環六高速道路に反対する会ニュ−ス
No.9
1991年11月22日
第1回口頭弁論が開かれました
10月28日午前11時,東京地方裁判所103号法廷でいよいよ第1回の口頭弁論が開かれました.裁判長は中込秀樹氏です.原告側は代理人の弁護士と原告25名が出席した他,原告以外の会員(調停の申請人)やその他の関係者20名ほどが傍聴しました.一番広い法廷でしたので傍聴席を埋めつくすまでには至りませんでしたが,大勢の原告,傍聴者が詰めかけ,この裁判への関心の高さを示すことができました.被告側は法務省の訟務検事と建設省の役人約10名が出席した他,東京都と首都高速道路公団合わせて10名ほどが傍聴していました.
<法廷の経過>
裁判官3名が着席し,原告,被告双方の事務的な手続きがあった後,裁判長が被告側に「答弁しょをもっと早く出せなかったのか」と質問し,被告が「申し訳ございません」と謝る場面がありました.私たちが提訴したのは5月ですが,その訴状に対する答弁書が5ヵ月後の法廷当日になってやっと裁判所に提出されたもので,私たちもそれに目を通さずに法廷に臨まなければなりませんでした.
弁護士が私たちの訴えの要旨を陳述した後,原告本人2名の冒頭意見陳述が行なわれました.反対する会のS代表は将来に対する不安や,都や公団の不誠実な対応により提訴せざるを得なくなった事情を訴えました.また,O氏はそれまで全くの健康体だったのが環六近くにすむようになってから3年後のある日,突然ぜん息発作に見舞われ,大気汚染による公害病の認定を受けるまでになってしまい,普通に呼吸して普通に生活することができない苦しさと悔しさ,そしてこの道路建設に対する怒りを訴えました.原告の真剣な訴えに対し,裁判官も身を乗り出して聞き入っていました.なお,S氏の陳述書は後に掲載してあります.
被告側は,拡幅で土地・建物などを失う原告16名以外,つまり道路公害によって健康で快適な生活を失うおそれのある原告407名については原告としての適格性がないとの答弁をしました.これについて裁判官は被告側に対して「原告一人一人が実際にどこに住んでいるかを争わないのか」と念をおしました.被告はそのつもりはないと答えましたが,裁判長は私たち原告側に原告一人一人の居住地を地図で示すよう求めました.これはかなり奇妙なやり取りです.そのような言いがかりは被告の常套手段ですが,被告がそれをしないで裁判官が代わりにそれを言ったのです.弁護士の話では,裁判官は口に出してしまった以上引っ込みがつかなくなったのではないかとのことですが,おかげで余計な作業をするはめになりました.
次に裁判長は,前後して起こした3件の訴訟(2件の地域住民を原告とした裁判,1件の拡幅地住民を原告とした裁判)を併合すると宣言しました.これは私たちにとって予定通りのことです.地域住民だけだと被告側の主張と同様原告適格がない,ということで門前払いになる可能性もありましたが,併合後はまずそれは避けられるからです.
最後に次回法廷の日程打ち合わせをして30分ほどの法廷はあっけなく閉廷しました.
閉廷後,近くの弁護士会館会議室で法廷のやり取りや,今後の予想について弁護士から説明を受け,活発な質疑応答が行なわれました.
第2回法廷は12月18日
次回法廷は12月18日11時から東京地方裁判所6階,606法廷で開かれます.この法廷では原告適格などについてやり取りがある予定です.裁判が始まっても始めの内は原告適格,処分性など,本論に入る前の入り口論が続くことになりますが,できるだけ原告の方々にも分かりやすい形で展開させる,という弁護士のお話です.606号法廷は前回ほど大きな法廷ではありませんから,大勢の会員の皆様の参会により,今度こそ法廷を埋めつくしてしまうようお願いいたします.なお,当日は午前10時に西武新宿線中井駅に集合しますが,直接法廷に行かれても構いません(地下鉄丸の内線霞ケ関駅下車,歩2分).閉廷後弁護士による解説も予定しておりますので,その席でどのようなことでもお尋ね下さい.
【原告意見陳述】
「こんな道路,造らせないで下さい!」
原告のSでございます.住居は新宿区中落合△−△−△,環状六号線(山手通り)から70メートルくらいのところです.年令は35才,主婦です.
この計画が発表されたとき,主に幼い子どもたちをもった母親たちが,漠然とした不安を持って集まりました.都市計画案というものは,そこに住んでいる人のことなどまったく頭にないという感じで,地図上に線が引いてあるだけのもので,なぜこの事業が必要なのか,この道路ができると環境がどのように変わってしまうのか,いっこうにわからなかったわけです.つづいて発表された環境影響評価書案はその疑問に答えてくれるはずのものでした.分厚い,一見とてもりっぱなものでしたが,どの項目を見ても結論は「影響は極めて小さい」と書いてあるだけでびっくりしました.今の4車線線でさえ道路公害がひどいのに,それが10車線になって影響が少ないなどということはあるはずはない,と住民はみな強く不信感を抱きました.細かい数字をいっぱい並べていかにも専門的に分析,研究した結果のように見せてありますが,皆で調べていくと,おかしいところが次から次へと見つかりました.例えば大気汚染について「影響が極めて小さい」と言えるのは,将来,大気汚染が驚異的に改善されることが前提となっているからでした.実際には悪化の一途をたどっているのに,計画通りうまくいけば空気がきれいになっているからこの道路を作っても大丈夫というのです.住民説明会でもたくさんの人がそれを指摘しましたが,都や公団はまともに答えようとはせず,アセスに書いてあるからというばかりで,質問を続けようとする人がまだ大勢いるのにいつも一方的に説明会を打ち切ってしまうのでした.
私たちの納得のいかないまま,道路を作る手続きはどんどん進行し,住民の意見をいう場はなくなってしまいました.そこで,私たちは東京都の公害審査会に調停申請をしました.そうした公の場ならきちんと対応してもらえると思ったのです.でもその場においても,アセスの関連ページを示し,そのまま読み上げるだけなのです.まったく私たちの言葉に耳を貸そうとしません.もうこの住民無視のめちゃくちゃなやり方に歯止めをかける手立ては裁判に訴えるしかありません.それが今回の提訴に至った理由です.
今でさえも環六沿道の大気汚染や騒音はひどい状態にあります.ここに住み始めた13年前はこんなではありませんでした.最近とみに大型車が増え,今では臭くて道を歩く時はできるだけ息をしないようにしていないと気持ちが悪くなってしまいます.道に面している友人の家ではしょっちゅう家が揺れていますし,うるさくてお正月やお盆にしか窓が開けられないといいます.環六沿道ではない我が家でも物干し竿は排ガスのススで黒く汚れ,それを見ると私たちの肺の中もこんなかしらとぞっとします.事実,それによって健康を害している人が大勢います.幸い今のところうちの子どもたちは元気です.でも歩道橋をわたって環六の向こう側にある小学校に毎日通っているのを見ていると,どうもない方が不思議のような気がしてきます.子どもの友達には喘息の子が多く,娘が幼稚園の頃はクラスの3分の1は具合が悪いようでした.子どもの健康のためとおっしゃって郊外に引っ越してい行かれる方も少なくありません.私も子どもたちの体のことを思うと本当に不安です.私自身も,そして夫や一緒に住んでいる夫の両親たちもいつ発病するかわからないと思っています.
国はそういう沿道住民の健康被害の現状を知っているのでしょうか.知っていてなおかつ道を増やそうとしているのでしょうか.渋滞するからといって道をひろげ,ひろげると少しの間だけはすいているけれど,そのうちすぐ車が集まってきてやっぱり元通り渋滞するようになる ― そんないたちごっこさんざん今までどこの道路でも繰り返されてきたのです.そうしてますます健康被害が増え続けているのです.
車が戦後の日本経済の発展を支え,国民の生活を豊かにしてきたことは確かです.ですから,道路建設反対をとなえることはとかく住民エゴとみなされがちでした.でも今は違います.一昨日も新聞に環境庁による大都市圏の大気汚染対策が発表されましたが,もうこれ以上放置できない,国をあげてなんとか車を減らしていかなければどうにもならないという状況に追い込まれているのです.
現在,幹線道路沿道の環境悪化はどこでも深刻です.原告の中にも多くの公害病患者や呼吸器系疾患をもった人がいます.この事業の実施によってさらに増えるでしょう.また住み慣れた土地を追われる人々も大勢います.私たちの生活を奪い,健康を奪ってまで本当に作らなければならない道路なのでしょうか.それほどに価値のあるものなのでしょうか.もし価値のあるものなのだとしたら,なぜ都や公団はもっと堂々と,誤魔化したりせずに私たちにすべての真相を包み隠さず示してくれないのでしょうか.私たちには理解できません.弱い老人たちや未来のある幼い子どもたちの命以上に大切なものとは何なのか,納得できる答があったら示してほしいのです.私たちは不安でいっぱいです.もうこれ以上環境を悪くしないでください.この道路は不要です.絶対に作らせないでください.お願いします.
用語解説 原告適格 裁判の原告になるためには一定の条件が必要です.それが原告適格です.原告適格で最も重要なことは,訴えの利益,つまり原告が勝訴したときになんらかの利益があるかどうかです.沿道で立ち退き対象の方は財産が問題となりますので,原告適格は明瞭ですが,周辺の住民に関しては良好な環境を利益として認めるかどうかが鍵になります.このような裁判では被告は必ずそれを全面的に否定すべきであると主張します.環境権をどこまで認めるのか,日本ではそんなことすら明確になっていないのです. |
第9回定例会のお知らせ
11月30日(土)午後1時30分
場所:下落合教会集会室
議題@:公害審査会の調停
ニュース7号でお知らせしたように,公害審査会での調停はかなり行き詰まっています.「環六拡幅の環境影響評価を行なっていないのは条令違反である」というのは私たちの主張の一つですが,中立であるべき委員長が「条令違反には当たらない」と言明し,当局寄りの考えであることを明らかにしてしまったのです.このようなことからこのばでの話し合いを続けていて公害のない道路を求めることは不可能である,というのが弁護士の認識です.あくまで調停成立をめざすこともあり得ますが,その場合,私たちは大幅に譲歩しなければならず,沿道の植樹の改善と言ったものにしかならないと思われます.裁判が始まった今,調停をどう位置付けて行くのか慎重に検討して行かなければなりません.
議題A:補助参加申し立てについて
行政訴訟の提訴期限は3ヵ月以内です.今年3月に認可・承認が行なわれたこの道路の場合,もう新たに訴訟を起こすことはできません.この道路の差し止めを求めて訴訟を起こしたのは私たち423名だけですが,道路周辺地域の住民の圧倒的多数はこの道路に反対です.そうした方々に私たちの訴訟に支援していただくため,裁判への補助参加を申し立ててくださるようう呼びかけて行きたいと思います.裁判所に支払わなければならない訴訟手数料一人300円(+α)を各自負担していただき,弁護士への委任状に署名捺印していただくだけです.できるだけ大勢の方の委任状を集めて,裁判の進行を見ながら最も有効なタイミングで提出することで地元での反対の意志が強いことを示したいと考えています.この場合,原告と同じ地域住民の方々多数が道路建設の取消を求めている原告側はの補助参加したいと裁判所に申し立てること自体に大きな異議があり,裁判所によって原告側補助参加人として認められるかどうかは二の次の問題です.1年くらいかけてじっくり運動を展開して行きたいと考えています.
両方とも極めて重要な案件です.大勢の方が定例会に参加して下さいますようお願いいたします.
バザーにご協力有難うございました
悪天候のため1週間延期して,10月20日(日),恒例のバザーを行ないました.人気は上々で3時間ほどでほぼ完売しました.売上は,152,175円でした.裁判費用など,会の活動のために使わせていただきます.品物を提供して下さった方,当日のお手伝いをして下さった方に厚く御礼申し上げます.春にはさらに盛大に開きたいと思いますので,またご協力をお願いいたします.
大気汚染測定運動に参加します
小さなカプセルを取り付けて大気中の二酸化窒素濃度を簡単に測定する大気汚染測定運動が12月2日から3日にかけて行なわれます.私たちの会でも,落合地域で昨年まで行なってきた定点測定を引き続き行ないますが,その他ご自宅の近く,環六沿道などで測定したい方はご連絡下さい.
お手伝いのお願い
無報酬に近い形で引き受けて下さり,道路建設阻止に向けて精力的に活動してくださっている弁護士事務所の負担を少しでも軽くするために,この裁判に関する膨大な仕事の一部を私たち原告や会員としてもお手伝いしたいと考えています.今のところ週1回3時間程度の作業を弁護士事務所で行なうことになります.すでに何回か個人的にお願いしてきましたが,作業といってもコピーや資料整理などの比較的単純なもので,曜日や時間も固定する必要はなく自由(といってもその場合は毎回調整が必要ですが)です.活気あふれる弁護士事務所の仕事の一端を見るだけでも有意義なことだと思います.不定期でもかまいませんのでご協力いただける方はぜひご連絡下さい.
地権者の方へ 標識用の杭の埋め込み作業も始まり,公団からの働きかけがあると思いますが,どんなことでも是非弁護士または会の方にご連絡下さい.特に土地,家屋の測量立ち会いは地権者や居住者にとって最後の砦ですから,絶対に認めないようご注意下さい. なお沿道の方の中には様々な事情で立ち退きを認めざるを得なくなる場合もあるかと思います.そうした場合でも有利に交渉を進められるようご協力いたしますのでお気軽にご連絡下さい. |