らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 1999年12月6日(月)18時30分開演 |
●会 場 | 尼崎総合文化センター・アルカイックホール |
●曲目&出演 | 廣瀬量平(更科源蔵詞)/混声合唱組曲「海鳥の歌」 |
指揮:松本洋平/客演ピアノ:谷岡久美 | |
プーランク/スターバト・マーテル | |
指揮:出野純一/客演ピアノ:中村文美 | |
鈴木輝昭(谷川俊太郎詩)/混声合唱とピアノのための「もうひとつのかお」 | |
客演指揮:本山秀毅/客演ピアノ:細見真理子 |
今年も後輩達の演奏会に行ってきました。最初は、行けるかどうか、不明だったの ですが、何とか、仕事を切り上げ、尼崎へと飛んで行ったのでした。懐かしのアルカイックホールに着くと、既に1曲目が始まっています。「海鳥の 歌」、何だか、とっても懐かしい曲ですね。3曲目の「海鵜」は、私も高校の時に、 校内の合唱コンクールでピアノ伴奏をさせていただいたりして、その他、「エトピリ カ」、「北の海鳥」、いずれも高校時代によく聴いた曲ばかりですね。正直なとこ ろ、案内状を見て、何をいまさら、このような曲を…と思ったのですが、でも、ロ ビーでモニタ越しに聴いた感じでは、なかなかたっぷりとした曲づくりをしているよ うで、素敵なふうにも聴こえます。さ、実際、今年の出来はどうなのか、ホールの中 へ入って、直に聴いてみましょう。
2曲目はプーランクの「スターバト・マーテル」。プーランクと言えば、何年か前 に、「人間の顔」を取り上げられて、なかなかの好演であったことは、まだ記憶に新 しいところであります。今回の「スターバト・マーテル」はどうか、とちょっと期待 していると… 出だしのベースの「Stabat mater…」が聴こえてこない… アポロン ではすっかりお馴染みの中村先生のピアノが、この曲の世界を作り上げているという のに、肝心のベースが聴こえてこないのでは、ちょっと興ざめです。ここ何年か、い つも思うのですが、どうして、ベースがこんなにも響いてこないのだろう…? そし て、ベースが聴こえないからか、音楽全体が、どうも散漫気味に聴こえてしまうので す。テナーも、響きがうすくて、弱々しく聴こえますし、全体で響きをうまくまとめ あげることができていないように思うのです。そして、それは、支えを保つことがで きていないからではないかしらん…? 音の高低によって、音がだら下がりになった り、或は力んで押し上げていたりしているのです。そういう支えのなさが、音楽全体 の流れを、フレーズごとにぶちっと切るようにしてしまい、いまひとつまとまりに欠 ける演奏に聴かせてしまっているのです。また、響きがまとまっていないことは、ラ テン語の響きが作れていないことにもよるのではないかしらん。歌詞が、とっても日 本語っぽい発音になってしまっているのです。「エ」の母音なんかでは完全に響きが だらんと開いてしまっていて、ラテン語の深い響きというものができていないのです ね。何とかドラマティックに作りだそうと頑張っているのは、分かるのですが、その 力みが、かえって裏目に出てしまっているような… 終曲でぱぁっと出てくるメ ジャーの和音の響きも、もっと神々しく出してほしかったのですが、仕方ないのかし らん… ちょっと悔いの残る演奏でした。
ところが、3曲目の「もうひとつのかお」、本山先生の指揮になると、俄然、別の 団のような感じもするほどの演奏を聴かせてくれます。本山先生と言うと、京都バッ ハ合唱団でのバッハの指揮、という印象も強いのですが、今回、扱う曲は鈴木輝昭さ んの曲。とても奇麗な曲ですね。日本語の持つ響きというものをよく生かされてお り、本山先生の指揮はそれを、巧みに引き出してくるようです。団員もそれにつられ てか、実によく声も出てきて、しかも、日本語をしっかりと聞かせてくれるのです。 さっきのラテン語は何だったのかと思うくらい、しっかりと日本語をしゃべってい て、おぉ、と思ってしまいます。聴いていて、何か懐かしく思うのは、この言葉=詩 が、谷川俊太郎さんの手によるものだから、でしょうか。谷川さんの詩自体が、やさ しい感じの言葉をうまく使っていて、その詩の持っている言葉のリズムというもの が、曲にもよく生かされているのです。私達自身も、ずっと昔ではありますが、谷川 俊太郎さんの詩に三善晃さんが曲をつけた「あなた」や「ぼく」に、直接、触れたこ とがあるだけに、その言葉のリズムや響きというものは、自分達の内にあるものとし て、体感することができます。曲も、何故か、妙に三善節らしきものもあるように聴 こえたりしたのは、気のせいかもしれませんが、実にうまく構成されていますね。劇 的なピアノがついたり、まったくのア・カペラの部分があったり、とても変化に富ん でいます。それは、この詩のテーマである「愛」というものを、ドラマティックに描 きたい、という作曲者の思いからきているのでしょう。それを、見事に仕上げて聴か せてくれます。無伴奏の部分からピアノが入ってくるところで、ピッチが下がってい るんじゃないか、などという不安も感じたのですが、それも大して気にはなりません でしたし、概ね、安定した演奏だったと思います。あと、特筆すべきは、ピアノの細 見さんの素晴らしさでしょう。以前、仕事の関係でお話などさせていただいたことも あったのですが、地元のとても優秀なピアノ奏者であります。コンクールにも出場し ている「はもーる神戸」や、その他、おかあさんコーラスなど、合唱の伴奏者とし て、高い評価を受けていらっしゃる方です。そのピアノが、曲を盛り上げるからこ そ、合唱の方も俄然、盛り上がるというもの。ましてや、本山先生の指揮ならでは、 です。素敵な演奏でした。
終演後、数少ない、顔見知ったOB諸氏(同年代のOBがあまり来ていなかった …)とお話をし、また、若くて元気な現役団員のロビーコールを見て、帰路に着いた のでした。年々、世代ギャップを感じるようになってくるのですが、それでも、アポ ロンは私達のかつていた合唱団であり、いわば、故郷のようなもの。今後もしっかり と見守っていきたいものです。