「・・軍需産業が“悪”であるという感覚を離れて、経済的な分析をしてみると分かりやすい。“次の戦争”の必然性が浮かびあがってくるからである。いかに欲深い実業家にとっても、利益以上に重大な関心事は、不況による社員の首切りと、それに続く倒産である。戦争によって急激に膨張した会社が、終戦と共に一転して、激しい不況に見舞われた。戦火による利益が大きければ大きいほど、兵器メーカーの工場では終戦による打撃が深いものとなった。世界有数の衣料品メーカーも、ほとんどが軍服などの大量生産によって大企業となってきた。商社も、そのほかの工業界も、ほとんどがこの例に漏れない。それでも軍需産業は、少なくとも兵器工場が即座に他の平和産業に移れないという点で特異な存在である。一旦、大きなメーカーが誕生すれば、労働者が生き続けるためには必ず次の戦争を引き起こす必要が出てくる。
こうして国際的な兵器カルテル(註:1901年、ユナイテッド・ハーヴェイ・スチール)が結成されたのは、戦争が国際的であるという自明の理から、自然な因果関係であった。敵国同士が仲良くカルテルを結んで、初めて意味が出てきたのである。これが大戦争を挑発する源流として、今日でも地球上に奔流している。1990年に、イラクのクウェート侵攻と中東の戦争が米ソ冷戦の終結と同時に起こった例を引き合いに出すまでもなく、軍需産業がある限り、人類はまだ戦争をする必要がある。少なくとも、戦争準備を進めなければならない。そのための口実は、どこからでも生み出すことができる。・・」
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