環六高速道路に反対する会ニュ−ス

No.25


1995年2月10日

 

第1回控訴審法廷が開かれました

 昨年12月13日(火)午前10時から,東京高等裁判所824号法廷で第1回の控訴審法廷開かれました。法廷ではまず後藤弁護士により控訴理由書の要旨陳述が行なわれ,次いで原告を代表してS氏が意見陳述を行ないました。また,原告の一人で,環境影響評価書の分析などを行なってきたY.S.氏を証人として申請しました。証言では事業の目的,すなわち渋滞の緩和が達成できないこと,公害防止計画に適合していないことなどを立証していく予定です。これらの道路計画の問題点を裁判の席で明白に示すことができたらと期待しています。

 被告側からは控訴状に対する答弁書が提出されました。「本件各控訴をいずれも棄却する,との判決を求める」というもので,理由は「被控訴人の事実上及び法律上の主張は,原審口頭弁論で主張したとおりであり,原判決の判断は正当であるから,本件控訴は棄却されるべきである」という極めて短いものです。控訴理由書に対する反論は次回までにしてくるはずです。

 法廷終了後,これまでと同様,隣の控え室で後藤弁護士による今後の裁判の進行予定などについて説明がありました。控訴理由書で,争点をかなり絞り込んでいるため,証拠の提出,証人の申請も必要最小限としており,判決までにあまり時間がかからないだろうという見通しです。

 

次回法廷は2月21日(火)

 第2回の控訴審法廷は,2月21日(火)午後3時からです。場所は同じく高等裁判所824号法廷です。西武新宿線中井駅1時40分に集まっていきますが,直接法廷に行かれてもかまいません(地下鉄丸の内線霞ケ関駅下車,徒歩2分)。大勢の傍聴を期待しています。

 


控訴理由書の内容 

「事業認可・承認は違法,一審判決は誤っている」

 

第1 原告適格

 一審の判決は,「行政訴訟を起こすことができる人は,その行政処分によって,その法律が保護している個別的,具体的な権利や利益を侵害される恐れのある者に限られる。都市計画法は周辺住民一人一人の具体的な利益を個別に保護しているわけではなく,周辺住民は一般的な公益という以上の利益を侵害されるとは認められない。したがって土地建物などに権利を持つ人以外は裁判を起こす権利がない。」としています。つまり,@都市計画法は都市の利便性,良好な環境などを目指してはいるが,それにより一人一人がどうなるかは考えていないし,A道路建設により周辺の人たちが大気汚染の被害を受けようとも,道路を作れば多少の被害を受けるのであって,道路周辺の人たちがこの道路によって特に被害を受けるという特別な事情は認められない,という理解不可能なものです。

 まず第1の点は,都市計画法が人の生命・健康といった基本的人権の侵害もあり得る,というものであるはずがなく,全く的外れです。第2の点は,道路周辺の人たちが多少なりとも被害を受けるのなら,それは一般的に誰でもが被害を受けるのではなく,周辺住民が,個別に具体的な被害を受けるのです。最高裁は,高速増殖炉「もんじゅ」の取消しを求めた周辺住民に対し,被害を受ける範囲が何らかの方法で特定できる時には原告適格を認める,との判断を下しています。私たちの場合,都が環境影響評価手続きの中で,環境影響を受ける可能性の高い地域として定めた関係地域に住む住民だけが原告になっており,明確に範囲が特定できます。つまり最高裁の判例に完全に合致しているのですから,原告適格は認められるべきなのです。

 

第2 地下高速道路事業承認処分の違法性

 都市計画法13条には「都市計画は公害防止計画に適合したものでなければならない」としています。ところが判決は「中央環状新宿線は公害防止計画における窒素酸化物対策の一環である環状道路等の整備という施策に位置付けられるものであり,公害防止計画と矛盾なく両立するものであるから,公害防止計画に適合する」としています。これは適合という言葉の解釈をねじ曲げたものです。公害防止計画に適合するためには,公害防止計画の目標達成に役立つか,少なくともじゃましないということが必要です。この道路の場合,私たちが主張し,立証してきたように公害を拡大させるもので,公害防止計画に適合したものでないことは明らかです。さらに判決は「中央環状新宿線は,環状道路網の整備として公害防止計画における窒素酸化物対策の一環として位置付けられることを,原告は明らかに争っていない」と述べています。冗談ではない。私たちはまさにその点を主張しいるのであって,明らかに誤った事実整理に基づく間違った判決といわざるを得ません。そこで改めてこの道路が公害防止計画に適合していないことを,窒素酸化物と浮遊粒子状物質の将来予測などの面から主張しました。

 

第3 環六拡幅事業認可処分の違法性

 判決は環六拡幅が,旧都市計画法の下で昭和25年に都市計画決定されたことをとらえて「旧法の規定に基づく決定の適法性は旧法の下においてのみ判断されなければならず,その判断についてさかのぼって現在の法を適用することはできない。したがって現行都市計画法13条の公害防止計画への適合性についての条項を用いて環六都市計画の決定についての適合性を判断することはできない」としています。つまり昭和25年の都市計画決定当時,公害防止計画に適合しなければならない,という条文がなかったから違法ではないというのです。しかしそもそも私たちは昭和25年の都市計画決定が違法だなどといって争っているのではありません。都市計画法では,「都市計画」と「都市計画の決定」とは明確に区別していますが,公害防止計画へ適合しなければならないのは決定された都市計画そのものであって,都市計画の決定という手続きではないのです。私たちは現時点において環六拡幅という都市計画そのものが公害防止計画に適合していない,と主張しているのです。これらの点を明確に主張するとともに,環六拡幅が公害防止計画に適合していないことを改めて主張しました。

 


陳述書 「公正な裁判をお願いします」

 原告のSでございます。控訴審の開始に当たり,原告187名の願いを高等裁判所にご理解いただきたくお話し申し上げます。

 私の住む家から70メートル位のところにある環状6号線・いわゆる山手通りが拡幅され,その地下に高速道路が作られるという計画が公表されたのは今から6年前でした。大気汚染,前例のない巨大な地下工事のもたらす地盤への影響,工事に伴う振動,騒音など,周辺の住民はみな不安にかき立てられました。私たちは行政に対し様々な形で,この道路ができることへの不安を訴えてきましたが,全くきいてももらえないまま事業認可・承認という段階まで来てしまいました。そして,最後の望みをかけて3年半前に提訴いたしました。裁判所なら,私たちの主張を公平に聞き入れて下さると思ったのです。

 審理の過程で一審裁判所は「本件事業の適法性に関する主張立証責任は被告国側にある」としました。しかし国側はほとんど何も立証しようとしませんでした。にもかかわらず,一審の判決は全面的な国側の勝訴でした。私たち道路周辺の住民はそもそも訴えを起こす資格すらない,と追い払われたのです。

 東京のすさまじい大気汚染により,ぜん息などの病気が年々増えています。そこに道路ができ,車が増えれば,病気の人が増え,病状も悪化して,さらに命に関わることにもなりかねません。それでも裁判を起こす権利さえ認めていただけないのでしょうか。

 東京都はこの深刻な大気汚染を改善するために公害防止計画を定めています。都市計画はその範囲内で作られていかなければならないはずです。しかし判決では公害防止計画に道路網の整備があげられているから,この道路が公害防止計画にかなっているのだといいます。東京の大気汚染をますます悪い方向に向わせるこの道路が,どうして公害防止に役立つ道路だと言えるのでしょうか。

 脱硝装置を付けてほしい,地下に道路を作るのだからせめて地上は車線を増やさずに歩道を広くしてほしい,そして大気汚染物質を吸収する植物をたくさん植えてほしい。こうした声はあちこちで起こっています。それなのに周辺の環境に配慮しない道路をそのまま強引につくろうとしているのです。そんな道路作りが公害防止計画に適合しているはずがありません。

 この道路を作らなければならない必然性はどこにあるのでしょうか。道路をつくってもすぐに車で一杯になってしまい,また新たな道路が必要になるでしょう。東京はなんとかして車を抑制しなければならない段階に来ています。なんとかして車社会から脱却しなければならない,という時代なのです。もうこれ以上東京には道路はいりません。

どうぞ行政に加担しない,公正な判断をお願いいたします。

 


新たな証拠を提出

 控訴審での主張を裏付ける証拠として,新たに証拠10点を提出しました。

 「喘息死」という題の論文は,喘息というとちょっとひどい風邪くらいに思っている人が多いが,実は死に至ることもある重大な病気であることを示しています。「粒子状物質を主体とした大気汚染物質の生体影響評価に関する実験的研究」という題の国立環境研究所の報告書は,ディーゼル車の排ガス中の成分に直接肺を侵す成分が含まれていて,それが喘息,肺がんを引き起こすことを示しています。これだけ明確な動物実験の結果があれば,医薬品や食料品だったらただちに製造中止になっているはずで,こんなものが野放しになっていて,その上さらに私たちの街にあふれさせようとしているのか,と背筋が寒くなる内容をもっています。一読をお勧めします。脱硝装置,植物による大気汚染軽減など,汚染対策が現実のものとしてあり得る,ということも証拠として示しました。さらに,中央環状新宿線が完成し,渋滞が緩和したとしても窒素酸化物削減には結びつかない,すなわち公害防止計画に適合しない,という一審の準備書面(6)の主張を原告Y.S.氏の鑑定書という形で提出しました。控訴審では一審の準備書面はすべて有効ですが,最も重要な点を強く印象付けるため証拠として提出するとともに,証人として証言してもらう予定にしています。

 


公害審査会の調停を再開します

 私たちは訴訟の他に公害審査会での調停手続きを進めてきました。裁判との関係でこれまで長期にわたって休止状態にありましたが,不調にするか,道路建設を前提とした調停手続きを再開するか,決断を迫られました。昨年11月20日に開かれた会員の集いで,その対応について話し合った結果,「道路公害を防ぐためにあらゆる手をつくすべきだ」ということから,道路建設を前提とした調停手続きを本格的に再開しようということになりました。

 もちろんあくまで裁判は進めます。そこに住み続けたい,そこで商売を続けたい,という地権者の方々は裁判で勝利するしか他に手段がありませんし,周辺の住民にとっても全く公害のない道路というのはどう考えてもあり得ません。調停ではどうしても何らかの妥協が必要になってしまいますので,これまで通り裁判で勝つための努力は最大限に払わなければなりません。

 一方で取消しを求めて裁判を進めながら他方で調停を目指すのは矛盾しているようにも感じられますが,裁判ではそう珍しいことではありません。裁判が,事業の認可・承認処分に違法性があるから取り消せ,という法律的な手続きであるのに対し,調停は実際に出来上がる道路が公害道路だから公害のないようにしてほしい,という極めて現実的な点を追及しているため同時に進めることも可能です。公害審査会でどのような道路を目指すのか。集会では,環六計画車線の削減,脱硝装置の設置,換気搭の小規模化,地下水脈の保全,工事中の公害対策など様々な問題点が話し合われました。それらをもとにして,さらに都市計画や大気汚染対策の専門家等の意見を求めて,具体的な調停案を提示していきたいと思います。こんな木を植えてほしい,舗装はこんな材料にしてほしい,工事にはこの様な注意を払ってほしい,といった具体的な問題を盛り込むこともできます。ぜひ大勢の皆様のご意見をお寄せ下さい。

 

調停は3月22日(水)

次回の調停は,3月22日(水)午前10時から都庁で開かれますが,場所は未定です。その日までに私たちから調停案を提出し,具体的な相手の対応を求めていくことになると思います。

 


地下鉄工事によって深刻な振動被害

 11月20日の集会に出席された新宿区上落合にお住いの2人の方から,地下高速道路と一体で作られている地下鉄12号線の中井駅工事による深刻な振動被害の様子をお話いただきました。この巨大な地下構造物のために地下40m位まで土留壁が作られますが,その敷設作業に大変な振動が発生します。70デシベル,地震に換算して震度2にも達する振動が4分半に1回の割合で,深夜の2時,3時まで続いていたそうです。業者と交渉してようやく夜10時までで止めさせるようにしましたが,それでも精神的にもまいってしまうと訴えていました。

このような振動を伴う作業は都の公害防止条令により朝7時から夜7時までと制限されています。東京都交通局が行なう工事なのに,都の条令が無視されているのです。その上この工事の場合,環境影響評価手続きを経て,周辺環境への影響はないことになっているから,周辺住民と工事協定を結ぶ必要もないというのです。一体何のための環境影響評価だったのでしょうか。

 


震災で安全神話が崩れ去った高速道路

 阪神大震災で横倒しになった阪神高速道路周辺の住民の方々は,国道43号線と合わせて14車線(その後12車線に縮小)の道路から受ける騒音,振動の被害の軽減を求めて1976年からの長期にわたる差し止め訴訟(国道43号線道路公害裁判)で争っていました。今度の地震で原告1名の方が亡くなり,怪我をされた方,家が全半壊した方が多数いらっしゃるとのことです。

 倒壊した高速道路は,高速道路の安全性などいかに脆いものかを如実に表しています。首都高速道路公団はすでに「阪神高速道路より厳しい基準で作っているから大丈夫だ」という趣旨の発言をしています。しかしだれが信じるでしょうか。いま首都高速道路公団がやるべきことは,すべての既存の道路の完全な補強であって,新たな道路作りではありません。長年にわたって道路公害に苦しめられ,いままた地震の被害で苦しんでいる43号線裁判の原告の方々に声援を送る意味でも,私たちも力を合わせて何とか環六・地下高速道路問題で成果を上げて,一矢を報いたいと思います。

 


道路をめぐる動き

公団による都市計画外の土地取得の動き

 昨年11月24日,目黒区駒場の都立駒場高校で首都高速道路公団主催の「用地補償説明会」が開かれました。この地域はもともと住宅の地下に高速道路が通る予定で,シールド工法で建設されるため立ち退きは不要のはずでした。ところが,長大なシールドを住宅の地下わずか数メートルのところに作るのはそう簡単なはずがなく,工事用の縦坑を作るなどのために一部で地上の買収が必要になったようです。公団はすでに住民説明会等で変更工事案を住民に示していますが,土地収用のためには建設大臣の承認が必要です。従って現時点ではあくまで任意売買のお願いをするしかありません。用地補償説明会は手続きが終わって,正式に事業が動き出してから行なわれるべきものです。都立の学校で開く説明会となると一般の人は正式なものと考えてしまうでしょう。公団はそうした効果をねらったものと思われます。地元の駒場・大橋,新宿線対策住民連絡会では当該地域の住民の方々へ,立ち退きは絶対に強制できないこと,あくまで任意のものであることを訴えています。

 

営業中の店舗が破壊される

 駒場では,現に人が暮らしている下,わずか2〜8mのところをトンネルが通るため,多くの人たちが建設反対に立ち上がっています。そうした中,昨年11月20日,休みの日をねらって営業中のクリーニング店をブルトーザーで取り壊すという事件がありました。土地を首都高速道路公団に売却したものの,建物は立ち退き交渉がうまくいかないことから,営業中にもかかわらず家主(だれでも知っている一流の不動産会社です)が建物を壊し始めた,ということのようです。気付いた近所の人たちが警察に連絡して止めさせましたが,こわれたドアや窓ガラスが散乱して大変な状況だったそうです。土地買収は全体では4割進んだといいますが,難航するのはこれからで,こうした事態があちこちで起こることが予想されることから,充分注意が必要です。

 


調停案の検討会を2月26日に開きます

 毎月第4土曜日に,本会代表のS宅で開かれている定例会とは別に,これまでにも折にふれて開かれている会員の集いを開きます。今回は特に公害審査会に提出する調停案について検討したいと考えています。道路は大気汚染,騒音,振動といった典型的な公害だけでなく,地域ごと毎に特有の様々な問題をうみます。大勢の皆様のに集まっていただき,できるだけ多くの問題点について検討を加えて,3月22日の公害審査会に臨みたいと思います。

日時:2月26日(日)午後2時から

場所:落合第1特別出張所2階集会室

ニュース No.24

ニュース No.26

戻る