自然が友 山梨の環境問題


ダイオキシン類
1999.11.28


我が国では、「外因性内分泌撹乱作用物質」のことを、「環境ホルモン」と呼んでいます。「環境ホルモン」が体内に吸収されると、体内の正常なホルモン作用が乱れてしまい、いろいろな健康被害が出ます。ガンになったり、アレルギー症状が出たり、知能が低下したり、メスがオスになったり、・・・で、大変心配な物質であります。この環境ホルモンの元祖的化学物質がダイオキシン類です。なお、外因性内分泌撹乱作用物質の種類については、「農薬や除草剤の環境ホルモン」に表示してあります。

ダイオキシン類は、水素、炭素、酸素そして塩素原子から構成されています。塩化ビニルのような塩素、炭素そして水素を構成元素としてもつ物質を、酸素を含む空気中で燃やしますと、燃焼生成物としてダイオキシン類が発生します。もしも、ダイオキシン類の発生をゼロにするためには、非常な高温での燃焼が必要になります。ダイオキシン類は1800度ぐらいに温度を上げないと完全に分解しませんので、燃焼温度の低い野焼きには問題があるのです。


ダイオキシンによる障害例:

行動異常、女性化、老化促進、アレルギー、死産、流産、胞状奇胎、新生児死亡、奇形児(無脳症、手足の奇形、ベトちゃんドクちゃんのような二重胎児)、生殖器形態異常、精子細胞数の減少、糖尿病等糖質代謝障害、皮膚の色素沈着、肝臓障害、腎臓障害、、皮膚炎、手足の麻痺、神経症、晩発性皮膚ポルフィリン症、非ホジキンリンパ腫、胸腺腫瘍、多発性骨髄腫、軟部組織肉腫、精巣腫瘍、胆管腫瘍、肺ガン、呼吸器ガン、前立腺ガン、骨髄ガン、肝臓ガン、肝外胆管ガン、造血組織の腫瘍、リンパ網内性肉腫、胆嚢ガン、呼吸器ガン、白血病、消化器ガン、骨髄性白血病、乳がん、子宮がん、卵巣ガン、直腸ガン、リンパ造血系のガン、胃がん、・・・。


ダイオキシン類の毒性尺度(TEF,TEQ)

環境庁の中央環境審議会並びに厚生省の生活環境審議会及び食品衛生調査会の合同調査報告書から抜粋(1999年6月21日)しました。

(1)ダイオキシン類及びダイオキシン類似化合物
 ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の同族体210種の総称である。また、PCBのなかにも平面型の分子構造を有し、ダイオキシン類似の毒性作用を持つものがあり、コプラナーPCBと呼ばれている。

(2)毒性等価係数(TEF)
 上記物質の毒性発現は共通の作用機構として、Ahレセプターを介するメカニズムが考えられ、個々の同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした、毒性等価係数(TEF:ToxicEquivalency Factor )を用いて表わす方法が用いられている。
 WHO等においては、TEFは、長期毒性、短期毒性、生体内(in vivo )及び試験管内(in vitro)の生化学反応についての試験結果を同族体間で比較して設定されている。TEFは、従来、その数字の改良がなされてきており、今後の新たな科学的知見によっては、さらに新たな数字に改善されるべきものである。

(3)毒性等量(TEQ)
 ダイオキシンは、通常は混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシンの毒性の強さは、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent)として表わすことができる。国際的には、TEQで表された数値により、ダイオキシンの毒性が評価されている。

(4)最新のTEFによるTEQの算出
 現時点では、多くの研究により概ね適正であると支持されていることから、1997年にWHOで再評価された最新のTEF108)をもとにTEQを算出してダイオキシン類及びコプラナーPCBの暴露評価に用いることが妥当である。
 なお、現在、毒性があるものとしてTEFが与えられているのは、表2のとおり、PCDDが7種、PCDFが10種、コプラナーPCBが12種である。

表2 ダイオキシン類及びダイオキシン類似化合物の毒性等価係数(TEF):
1997年におけるWHOの再評価によるものです。

  化合物名 TEF値
PCDD
(ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン) 
2,3,7,8-TCDD
1,2,3,7,8-PeCDD
1,2,3,4,7,8-HxCDD
1,2,3,6,7,8-HxCDD
1,2,3,7,8,9-HxCDD
1,2,3,4,6,7,8-HpCDD
OCDD
1
1
0.1
0.1
0.1
0.01
0.0001
PCDF
(ポリ塩化ジベンゾフラン)
2,3,7,8-TCDF
1,2,3,7,8-PeCDF
2,3,4,7,8-PeCDF
1,2,3,4,7,8-HxCDF
1,2,3,6,7,8-HxCDF
1,2,3,7,8,9-HxCDF
2,3,4,6,7,8-HxCDF
1,2,3,4,6,7,8-HpCDF
1,2,3,4,7,8,9-HpCDF
OCDF
0.1
0.05
0.5
0.1
0.1
0.1
0.1
0.01
0.01
0.0001
コプラナーPCB 3,4,4',5-TCB
3,3',4,4'-TCB
3,3',4,4',5-PeCB
3,3',4,4',5,5'-HxCB
 
2,3,3',4,4'-PeCB
2,3,4,4',5-PeCB
2,3',4,4',5-PeCB
2',3,4,4',5-PeCB
2,3,3',4,4',5-HxCB
2,3,3',4,4',5'-HxCB
2,3',4,4',5,5'-HxCB
2,3,3',4,4',5,5'-HpCB
0.0001
0.0001
0.1
0.01
 
0.0001
0.0005
0.0001
0.0001
0.0005
0.0005
0.00001
0.0001

TEF:
ダイオキシン類あるいはダイオキシン類似化合物には多種類の化合物があり、それぞれの毒性の強度は異なる。このため、通常は多種類の混合物であるダイオキシンの毒性を把握するために、2,3,7,8-TCDDの毒性の強度を1として、個々の化合物の毒性強度を表した数値。
耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)の考え方:

耐容一日摂取量とは、人が一生涯摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重 1kg当たりの摂取量であり、・・pgTEQ/kg/dayで表わす。

世界保健機構(WHO)欧州地域事務局と国際化学物質安全性計画(IPCS)は、1998年5月、専門家会合をスイス・ジュネーブで開催した。この結果、4 pgTEQ/kg/dayを当面の最大耐容摂取量(maximal tolerable intake on a provisional basis)とし、究極的には 1pgTEQ/kg/dayを提案した。

我が国では、環境庁と厚生省が専門家会合を開き、1999年6月、WHOと同じ結論を得た。

米国は、安全性についての考え方が、WHOとは異なり、0.01 pgTEQ/kg/day以下とされている。

この差の原因は何でしょうか。それについてちょっと考えてみたいと思います。

さて、周知の通り、動物でも植物でも、小さな小さな細胞で構成されています。したがって、上記の毒性に関する考え方の差を理解するには、小さな細胞の中で起きるであろう相互作用を凝視する必要があるのです。

細胞の直径は10ミクロン程度であり、その中心部には細胞核がある。細胞核の主成分は、酸性を示す物質、核酸であり、デオキシリボ核酸(DNA)と呼ばれている細長い分子である。DNAの長さは、人間の場合約2メートルであり、2本の対となっている。

このDNAこそ、我々各個人の先天的情報源であり、また次世代への遺伝情報伝達ののマスターテープなのです。また、品種改良やガン発生に係わる重要な要素なのです。

2本鎖DNAの立体構造は、1953年3月、世界的に有名な科学雑誌「Nature」に発表されました。ワトソンとクリックの、2本の鎖がよじれあった2重らせん構造モデルがそれである。

イメージ的には、2本のDNA分子で作られた、らせん階段である。即ち、りん酸と糖(デオキシリボース)が交互に化学結合して、長い鎖(階段の手摺に相当する)を形成する。鎖中の各糖(デオキシリボース)の特定の位置には、1分子の塩基分子(A,G,T,Cの4種類あり)が化学結合をしている。一方の鎖の塩基分子は、他方の鎖の塩基分子と水素結合(化学結合より弱いのが大切なポイント)をして塩基対(階段のステップに相当する)をつくり、左右の鎖が離れないように引き付けている。ここで、水素結合を形成する塩基対の組み合わせには、「特定の相手にのみ結合して特定の塩基対(2種類しかありません)をつくる」という規則(相補結合性)がある。即ち、A(アデニン)はT(チミン)と、そしてC(シトシン)はG(グアニン)とのみ塩基対をつる。また、塩基対は平面構造をしている。

この相補結合性のおかげで、2本のDNA鎖のうち、一方の塩基配列が決まれば、他方の塩基配列が決まることとなる。即ち、遺伝子配列(A,G,T,Cの配列)の複製が可能となるのである。

もしも、何らかの原因でDNAに損傷が起きると、健全な複製が出来なくなり、時によっては、突然変異やガン化の原因となる。

損傷を引き起こす原因として、太陽光、エックス線、紫外線、ガンマ線、ベーター線、アルファ粒子、中性子線、宇宙線や化学物質などがある。

DNA中の隣接したチミン塩基は、紫外線照射によって二量体化することが知られている。この結果、相補結合は出来なくなる。また、先ごろ、東海村で起きた核燃料の臨界事故では、多量の高エネルギー中性子が環境へ放射された。これが、人体に照射されると、人間の主成分でもある水と衝突する。この結果、水分子から水素原子核(反跳陽子という)が跳ねだされる。これは電荷をもつ粒子のため、DNAの鎖を切ることなど、いとも容易である。これら電磁波や放射線による損傷に、「このくらいなら大丈夫」なんていう”しきい値”は無い。

次に、発ガン物質(環境ホルモンでもある)のベンゾ(α)ピレンを考えよう。この物質は、5個のベンゼン環からなる薄い平板状をしていて、上記の塩基対の間(階段のステップとステップの間)にスルリと入り込むことが出来る。さらに、平板の形状は、塩基対の形状と類似している。このため、塩基対との間に相互作用が起き易く、この結果、正常な複製プロセスができなくなり、発ガンの原因物質となると思われている。


巷間悪役の名を欲しい侭にしている、ポリ塩化ダイベンゾダイオキシン(PCDD)、ポリ塩化ダイベンゾフラン(PCDF)、コプラナー・ポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)も、上記のベンゾ(α)ピレンと同様な影響をDNAに与えるとも思われる。なお、これら3グループのうち、前2者は平面構造をしている。しかし、ポリ塩化ビフェニルは分子構造から考えて、ネジレの自由度があるので、平面構造をとらない異性体が存在する。しかし、毒性を発現する構造としては、平面体(Co-planar)構造のポリ塩化ビフェニルが対象となっている。

上記の記述は、DNA分子への直接的作用を考えた場合の出来事ですが、実際はもっと複雑です。

厚生省の生活環境審議会と食品衛生調査会、それと環境庁の中央環境審議会が合同で行った、ダイオキシン類の毒性などに関する報告書が、1999年6月21日にまとめられました。

それによると、ダイオキシン類による発ガン性は、遺伝子との直接的な相互作用によるものではない、というメカニズムを強く支持しています。
即ち、「ダイオキシン類は、細胞内にあるアリール炭化水素受容体(arylhydrocarbonreceptor)に結合することによって、多様な毒性を引き起こす」としています。また、「ダイオキシン類による発ガン性は直接的に遺伝子を傷つけるものではなく、他の発ガン物質による発ガン作用を促進するいわゆるプロモーション作用による」とも記述されています。

以上述べたように、ダイオキシン類と細胞との相互作用は、まさに微小世界の現象であります。取るに足らないような、たった1回の遺伝子複製プロセスの失敗でも、後の世代に大きな禍根を遺してしまいます。場合によっては、とんでもない結果を生み出すかもしれないのです。

したがって、何らかの相互作用をするかも知れない化学物質の存在は、限りなくゼロにしたいところです。いわゆる、「この量までは安全ですよ」というような、”しきい値”は存在しないと思いますが。


さて、”しきい値=ゼロ”に立脚した数値が、アメリカの考えなのでしょうか。

合理性を徹底的に追求する、妥協の無い姿に感動するとともに、地球の先駆者たる誇りと見識と実績に羨望を感じます。もっとも、非常に困ることもありますがね。

巨大なアメリカが、あんなに小さなDNAを大切にするのですね。

まさに、「小さなDNAを愛する者、宇宙の盟主となる」ですか。


私の居住する山梨県は、可住地面積が4番目に小さな山岳県ですが、環境問題に関しては、かなり積極的な取組姿勢を表明しています。

例えば、環境行政の基幹となる政策、「環境首都・山梨づくり」宣言と「山梨県環境首都憲章」がそれです。

この宣言には、”先駆者的役割を果たす”ことと”世界に誇れる「環境首都・山梨」をつくり上げる”ことが宣言されています。また、「山梨県環境首都憲章」では、”快適な環境の享受の保証”が重要な理念の一つになっています。

何事によらず、”先駆者的役割”とは、非常に大変なことです。

”先駆者”たる者、理想実現のためには、利害・損得を超越して、もろもろの障壁に挑戦し、それらを打破しなければなりません。山梨県の管理者層には、かの有名な武田信玄公以来、このような勇壮な気質が連綿と継承されています。

男一匹、小生が感激しない訳がありません。山梨県の管理者層の意思と完全に共鳴します。