残された夢の跡(3) 夢水龍乃空 [2010/01/17 18:21:45] 残された夢の跡(2) 「すみません! 入れてください! 責任者の方、どこですか!?」 どうも玄関が騒がしい。呆然とする熊野を置いて、出水と雲田は再び外へ向かった。 「どうしたんだ?」 「いや、若い女が中に入れろと」 「はあ?」 「あ、あなたが責任者ですね? 私は井倉巡査です! 警察官です!」 見張りの警官の垣根に隠れてよく見えないが、バッジらしき物を手に持って飛び跳ねて いる人影が見えた。バッジは跳ねるたびに動くから、全く確認できない。 警官をどけて、出水が対応に入った。 「なんだ、警官だって?」 「はい。何かご協力できないかと、やって参りました」 バッジには井倉美和巡査とある。制服を着ているのは分かったが、こんな小さいサイズ があったのかと、雲田は変なところに感心した。 「交通じゃないか。何しに来た?」 「新聞に予告状のことが出ていたので、ご協力しに。仕事が長引いて今になってしまいま した」 「交通の出る幕じゃない。それに、もう終わっちまった」 「へ?」 「盗まれたよ。俺たちの負けだ」 「そんなぁ・・・」 花が萎むように元気をなくす様子を見て、雲田は可哀想になってきた。そもそも、こん な愛らしい少女のような警察官がいることなど、全く知らなかった。 「でも、お金とかは無事だったんだよ。盗まれたのは地図とか資料とかで」 「え、財産狙いじゃないんですか?」 「まあ、そこがよく分からないとこなんだけど」 雲田はちらっと出水の様子を窺った。特に気にする様子でもなかったので、美和に話し てみることにした。単純に、若い女の子と話がしたかったという気持ちも、無いでは無 かったが。 「おいでよ。現場は博物館で・・・」 雲田はこれまでの経緯を話しながら、美和を倉庫へ連れて行った。そこにはまだ、同じ 姿勢の熊野と奥さんが立っていた。 「ここにあったんですか」 美和は大きな目をくりくり動かしながら、倉庫の中を見回した。背をかがめて覗き込ん でいるものだから、小さい体が余計に小さく見える。 美和は倉庫を出ると、扉のカードを見て、首をかしげた。 「見取り図ありますか」 「あ、これだよ」 「お借りします」 警官配置図でもある全体の見取り図を、奪うように取り上げて、美和はじっと見つめて いた。 「雲田さん、他に盗まれた物はありますか?」 「今、調べてるよ。まだ全部は見切れてないと思うけど」 「じゃあ、終わるのを待ちましょう。それではっきりするはずです」 「え?」 美和は見取り図を丸めて雲田に返した。そして熊野に対して書斎で待つようにと勝手に 指示を出し、じっと考え込んだ。 しばらくして、被害に関する報告がまとまった。 まず、博物館の展示品は全て無事だった。レジの現金も全く手をつけた様子がない。し かし、住居側の展示品にはいくつか損失があった。どれも、最初に熊野が執念で発掘した その時の出土品で、国に収容されず熊野の手元に残った、貴重な品々だった。 「どういうことなんだ」 戸惑う出水に、美和が質問した。 「盗まれなかった物には、同じ時に発掘された物がないんですか?」 「いや、あったかな・・・」 「僕が調べます」 雲田は報告のメモを見ながら、画面の目録と照合してみた。 「こりゃすごい」 「どうでしたか?」 「残ってないよ。一点たりとも残さず盗まれてる」 「盗まれた中に、他の時の出土品はないんですよね?」 「それは無い。そこは分かってる」 「そうですか。分かってきましたね」 「え、何が?」 美和は、雲田が1秒も予想していなかった言葉を告げた。 「何って、怪盗の目的と手段ですよ。だいたい思っていた通りです」 残された夢の跡(4) 戻る