らいぶらりぃ
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1998神戸学院大学Green Festival第140回

仲道郁代ピアノリサイタル
〜ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲連続演奏第3回

●日 時1998年12月12日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演ピアノ:仲道郁代
●曲 目ベートーヴェン/ピアノソナタ第10番ト長調Op.14-2
        ピアノソナタ第11番変ロ長調Op.22
        ピアノソナタ第12番変イ長調Op.26
        ピアノソナタ第13番変ホ長調Op.27-1
        ピアノソナタ第14番嬰ハ短調Op.27-2「月光」

 恒例の郁代さんのベートーヴェン・チクルスも3回目となりました。今回の曲は、 ベートーヴェンが初期の段階を抜けて、充実の中期へと向かう過程を追うことになり ます。

 第10番から第14番までということですが、中でも、私の一番のお気に入りは、やは り、「月光」です。かつて、自分でも弾こうと挑戦したことはあったのですが、あの 怒涛のような3楽章には、なかなか太刀打ちできず、結局、弾けないままに、今日ま で至ってしまってます…(--; その「月光」を、郁代さんのピアノは、いつものよう に、一つ一つの音を丁寧に扱いながら、奏でていきます。1楽章の幻想的な雰囲気 は、とっても美しく表現されていて、素敵でしたねぇ。2楽章もコンパクトながら、 かっちりとまとめあげていて、そして、3楽章。それまでとは打って変わって、情熱 いっぱいの激しさが、郁代さんのピアノにも表われてきます。それでも、決して、力 まかせに弾いたりするようなことは、決してなく、一つ一つの音を大事に押さえてい きながら、fになるような部分では、瞬時にぱっと力を入れるようで、変に力むよう なこともないんですね。聴きながら、何故か、先日聴いてきたゲルハルト・オピッツ さんのピアノを思い出してしまいました。オピッツさんのは、ドイツの正当派と言わ れるだけの演奏なのですが、それも、やはり力まずに、自然な感じで音楽を流してい くというようなものなのですね。それと同様のことが、郁代さんの演奏にも言えるの ではないかしらん、と思うんです。もちろん、ドイツ正当派と言われるような演奏と は多少、違いもあるでしょう。むしろ、日本人好みの、日本人の感性での表現の仕方 というものがあるわけで、それを、郁代さんのピアノは、見事に聴かせてくれたよう な気がします。

 「月光」と並んで、私の好きな曲は、第12番。何故か、私も、この3楽章だけ弾い たりしますが(^^;、この葬送行進曲は、結構、大がかりなものですよね。郁代さんの ピアノも、厳格な雰囲気を出しながらも、しかし、淡々と流れていきます。曲自体 は、割と堂々とした感じのものだと思うのですが、そういう堂々とした様をあまり前 面に押し出してこないで、変にドラマティックすぎずに、静々と行進が続いていくと いった感じの演奏なんですね。その落ち着いた様には、好感が持てます。2楽章や4 楽章も、割とテンポの速い曲ですが、これらも、あまり力任せに弾くのでなく、全て の音を引き立たせるようにして弾いてはるのが、さすが、ですね。

 「月光」と対をなす第13番も、「幻想曲風ソナタ」の名前のとおり、幻想的な雰囲 気に包まれた曲ですね。1楽章から4楽章までずっと切れ目なく続いていくのです が、1楽章〜3楽章は、優しさに満ちた曲で、4楽章が一番のクライマックス。前半 でたっぷりと歌わせておいて、それを、最後で、一気に山場を築き上げる、その演奏 の組み立て方も、無理のないもので、聴いていると、あくまでも自然とそのように盛 り上がっていくようになっているのが、いいですね。

 もちろん、その他の第10番や第11番も素敵な演奏でした。こちらの方の2曲は、割 と初期の雰囲気を残している曲ですね。上までに述べた3曲とはちょっと違う雰囲気 を持っていますが、そういうった点も、きちんと表現しわけられていました。

 しかし、ベートーヴェンのソナタをこれだけ立て続けに弾く方も、さぞやお疲れの こととは思いますが、聴く方もまた、なかなか大変なものですなぁ…(^^;