らいぶらりぃ
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レニングラード国立歌劇場オペラ「椿姫」

●日 時1998年12月5日(土)17時開演
●会 場フェスティバルホール
●演 目ヴェルディ/歌劇「椿姫」
●出 演ヴィオレッタ・ヴァレリー:エレーナ・モロゾワ
アルフレード・ジェルモン:ルスラン・ジネヴィッチ
ジョルジュ・ジェルモン:ニコライ・コピロフ
フローラ・ベルヴォア:ナタリア・エフスタフィエワ
アンニーナ:タチアナ・ドゥムニコワ
ドフォール男爵:アレクサンドル・マトヴェーエフ
ガストン子爵:アレクサンドル・ペトロフ
医師グランヴィル:カレン・アコポフ
アンドレイ・アニハーノフ指揮
レニングラード国立歌劇場管弦楽団&合唱団
芸術監督・演出:スタニスラフ・ガウダシンスキー

 私にとりましては、今年最後のオペラとなります。が、チケットそのものは、発売 と同時にGETしていましたので、随分と長い間、待たされたような感じもしますな …

 さて、ここのオーケストラに関しては、2年前に来日した時に、オケだけ聴いたこ とがありまして、素晴らしい演奏をしてくれたことを思い出します。あの時は「悲 愴」。輝かしいサウンドが感動的でしたね… そのオーケストラの序曲から始まるわ けですが、弦の響きがこの上なく美しいです。混じりけのない、純な音が、すぅっと 響いてくるのですね。これだけでも、わくわくとしてきます。そんな美しい序曲に 乗って、舞台の上では、暗幕の前で、ヴィオレッタが花を台に生けて、パーティーの 用意をしているようです。この辺りは、あまり凝った演出にはなってないようですね …(^^;

 舞台の上は、どこか暗い感じがします。天上からは、シャンデリア(と言うても、 照明そのものは、蝋燭ですね…)が下がっており、華やかな感じは出ているのです が、舞台全体の照明がちょっと落とされているのでしょうか、それは、何か、これか らの悲劇を暗示しているかのようなふうにもとれます。周囲の女性陣が、白の衣装な のに対し、ヴィオレッタは、ここでは、黒の衣装を着ています。これは、すなわち、 高級娼婦という身分を表しているということなのでしょうか… けれども、これが、 後の2幕1場のフローラの家での舞踏会では、逆転して、他の女性陣は黒の衣装、 ヴィオレッタは白の衣装となるのです。つまり、真の愛に目覚めた一人の女性とし て、ここでは現われてくるわけで、その愛に苦悩している様は、また、白=死装束と いうイメージからも、くっきりと描かれているように思います。この黒と白の対比こ そが、或は、演出の意図なのかしらん…

 演出に関して言えば、もう一つ、妙に印象的なのは、1幕2場のパリ郊外で2人の 生活している家の背景です。郊外の美しい森の緑が描かれているのですが、これが、 何か、妙に光っているんですね。鮮やかすぎるくらいの緑で、わざとらしい程の鮮明 さを放っているのです。それは、つまり、この場面=2人の幸せな生活というもの は、あくまでも夢の中のこと、非現実なこととして、描写しているということなので しょう。だからこそ、この緑の前で展開する、ヴィオレッタとジェルモンとのやり取 りというものが、よりリアリティを持ったものとして、くっきりと描かれている、そ のようにも感じました。

 さて、ソリスト陣についてですが、ヴィオレッタのモロゾワさんは、どちらかと言 うと、リリックな歌唱を聴かせてくれますね。実は、最初のうちは、ちょっと… と 思ってもいたのです。1幕1場での、どっちかと言うと、コロラトゥーラ的な技巧を 要するような部分は、ちょっと辛そうにしてはりましたし、特に最後の「ああ、そは かの人か…花から花へ」も、いまいち、乗り切れてないような風にも聴こえたので す。それが、次第に調子をあげてきたのか、1幕2場でのジェルモンとのやりとりに なると、なかなか、ぐっと訴えてくるものが出てきたのです。高音になると、ちょっ と押すような感じもするのですが、それでも、しっとりとして、説得力のある音色 は、なかなか素敵です。そして、やはり最期の場面を忘れてはいけないでしょう。 「さようなら、過ぎ去った日よ」の何とも美しいこと。この辺りは、お涙ちょうだい のストーリーのせいもあるのですが、結構、目をうるうるさせながら聴いていたので す。それも、これだけの歌唱があればこそ、です。そして、改めて、この役の難しさ というものも、実感したのでした。最初はコロラトゥーラ的な要素もありながら、後 は、リリックでないといけないという、要求されるものは多いだけに、魅力的な役で あると同時に、難しい役でもあるのでしょうね…

 一方のアルフレードは、ジネヴィッチさん。割と小柄な人ですね。その小さな体か ら響く声は、最初のうちは、何かが詰まっているような、あまり、かぁん!と響いて くるというものではなくて、ちょっと…と思ってしまうのです。が、こちらも、次第 に調子を上げてきたのか、後半になるにつれて、段々と声も前へ飛んでくるようにな りましたね。特に2幕2場の二重唱「パリを離れて」は、モロゾワさんのヴィオレッ タと一緒に、かなりの説得力のある、魅力的な演奏でした。欲を言えば、もうちょっ とだけ前へ飛んでくるような響きの声であったらな…等とも思うのですが…

 また、ジェルモンのコピロフさん、彼のどっしりとした響きのバリトンは、今日の 公演の中で一番、印象に残っています。1幕2場でのヴィオレッタとのやりとりの何 とも説得力に満ちていること! あれだけの響きの声で、滔々と説得されたら、別離 を拒んでいる気持ちも揺らぐというものでしょうね… もちろん、その後のアリア 「プロヴァンスの陸と海」もとっても素敵でした。深く渋みのある響きで、まさに父 親としての貫禄たっぷりの声で、しっとりと歌うアリアは、実に見事なものでした。

 その他に印象的な場面は、ラストのシーンでしょうか。ヴィオレッタが静かに息を ひきとると、舞台は暗くなって、そこへ上からすぅっと、先にも述べたシャンデリア が降りてきます。それが、暗闇の中に、蝋燭の灯火だけが浮かび上がり、ちょうど、 ヴィオレッタを弔うための灯となって、幕が降りるのでした… 思わず、レクイエム を歌いたくなるような、悲しみと静けさの中に、つい涙を誘われてしまうのでした…

 …と、オペラの定番(?)である「椿姫」を初めて生で見たわけですが、素晴らし い演出と演奏で、存分に楽しむことができたのでした。それにしましても、今年は、 いいオペラが多かったですねぇ…