らいぶらりぃ
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ヨーヨー・マ/愛と幻想のタンゴ

●日 時1999年11月18日(木)19時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演チェロ:ヨーヨー・マ
ヴォーカル:フリア・センコ
ピアノ:キャサリン・ストット
バンドネオン:ネストル・マルコーニ
ヴァイオリン:フェルナンド・スアレス・パス
ギター:オラシオ・マルビチーノ
ベース:パブロ・アスラン
●曲 目ピアソラ/現実との三分間
     ムムーキ
     カフェ1930
     ル・グラン・タンゴ
     孤独
     恐怖
     アディオス・ノニーノ
     3001年へのプレリュード
     チキリン・デ・バチン
     マティルデへの小さな歌
     南に帰る
     リベルタンゴ
     天使のミロンガ
     フガータ
     スール(南)、愛への帰還
     ミケランジェロ70
(アンコール)
ピアソラ/オブリヴィオン
     天使の死
     私の死へのバラード

 昨年は、初めから、チケットを買えないだろう、とあきらめていた、ヨーヨー・マ のリサイタル、今年は、シンフォニーでは、2回、公演があります。1つは、最近発 売されたアルバムと同じく、コダーイの無伴奏等のプログラムのもの、もう1つは、 昨年来話題の、オール・ピアソラのプログラムのもの。買う時は、どっちにしよう、 と悩んだのですが、やはり、妻と一緒に行くなら、聴きやすいピアソラの方がいい、 ということで、発売当日、妻と2人で共同戦線を張り、ようやくのことで、チケット をGETしたのでした。それにしても、すぐにチケットが売り切れてしまう、その人 気の凄さには、ただ驚くばかりです。

 さて、演奏会の方ですが、かのヨーヨー・マさんを生で見るのは、初めてでありま す。ステージに登場してきたマさんを見て思うのは、格好ええけど、穏やかで優しそ うな人、という印象。ちょっと前には、アメリカで、愛機のチェロをタクシーに置き 忘れる、なんてことも報じられていましたけれども、どこか、そういう愛嬌みたいな ものを感じさせながらも、独特の雰囲気というものがありますね。そのマさんの弾く チェロ、さすがに、よく歌っています。ピアソラの音楽を、実に朗々に明快に歌い上 げていきます。それは、まさに水を得た魚のよう。これがマさんのチェロなんだ、と 思いながら、じぃっと聞き入るのでした。

 しかし、個人的には、どうも、バンドネオンの方が気になってしまって、つい、そ ちらの方へ目、いや耳が行ってしまいます。(^^; マルコーニさんは、現代屈指のバ ンドネオン弾きで、その妙技はまさに神業的と言えるでしょう。(ちょっと大袈 裟?)バンドネオンがしっかりとリズムを刻み、或いはメロディーを歌い、そうやっ て音楽全体を支えているからこそ、マさんのチェロも、たっぷりと歌うことができる のではないか、そんなふうに思ってしまうのです。ピアソラの音楽と言えば、やはり バンドネオンは欠かせないものでしょう。それがこのようにきっちりとした演奏をし ていくからこそ、その上に乗って、チェロも初めて朗々とした演奏ができる、という もの。だから、チェロとバンドネオンのデュオで演奏された「カフェ1930」は、まさ に2人のその息のぴったりと合ったものを見せつけられたような感じがしますし、 「恐怖」や「フガータ」等のフーガ形式の曲でも、お2人のお互いがしっかりと顔を 見つめながら演奏してはるのが、印象的なのでした。

 バンドネオン以外では、ヴァイオリンのパズさんや、ギターのマルビチーノさん は、ピアソラとも共演してきたという、名ベテランですし、また、ピアノのストット さんはマさんの伴奏者として活躍してはる方です。そういう、ピアソラをよく知った 人と、マさんのことをよく知った人とが、アンサンブルを組んでいて、いわば名人達 に囲まれているからこそ、余計に、マさんのチェロがしっかりと浮き上がって聴こえ てくるのです。マさんのチェロの素晴らしさだけではなく、ピアソラの曲が必要とし ている、チームワークの良さ、とでもいうものが、とてもよく出ていた演奏だったと 思います。

 ところで、今回は、後半の4曲(「2001年へのプレリュード」〜「南に帰る」) が、ヴォーカル入りの曲です。ヴォーカルのセンコさんも、なかなか素敵な声の持ち 主で、そのドラマティックな歌唱は、とても感動的です。特に印象深いのは、「南に 帰る」。マさんのチェロ1本の伴奏で歌い上げていくのです。チェロと歌とのデュオ という、何か新鮮な感じもする取り合せなだけに、そのシンプルなスタイルとは裏腹 に、スケールの大きな演奏に、とっても感動したのでした。

 「リベルタンゴ」や「天使のミロンガ」等の有名どころもしっかりと聴くことがで きて、実に楽しめた演奏会でした。そして、改めてピアソラっていいなぁ、と思いま す。そして、ヨーヨー・マさんのチェロだけでなく、機会があれば、今年は行けな かった小松亮太さんのコンサートにも、行ってみたいな、などと思ったりもするので ありました…(^^;