前編Cパート |
シンジの舌が私を求めて口の中で蠢く。 絡み合う感触に口の中が溶けていくような感じ。 シンジにしがみついていた手の力まで抜けて、シンジの腕に身を任せる。 長いキス・・・まるで時間が止まったみたい。 どうしよう・・・このままシンジに押し倒されても抵抗できないわ、きっと。 ・・・シンジがそこまで求めてくれればの話だけど・・・ ちがう、求めているのは私・・・シンジに抱かれたいのは私の心。 そう考えたら身体がしびれてきた・・・どうすればいいの? ・・・このままここに倒れ込んだら・・・そう考えたとき 「ただいまー、シンちゃんご飯出来てるぅ?」 ミサトったらまったくタイミングの悪い女! シンジが突然手を離したもんだから、私はそのまま床にへたりこんじゃった・ シンジがイスに座ると同時に扉が開いて 「あら、どうしたの二人して」 「別に、どうもしないわよ」 たぶん赤くなってる顔をミサトに見られないように素っ気なく呟く。 「お帰りなさい、ミサトさん。ご飯なら出来てますよ」 「なんか、おじゃまだったかしら?」 「そんなことないです、アスカにチェロを聞いてもらってたんで」 「あら二人っきりでコンサート。いいわねー」 「ちょうど終わった所でしたから、ご飯にしますね」 シンジは立ち上がって台所に向かう。 「アスカまでちゃんとおめかししてるじゃない。本格的ね」 「一応クラッシクなんだから、礼儀みたいなもんよ」 「そう?かわいーわねその服、シンちゃんはちゃんと誉めてくれた?」 「気が効かないのはいつもの事よ。着替えてくるから、ミサトも制服のままじゃご飯 食べれないでしょ」 「私はこのままでいいわよ、それよりもったいないわ、そのままご飯にしたら」 「そう?そうね、すぐに食べれるって事だし」 せっかくシンジが誉めてくれた服、すぐ脱ぐのは惜しい気がしてたんだ。 「あらら、口紅まで付けて。シンちゃんの唇も赤かったかしら?」 「なにいってんのよ、そんなことするわけないでしょ!」 うそ、そんなに簡単に色が移るルージュじゃないはず・・・ 「ふーん、ムキになるとはますます怪しいわね」 この女、保護者としては失格だけど、女の勘は時々冴えてるから侮れないわ。 |
なんだかアスカとミサトさんがリビングでにぎやかだ。 たぶんミサトさんがアスカをからかうようなことをいってるんだと思うけど・・・ 二人の声を聞きながら、エプロンを付ける。 女性が二人いてどっちも家事がからっきしとは情けない。 今日のメニューは大きめの肉を煮込んだビーフシチュー。 作り置きできるから大きな鍋でつくって、残りは冷凍する。 昨日の晩から煮込んでたのをさっき味見して冷ましておいた。 最近ミサトさんが遅く帰ってくることが多いから、一人分のパックに小分けして、冷凍庫に。 今日の分だけ残した鍋を火にかけて暖め直す。 冷蔵庫からサラダを出してテーブルの上でドレッシングをかける。 前菜は昨日のマリネをそのままで良いや。 サラダの残りのレタスの上に載せて小分けにする。 冷蔵庫の中が寂しくなってきたな・・・また買い出しに行かないと。 「あらいい匂いね、シンちゃん」 「すぐ食べれるんでしょ?」 「なんですか二人とも、服も着替えずに」 「私はちょっちね、ご飯食べたらまた出勤」 「泊まりですか?」 「泊まりなの?」 思わずアスカとハモる。 「多分ねー。リツコがマギの調整してんのよ。技術部はみんな残ってて、作戦課が一人も つき合わないんじゃカッコつかなくって」 「それで、ミサトさんが」 「なんにもすることなんか無いけど、つきあい」 「あったり前でしょ、ミサトがコンピューターいじった日には本部が吹っ飛んじゃうわよ」 「いったわね」 また騒がしくなる予感。 「二人とも、ご飯にします、パンにします?」 「どっちでも良い。シンジは?」 「僕は、ご飯にシチューの残りをかけて食べるのが好きだから」 「まるで残飯整理ね、それって主婦の発想だわ」 「じゃあアスカはパン?」 「良いわ、ご飯の方が手間かかんないでしょ」 「うん・・・服そのままで良いの?」 「別に、良いじゃない。ナフキン取って、膝に置くから」 「かわいいところシンちゃんに見せつけておかないとねー」 「そんなんじゃないわよ!いちいちうるさいわね」 「だってやっぱりシンちゃん唇赤いしー」 「ええっ!」 あからさまに動揺してしまう・・・さっきのキスは長かったから・・・ 「ひっかかったわね」 「なっ・・・なんて事言うですかミサトさん!」 ムキになって否定してみても時すでに遅し。 アスカが「バーカ」と口を動かすのが見えた。 「やましいところがある方が悪いんじゃない?」 「ちょっとミサト、それ以上言ったら」 「はいはい、ご飯にしましょ。私はすぐ出かけなきゃいけないんだから」 ミサトさんはそれ以上追求せずに、いつも通りの食卓に戻っ。た ミサトさんはとりあえずご飯の味を誉める。 僕がお礼を言うと、アスカが味音痴のミサトに誉められてもとまぜっかえす。 学校のこと、料理のこと、それと今日はチェロの話が少し。 食卓でNERVやエヴァの話はあまりしない・・・しても楽しくないから。 |
シンジの料理はいつも美味しいけど、今日のはその中でも上出来ね。 肉料理はわりと好きだし、シンジは煮込み料理となると凝るし。 ホントは赤ワインでも欲しいところだけど、ミサトが珍しくビールを飲んでないからお酒 飲むわけにはいかないわ。 それより今夜はミサトがいないって事の方が気になって仕方がない。 あの夜・・・シンジと過ごした初めての夜以来、ミサトは遅くなっても家に帰ってきてたから、 二人っきりの夜は・・・一ヶ月ぶりかな。 結局あれ以来シンジとは何も・・・ キスは何度かしてくれたけど、それ以上には進めなかった。 ミサトの目を盗んでするキスは楽しかったけど、それ以上となると、ねえ。 私も不安だけど、それ以上にシンジが嫌がってた。 万が一ミサトに見つかったらって考えると・・・だから鍵のかからない日本の家は嫌いなのよ。 でも今夜は帰ってこないって言い切ったわ・・・シンジに明日の朝食はいらないって。 今夜・・・シンジはどうするんだろう? 「あー美味しかった。ごちそうさま、じゃあ早速仕事にいくか」 「大変ですねミサトさん」 「まーねー。お仕事だからしょうがないわ。じゃあ、行って来るから、戸締まり気を付けてね」 「はい、行ってらっしゃい・・・って、なんか夜だと変ですね」 「そうね、行って来るわ。・・・あ、アスカ、ちょっと良い?」 「なに?」 台所で後片づけを始めたシンジを残して、私はミサトを送って玄関まで来た。 「最近仲が良いみたいだけどさ・・・気を付けてね、あれでも男の子よ、シンちゃん」 「大丈夫よ、そんな度胸無いって」 度胸があってくれた方が嬉しいんだけどさ、私は。 「まあ、いざとなったらアスカの方が強いかもね」 「心配するぐらいなら鍵のかかるドアに変えてよ」 「そうね、考えとくわ。じゃあ、行って来るから」 |
「お風呂、すぐ入る?」 「うーん、まだいい。なんか手伝うことある?」 「別に良いよ。洗い物だけだから」 アスカがこっちに近づいてくる気配・・・ 「わっ・・・服、濡れちゃうよ」 アスカが後ろから抱きついてきた。 あの夜以来、時々こうしたスキンシップがあったけど、今夜のアスカはなんだか雰囲気が違う。 「じゃあ」 といってエプロンの下で僕の身体を抱きしめ直す。 「じゃま?」 「ううん・・・アスカがそうしてたいなら別に良いよ」 「ありがと」 アスカが僕のうなじに額を押しつけてるのがわかる。 背中には柔らかい胸の感触・・・ 「どきどきしてる?」 「ちょっと・・・アスカがなんかかわいいから」 「シンジのチェロを聴いてたら、素直になれたの・・・」 その言葉になんて答えたらよいのか、その時はわからなかった。 |
素直になれたのは良いけど、なんて言ったらいいんだろう・・・ キスぐらいなら自分から誘うけど、そっから先となると話は別。 自分から誘うなんて、恥ずかしくって出来ない。 シンジが求めてくれたら絶対嫌とは言わないくせに、自分から誘って、もし拒絶されたら。 それを考えると怖くて・・・私がはしたない女だってシンジに思われるのは嫌・・・ けど二人だけの夜が何もなく過ぎていってしまうのはもっと嫌。 シンジってば男のくせに・・・性欲ってもんがないのかしら? もともと淡泊なヤツだけど、男は一度抱いたら興味をなくすって言うし。 でもそんなこと聞けない。 シンジの心が全部わかりたいと思ったり、わかってしまうのが怖いと思ったり。 ずっと揺れてる心は誰にも打ち明けられない。 ヒカリにだってこんな事は言えないわ。 ただ、日記に書くだけ。 こうしてシンジに抱きついてるのに、心までは伝わってこないのね・・・ 別にいいか・・・暖かくって気持ちいい・・・何もしてくれなくても、こうしてるだけで・・・ 「アスカ」 「なに?」 「洗い物終わったから」 「そう」 「明日の朝の用意があるし、お風呂も洗わなきゃ」 「そう」 「だから、ちょっと離れて」 「いや」 「・・・アスカ」 私はなにも言わずにシンジの身体に回した手に力を込める。 シンジの鼓動が伝わってくる シンジの呼吸がわかる シンジの体温も けど、今何を考えてるの? 言葉がなければわからない・・・なにか言ってよ・・・お願いだから。 今何考えてるの? 私のこと? 私のこと好き?もう興味無い? なんであれから一度も誘ってくれないの? 今夜はミサトはいないし、さっきまであんなにいい雰囲気だったのに。 なんか言ってよ・・・ 「シンジ」 言えたのはそれだけ。 |
アスカの手にそっと自分の手を重ねる。 アスカは今何を考えてるんだろう。 今夜はミサトさんはいない。 あの夜以来初めての、二人だけの夜。 待ちわびていたはずの夜なのに・・・今は怖い。 アスカはもう一度僕を受け入れてくれるだろうか? あれ以来続いていた「何となくいい雰囲気」 学校やミサトさんの前では以前と変わらない元気なアスカ。 たとえ僕が隣にいても。 けれど、二人になった瞬間になにかが変わる。 二人だけの秘密を共有している。 互いの一番素直な言葉を聞いた。 けれど今となっては重い・・・あの夜の記憶が神聖すぎて、もう一度繰り返したらなにか が壊れてしまうんじゃないだろうかという不安がよぎる。 けれど、今のアスカは僕を求めているように見える。 あの夜のことを二人で話すことはなかった。 次の日に目が覚めるといつも通りのアスカがいたから。 ・・・二人にとってあの思いではかけがえのないもの・・・ だから触れることが出来なかった。 今・・・アスカは何を望むのだろう? もう一度抱いて、何かがわかるかもしれない・・・何かが壊れるかもしれない けど確かめなければ・・・逃げちゃダメだ。 重ねていた手でアスカの手を握りしめる。 ゆっくりとアスカの手を身体から離す。 振り向いて、アスカの身体に手を回す。 アスカの手が僕の背中に回る。 アスカは目を閉じて僕に身体をあずけてくる。 頬を重ねてアスカの耳元に口を寄せる。 アスカの吐息が僕の頬にかかる。 |
シンジは、私が何か言うのを待ってるの? どうして何も言ってくれないの? もうっ、じれったいわね!こういう時にちゃんとリードして欲しいのよ、女ってのは。 時計の針が進む音だけがキッチンに響く・・・ どのくらい抱き合ったままでいたかな。 「アスカ」 「なぁに?」 ちょっと甘い囁き声・・・ 意識したわけじゃないけど、これだけ近いと優しい声が自然と出てくる。 「・・・あの夜みたいに、していいかな」 重ねた頬が熱くなるのを感じる・・・ 熱いのはシンジ?それとも私? きっと二人とも顔が赤くなってるわね、今。 「いちいちそんなこと聞かなくてもいいわよ・・・私は・・・シンジがしたいようにして」 嬉しそうな声じゃなかったわよね、今の。 大丈夫よね、私はしたない女なんて思われてないよね。 「・・・うん、ごめんね・・・なんか待たせちゃったかな」 いちいち謝るんじゃないわよ。 待ちわびたけど・・・そんなこと言えるわけ無いじゃない。 「バカ」 それだけ言うのが精一杯。 でも許してあげる。 |