「新婚さん いらっしゃ〜い」

 by三枝師匠


 てなわけで、ぴちぴちの新婚さんである碇夫妻がとある温泉宿に辿り着いた。
 地元である第三新東京市郊外に広がる温泉街ではない。
 わざわざ涼しい東北地方、会津磐梯山系の「隠れ里」と呼ばれるほどに山深い土地である。

「碇様ご一行」

 小さな宿の玄関にはわざわざ看板が掛けられてある。
 団体客はいないようで、宿の中はひっそりと静まり返っていた。

「まるで貸し切りみたいね・・・よかった、わざわざ山奥まで来て」

 ヨーロッパ一周一ヶ月間とかカナダでスキーだとか沖縄でスクーバだとかさんざんダダをこねた
にも関わらず、来てしまえば気に入ってくれたようで、シンジはほっとしていた。

 新妻アスカの何が入っているか理解できないほど巨大なトランクを部屋まで運んでもらい、よう
やくほっと一息つくことが出来た。
 なんせ奥地である。
 在来線を乗り継いで、タクシーで山道を三時間も走ってようやく着いたのだ。

 しかも昨日は結婚式、2次会、3次会、4次会と大忙しで、新居に帰ったのは朝の五時。
 さらに七時にはリニア新幹線に乗り込むというハードスケジュールで、いま現在夕方の4時に
なってようやく落ち着くことが出来た。


 つまり・・・・初夜はこれからである。


 結婚一ヶ月前から新居で同棲生活を始めていたので、何をいまさら初夜だというつっこみが聞
こえそうだが、(へっぽこ)アスカは大いに期待しまくりである(笑)



「にせ」 はみだしSS そおこ様襲来記念!! 奥様(へっぽこ?) アスカ? けむり旅情コスプレ事件簿<何だそれは(笑)

「〜温泉新婚さん〜

前編


 まずは長旅の疲れを温泉で・・・というわけで、仲居さんに案内されて、男女別になった露天
風呂に案内される。
 先客がいるので、混浴したいというアスカの夢はもろくも崩れ去った。

 どうやらお忍びの不倫旅行や結婚○十周年旅行といった風情の客ばかり。
 つまりカップル客オンリーなので、新婚といっても目立つ心配はない。
 むしろ、他の客にはそれぞれ干渉しないように気を使っていると言える。


 露天風呂は会津磐梯山の雄大な山容を正面にとらえる絶景である。
 緑の森が山肌の途中から赤く色づき、山頂にはわずかに冠雪が夕日に映える。
 セカンドインパクト後、秋冬になっても紅葉が見えるのは高い山に限られてしまう本州で、こ
れほど見事な景色はなかなか目にかかる機会がない。


「シンジィ!あの山なんて言うの?」

 竹を組んだ間仕切りの向こうから、アスカの元気な声が聞こえる。

「磐梯山だよ・・・さっきタクシーの中でも言ったじゃないか」

 新妻の突然の声に思わず顔を赤くしながらシンジが答える。
 それを見て熟年の男性客が微笑みながら声をかける。

「兄ちゃん、新婚さんかい?」

「ええ、そうなんです」

「奥さん、かわいい声じゃないか」

「は、はあ、どうも」


 そのころアスカも熟年のご婦人に声をかけられていた。

「外人さんかと思ったのに、日本語お上手ね」

「日本に住んでもう長いですから」

「そう。旦那さんは?」

「日本人ですよ、もちろん」

 新婚の二人にとっては親子ほどの年の差があるだろうか。
 結婚して二十五年目の記念に旅行に来たという。

 初老の夫婦が結婚したのはセカンドインパクトの直前。
 新妻アスカは自分たちも二十五年後にまた揃ってここに来たいと思った。


「兄ちゃんあんまし無理すんなよ、言っても無駄か・・・かあちゃん、そろそろ上がるぞ」

「はいはい。そんな大きな声出さなくても聞こえてますよ」

 久しぶりに頑張るかいな・・・と笑いながら熟年の男性客が風呂場を後にし、シンジは一人で
湯船の中で手足を伸ばす。
 昨日からの緊張感とハードスケジュールによってこわばった身体が、ゆっくりとほぐれていく
ようで心地よい。

「なんかいいね、ああいうの」

 間仕切りに近寄ったのか、すぐそばでアスカの声がする。

「そうだね」

「私たちも・・・二十五年経ったらまたここに来るのかな?」

「そうだね、そうしたいね」

 はたで聞いてたら耳が腐って落ちそうなゲロアマな会話である。
 こういうことが照れずに言えてしまうあたり、新婚さんは怖い。


 ゆっくりと温泉を堪能した後、声を掛け合って同時に部屋に戻る。
 戻ると夕食のお膳が並べられている。
 この辺のタイミングの良さはさすがに温泉旅館ならではである。

 山奥にも関わらず土地で採れたのだろうか、新鮮な川魚も添えられた豪華な夕食。
 メインは何故かスッポンの鍋(爆)

 温泉旅館ならではである(笑)


 昨日は大切な友人達のホスト役としてろくに酒も食事も楽しめなかった二人が、ようやく落ち
着いて食事が出来る。
 緊張感から解放されたことも手伝って、けっこうなペースで地酒を味わう。
 大吟醸の冷酒が料理にあっていて、料理もお酒も味も量も大満足だった。
 アスカはシンジの影響で和食党になっていたし、日本酒も十分いける口である。
 シンジしかいないのでついついハイピッチになり、食事が終わる頃にはすっかり頬を染めるほ
どに酔っていた。


 仲居さんが膳を下げに来る。
 同時に続きの奥の間に布団が並べて敷かれる。

 枕元にあんどんと竹で編まれたティッシュ入れ、それと屑籠。
 このあたりタイミングといい配慮といいさすがに温泉旅館である(笑)

「ちょっとお手洗い」

 アスカが席を離れる。
 シンジは窓を開けてさっそく布団に横になる。
 夕暮れの涼しい風が、酔いと温泉で火照った身体に心地よい。

「幸せだなー」

 照れもせずしみじみ言ってしまうあたり、さすがに新婚さんである。

 月が磐梯山の山の端から上がる。
 月光浴をするかのように、部屋の灯りを消してアスカが帰ってくるのを待つシンジ。

 スッポンが効いてきたのか、下半身は元気いっぱい(笑)

 表の部屋のふすまが開いて、閉まる音。
 アスカが鏡台の前で化粧を直しているのが気配で分かる。

 しばらくして、奥の間のふすまを開けてアスカが入ってくる。

「寝ちゃった?」

「ううん、待ってた。月が綺麗だよ」

「そう」

 アスカが静かにシンジの横に座る。
 鏡で確認しながら髪をあげて、絶妙なほつれ髪を演出したうなじが艶めかしい(笑)

 寝化粧に、薄く引かれた口紅。
 浴衣からわずかにのぞく胸元が、かすかに赤く染まるのは酔いのためか、初夜への期待の
表れか・・・

 月明かりに照らされたアスカの横顔を見て、シンジは思わず息をのむ。
 いままで見たどの瞬間より、いまのアスカが綺麗に見えた。

「こっちにおいで」

 シンジが促すと、アスカがシンジの腕枕に頭を乗せて身体をよせる。
 シンジの鼻腔をくすぐるシャンプーの香り。

 アスカがかすかに震えているのがわかる。
 愛おしすぎて気が狂いそうになる。

 シンジは体を半分起こして、アスカの頬に手を添える。

「やっと、落ち着けたね」

「昨日はなんだか忙しすぎて・・・結婚したって実感がなかったわ」

「僕もそうだよ・・・けど、今はアスカが腕の中にいる」

「・・・あなた・・って呼んでいい?」


 ああ、耳が腐る耳が腐るうう・・・

 シンジはそれには答えずに、そっとアスカの唇をついばんだ。
 さらに深い口づけを交わそうとシンジがいったん離れた瞬間、アスカが呟いた。


「忘れられない夜にして」




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制作・著作 「よごれに」けんけんZ

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