前編Dパート |
今、シンジが私のためにお風呂を入れてくれてる。 いつものことなんだけど、今日はなんだかどきどきする。 シンジやミサトの浸かったお湯なんかって、私がわがまま言ったから、それ以来いつも一番 風呂なんだけど、シンジはいつもちょうど良い湯加減でお風呂の用意をしてくれる。 掃除も洗濯も、考えたら家事のほとんどは結局シンジがやってる。 ミサトは家事当番の日に必ず仕事で遅くなるし、私は自分の部屋の掃除と下着の洗濯ぐらい かな? 他の家事は全部シンジ・・・ほとんど主夫よね。 あーあ、二人っきりの生活だったら、公平に家事分担してあげるのにな。 シンジの部屋なら掃除してもいい。 シンジの服なら洗ってあげる。 シンジのためならお料理の練習だってしてもいいわ。 ミサトが嫌いってわけじゃないけど、ミサトのためになんかする気にはならないわ。 けど私がするよりシンジの方が手際がいいのよね。 私が何をしたらシンジは喜んでくれるのかな? シンジは私のためにご飯作ってくれる。 シンジは私のためにお風呂洗ってくれる。 シンジは私のためにいつでもわがままを聞いてくれるのに。 私にもわがまま言ってくれたらいいのに・・・ 「アスカー、お風呂準備できたよ」 シンジの声が台所からする。 明日の朝ご飯の用意かな。 明日は学校休みの土曜日なのに・・・まったく、たまには手を抜きなさいよ。 「ありがと、すぐ入るから」 シンジが誉めてくれた赤いワンピースをハンガーに掛けて、髪もほどいて、下着の上に スリップだけで部屋を出る。 別に見られてもいいもん。 見たらシンジはあわてるだろうけど。 |
明日の朝ご飯どうしようか。 ミサトさんはいないって言うし、学校は休みだし、だいいち凝ったものを作れるほど材料が 無いや。 今夜がご飯だったからパンでいいか。 おかずはどうしよっかな、パンだけだとアスカが手抜きだって言うし・・・ 「じゃあ、お風呂お先に」 「あっアスカ、明日の朝何食べたいって・・・」 廊下からキッチンをのぞいてるアスカの格好を見て思わず絶句した。 「なーに?」 「あの・・さ・・朝ご飯だけど」 思わず目をそらしてしまう。 「何よ、こっち見て喋りなさいよ」 「えっ・・だけど・・・そのかっこうじゃ・・・」 「別に裸ってわけじゃないでしょ、なに照れてんの?」 「し・・・下着だろ、それ・・・」 「私は別に見られたって恥ずかしくないわ。水着よりよっぽど見えてるところは少ない わよ」 「そりゃそうだけど・・・」 「変よ、シンジ・・・なに意識してんの」 「べっ・・べつに・・・そういうわけじゃ」 「綺麗にしてくるからねっ」 結局朝ご飯のことは何も言わずにアスカはお風呂に行ってしまった。 明るいキッチンに急にあの格好で現れたら驚くよ、僕でなくても。 裸を見たこともあるけど、あの時は暗かったし・・・ けど、やっぱり意識してるのかな。 なんだかアスカの顔が真っ直ぐ見れないや。 |
「あーどきどきした」 お風呂に入りながら思わず呟く。 シンジったら恥ずかしそうにして、結局こっちを真っ直ぐ見てくれなかった。 私の方が何倍も恥ずかしかったわよ。 「さてと」 身体を綺麗にしなくっちゃね。 お風呂はいつでも大好きだけど、こういうときは特別よね。 いつもより多めにボディソープを泡立てて、珠の肌を磨いていく。 自分で言うのもなんだけど、私の肌って肌理が細かいの。 スタイルだって誰にも負けない。 クウォーター・・・ドイツ人の血のおかげね。 けど、シンジはどう思ってるのかな。 唯一の悩みは、発育が良すぎてシンジとほとんど背が変わらないこと。 可愛い靴ってヒールが高いから・・・ 早くシンジの背が伸びればいいのに。 |
アスカのお風呂はいつも長め・・・ 結局朝ご飯のおかずはサラダを作っただけ。 ベーコンと卵でハムエッグか、チーズがあったからオムレツでもしようかな。 どっちにしろ朝になってからで良いや。 二人だけのリサイタルをやったリビングを元通りに片づける。 チェロも弦をゆるめてケースに戻す。 楽譜は・・・いつでも見られるようにしておこう。 新しい楽譜が欲しいな。 それとチェロのソロが入ったアルバムも。 レパートリーを増やしてアスカにもっと聴かせてあげたい。 キッチンに戻って楽譜を眺める。 今日アスカに聴かせた演奏を思い出しながら。 次はどんな曲が良いだろう。 サン=サーンスの白鳥を気に入ってたみたいだし、無伴奏チェロ組曲ではセレナーデか。 きっと優しいメロディーがお気に入りなんだろうな。 明日はアスカとレコード屋にでも行こうかな。 「お風呂、はいるでしょ」 バスタオルを身体にまいてアスカがキッチンに現れた。 さっきほど突然じゃなかったけど、やっぱりどきどきする。 「う・うん、入ってくるから」 「じゃあ・・・部屋で待ってる」 「・・・うん」 やっぱりアスカの顔を見れないな・・・こんなんじゃダメだ。 アスカがキッチンから部屋に戻ろうとしてる。 「アスカ」 「なに?」 「明日、一緒にレコード屋に行かない」 「シンジが連れてってくれるんなら私はどこでもいいわよ」 「アスカに聴かせてあげる曲を増やしたいんだ、だから」 「わかった・・・お風呂、早くね」 「・・うん」 何となく二人ともうつむいて・・・それ以上は言葉がでない。 やっぱりアスカも意識してる。 僕も、考えるだけでどきどきする。 「じゃあ、お風呂行って来るから」 |
シンジがお風呂に行った。 待ってる時間が辛い。 身体は乾いたけど、服は着ないで裸でベッドに入ってみる。 木綿のシーツの柔らかくてひんやりした感触が気持ち良い。 この部屋で、初めてシンジに抱かれた夜のことを思い出す。 いつも、思い出すだけでどきどきする。 シンジがすごく優しかった シンジが私だけを見ていた シンジが喜んでくれた シンジが全部、欲しかった あの時以上の満足感は、エヴァに乗っても、誰かに認められても、得ることは出来ない。 私にとって一番大事なこと。 私が満たされる瞬間。 私とシンジが一つになれる瞬間。 二人の心が、溶け合うとき・・・ どうしよう、身体の芯が熱くなってくる。 肌が粟立ってるのがわかる。 まるで別の生き物が蠢いているように、自分の鼓動を感じる。 こんなに切ない気持ちは初めて。 早くシンジに満たして欲しい。 シンジがいなければ心が渇いてしまう。 ぎゅっと自分の身体を抱きしめてみる。 ダメね、こんな事じゃ シンジでなければダメ シンジ以外はもう何も要らない シンジが欲しい・・・今すぐ ベッドから体を起こして、バスタオルをもう一度身体に巻き付ける。 立ち上がって廊下にでて、足は自然とお風呂場に向かう。 シンジに気付かれないように、そっと脱衣所のカーテンをくぐる。 湯気に曇った仕切戸の向こうに、シンジの背中が見える。 今髪を洗ってる 今シャンプーを流してる カーテンを掴んだ手がいつの間にか力一杯握りしめてた。 ・・・もう・・・だめ 私は我慢できずに仕切戸を開けた。 |