らいぶらりぃ
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ルーマニア国立歌劇場「カルメン」

●日 時1999年6月1日(火)18時30分開演
●会 場神戸国際会館こくさいホール
●演 目ビゼー/歌劇「カルメン」
●出演等カルメン:アグネス・バルツァ
ドン・ホセ:ルイス・リマ
エスカミーリョ:イオルダケ・バサリク
ミカエラ:ミオアナ・コルボズ
スニガ:ポンペリ・ハラスアヌ
モラレス:ヴィチェンティウ・タラヌ
フラスキータ:ミハエラ・スタンチウ
メルセデス:ドリナ・ケシェイ
ダンカイロ:ニコナエ・アンドレスク
レメンダド:フローリン・ディアコネスク
ラシュヴァン・セルナット指揮
ルーマニア国立歌劇場管弦楽団/合唱団/バレエ団
まつぼっくりならまち少年少女合唱団

 神戸の街にまた新しいホールができました。と言うか、懐かしいホールが帰ってき た、と言うべきでしょうか。その名も「神戸国際会館」。今を経ること約50年、戦 後の復興のシンボルとして、三宮のど真ん中に、堂々たるホールとして誕生して以 来、神戸を代表するホールとして、約半世紀の間、神戸の街に君臨してきていたので す。それが、あの大震災で倒壊してしまい、全面解体の目にあったのは、神戸の文化 のシンボルが消えるようでもあり、何とも寂しい思いがしたものです。私自身、この ホールで、ちょうど震災の1か月前に、ふとしたことで誘われて「第九」を歌ったこ ともあったりして、そういう思い出の場所が消えてしまったことは、ショックでし た。

 しかし、震災から4年を経て、再び、同じ場所に、全く新しいホールとして「国際 会館」が帰ってきたのです。商業施設や事務書等も入っている複合施設になっている 建物の、3F〜6Fくらいの部分が、大ホールになっているのです。その中は、以前 のホールを知る者の目から見ると、前のと全く違う、とっても奇麗なホールになって います。客席は3階席まであり、空間をたっぷりととってあり、席もゆったりとして いて、それだけでも随分と落ち着くことができます。ロビーもガラス張りになってい て、明るく広く、とてもお洒落です。舞台も見た感じでは、割と広く、オペラのよう な大がかりな舞台装置などを必要とするものでも、十分に対応できそうです。多目的 ホールではありますが、音響もそれなりにいいようで、いろんな外来のオーケストラ やオペラ等を迎えるのにも、不足はないでしょう。しかも、三宮の駅から徒歩3分と いう、便のよい所に立地しており、これはまたとないホールです。(個人的には職場 からも徒歩3分というのが嬉しかったりするのですが…^^;)

 さて、そのオープン記念公演に、今回、初来日するルーマニア国立歌劇場、何と言 うても、目玉は、カルメン役のバルツァでしょう。私にとりましては、一昨年の2月 にシンフォニーホールでリサイタルを聴き、また、同じ年の6月に東京でのスーパー オペラを聴き、それ以来になります。特に、後者では、ホセ・カレーラスとのコンビ で、「カルメン」の最後の場面だけ、抜粋で演じていたのが印象に残っています。ま さに、名コンビの作り出す「カルメン」に、ほんの一部分だけでも、酔いしれたので した。そして今回、遂に、あこがれのバルツァがカルメンを演じるのを、全幕通し て、生で見ることができるのです。これはもう、放ってはおけない、と、発売と同時 にチケットをGETしたのでした。ちょうど、同じ時期に来日する、チェコのブルノ 歌劇場の「カルメン」も気にはしていたのですが…(^^;

 話の筋は特に追いませんが、印象に残っていることを、順不同で書いてみましょ う。まず、気になったのは、オーケストラの音です。序曲からして、威勢のいい音が する…もんだと思うのですが、何だか、金管やパーカッションの音ばかりが飛んでき て、弦の旋律が聴こえてこないのです。最初は、ホールの音響の仕様なのかとも思っ たのですが、どうやらそうでもなさそうで、全体を通じて、弦の音が聴こえづらかっ たような気がします。第2幕でのジプシーの踊りの曲でも、クライマックスで、ヴァ イオリンが狂おしいまでにメロディを奏でる部分でも、やはり、管楽器の伴奏ばかり が耳に入り、いまひとつ、音楽的な盛り上がりに欠けるような感じはしました。それ に、アリアとかの伴奏でも、ホルン等の音が不安定だったりして、歌いづらそう…と 心配してしまうような部分もありました。もうちょっと丁寧な音楽づくりがされてい たらな、と思います。

 でも、合唱等の声楽陣は、それなりに健闘していたと思います。女工達の合唱もな かなかだったのですが、少年合唱の方が妙に印象的だったりします。(^^; 今回の来 日公演では、少年合唱は各地の地元の少年合唱団に賛助出演を依頼しているようです が、この神戸公演では、まつぼっくりならまち少年少女合唱団が出演していて、健闘 していました。周りの大人達に負けずに、声が通っていましたし、動きもスムーズ で、素敵でした。日本の子供達もよくやるなぁ、といったところです。(^^; けれ ど、大人の男声は、ちょっと、という感じもしました。「ハバネラ」のバックの合唱 の部分等で、テナーが妙に浮いて聴こえてきて、あれ…?と思ってしまうのです。微 妙にリズムもバラけてしまっていたような気もしたのですが、もうちょっと、響きが 集まっていてもいいように思います。

 一方、ソロの方はどうだったかと言うと、ミカエラのコルボズさんの声がもう ちょっと響いてくれば、と思います。ちょっと弱々しすぎるような感じで、3幕での アリアも、なかなか健闘していたとは思いますが、もっと聴かせてくれてもいいよう な気はしました。ちょっとオケの音に消されがちなように聴こえたのが、残念ではあ りました。また、エスカミーリョのバサリクさん、なかなかいい感じで響いてはくる のですが、それでも、欲を言うと、もっともっと堂々とした感じに響かせてもいいよ うな気はします。

 そして、ホセのリマさん、さすが、このホセを得意の役としているだけのことは あって、たっぷりと聴かせてくれます。ちょっと調子が悪いのかしらん、というよう な部分もあったのですが、それでも、女々しい(?)男としてのホセの役を存分に演 じきっていたと思います。最後でのカルメンとの切羽詰まったやりとりのところは、 かなりの迫真の演技でした。ついつい、バルツァの相手として、カレーラスを思い出 してしまうのですが、それでもどうして、カレーラスにも負けないくらい素晴らし く、この役を務めていたと思います。

 バルツァのことは改めて書くまでもないでしょう。いつものとおりの、すっごくノ リノリで、カルメンを、自由奔放で、セクシーで、攻撃的なまでに情熱的な女性とし て、十二分に演じ切っています。1幕で登場してくるや、舞台を縦横無尽に走り回 り、「ハバネラ」で思いっきりセクシーさをアピールし、と思いきや、女工達の喧嘩 のシーンでは、思いっきり攻撃的で相手にどついてみたり、2幕ではホセのために自 ら踊るという優しさを見せ…と、全てが見所、という感じなんです。しかし、一番の 見所は、何と言うても、4幕での緊迫感あふれる、ホセとのやりとりでしょう。先に も書きましたように、ホセ役のリマさんとのやりとりは、本当に素晴らしかったで す。”あんたになんか従わないわ、自由に、思いのままに生きるのよ”ということ を、台詞だけでなく、演技でも十分に表現しているのです。これこそが、バルツァの カルメンなのだ、ということをまざまざと見せ付けられたように思います。

 ところで、演出の方ですが、舞台上は割とシンプルなセットになっています。大き な台形状の台が、どん、と置いてあり、その真ん中が割れていて、そこから人が出入 りできるようになっているのです。1幕ではそこが兵営への入り口、2幕では酒場の 出入口、3幕では山の岩場への登り坂、4幕では闘牛場の出入口となります。シンプ ルな作りで、それぞれの場面を見事に作り出していて、その点は、さすが、と思いま す。また、いいなと思ったのは、2幕の最初で、舞台上はジプシー達の踊りが展開し ていく中で、その大きな台の上手側の部分で、ホセが牢から出ることを許されるシー ンが再現されていることです。話の流れをきちんと再現していくことで、全体の流れ も分かりやすくなりますから、こういう演出はいいことだと思います。

 全体的には、結構、主役の2人が際立っていて、後は割と普通…という気がしま す。決して悪いことはないのですが、主役にこれだけの素敵な歌手を起用しているの だから、他の部分でももって、聴かせてくれるものがあってもいいのではないかしら ん…と思うのです。でも、バルツァのカルメンを、この目で、しっかりと見ることが できて、とっても幸せなのでした…(^^;