまでを聴いただけでも、十分に聴 き応えあり、ですね。

 2楽章は打って変わって、穏やかな楽章。木管に表れるテーマが美しいですね。そ のやわらかな音色には、うっとりと聴き惚れてしまいます。マーラーの交響曲には、 このような美しい楽章が入っているから、いいですね。ほっとするというか、とても 心が安らぎます。(他の楽章が難しいだけに、なおさら、ですね。)

 3楽章、この楽章も基本的には、穏やかな楽章ですね。けれども、動的な部分と静 的な部分との対比があったり、劇的な盛り上がりを見せるところもあったり、となか なか、忙しい楽章でもあります。(^^; 木管に表れるいろいろなテーマは、どこか鳥 のさえずりにも似ていたりして、どこか、ほっとしますね。しかし、最後の方になる と、いきなり、強烈なクライマックスが訪れます。これが、最終の5楽章への導線に なるわけで、その辺りは、さすが、マーラーの曲ですねぇ。このクライマックスも、 音の切れ味が実にシャープで、思わず、びくっとしてしまうのでした…

 4楽章、前楽章の終わりで、伊原さんがすっくと立ち上がり、前楽章の音が切れる と、すぐに4楽章を歌い出します。「O Roschen roth!」で始まる、”子供の不思議な 角笛”の詩は、「死」というものを、「神の光の元へ導かれること」のように捉えて いるようですが、そういう深い内容の詩にふさわしく、伊原さんの声も、とっても深 い響きで、しみじみと心の中へと入り込んできます。クワイヤー席の一番前に立って はるのですが、そこから、その深い響きがホールをすっぽりと包み込んでいくのが、 はっきりと分かります。その感動のうちにこの楽章は終わります。

 と、そのまますぐに5楽章、いよいよ、本題ですな。激しいファンファーレの後、 不安げな感じの曲想が続き、その中から次第に、運命に立ち向かい、闘おうとするか のようなテーマがいくつか出てきては消えていきます。しかし、それらが盛り上がっ てきて、行進曲風に勢いづいて、力強く進んでいこうというところ、この辺りの盛り 上げ方も実にドラマティックですね。金管の音も、実にクリアでシャープで、ホール いっぱいに、かぁん!と鳴り渡ります。そうして、苦しみをやっとのことで乗り越え てくると、平安な音楽がしばし続いた後、いよいよ、「復活」の合唱が始まります。 アカペラで静かに「Aufersteh'n」と始まる、その合唱の厳かなこと! ハンガリー国 立合唱団と武蔵野合唱団との合同合唱団ですが、実にきれいにまとまっています。p でもしっかりと支えのある声で響かせているのが、はっきりと分かります。それに、 ベースがごぉっと鳴っているのが聴こえるのも素敵です。菅さんのソプラノと共に、 感動的に「復活」を歌い上げていきます。この部分、とても美しくて、それは天上の 音楽のようにも聴くことができますね。やがて、アルトとソプラノの独唱が静かな中 にもドラマティックに音楽をつないでいき、次第に、苦しみを乗り越え、「死」を乗 り越え、「(永遠の)生」を得る、という、勝利的な雰囲気に満ちてくると、合唱も 力強く、高らかに、その喜びを歌い上げていきます。その歓喜の極み、頂上に至っ て、曲は最高潮のクライマックスを迎えます。合唱が鳴り、教会の鐘が鳴り、オルガ ンがごぉっと鳴り、オケも総出で鳴りまくり、もう、会場いっぱいが、その歓喜に包 み込まれて、神々しい光の中にいるような気にさえなるのでした… もう、感動で胸 がいっぱいになり、最後の和音が消えると同時に、無我夢中で拍手をしていたのでし た。(^^;

 期待通りの、素晴らしすぎる演奏でした。ここまで、マーラーの音楽に真正面から 向かい合って、そこから得るものを完全に自分のモノとして、最大限に表出してい く、小林さんの指揮は、いつものことながら、さすがですね。興奮はしばらくやまず に、私もずぅっと拍手を送り続けていたのでした…