どしゃぶりのち晴れ


子供というのは、きわめて理不尽な生き物だ。
バックルをはめたいのに、はまらないと言って泣く。
あんまり泣くので、バックルをはめてやると、今度は取れないと言って泣く。
取ってやると、はまらない。
はめてやると、取れない、と泣く。そして、
「もういいからおいで。抱っこしてあげるから。」
と抱き上げれば、
「やりたいのぉ。」
と言って大泣きする。

スプーンですくったご飯がうまく口に入らないと言って泣く。
でも、手伝ってやれば、今度は、自分でやりたいと言って泣く。

食パンにジャムをぬってほしいと泣く。
ぬってやると、パンについたジャムだけを食べようとして、うまく食べれないと泣く。
そして、手がよごれたと泣く。

万事がそんな調子なのだ。
手の施しようがない(^^;;;
つきあいきれんわ、と思うのが普通だ。
いらいらするな、というほうが無理なのだ。
ついつい、最後には「いいかげんにしなさい。」と怒ってしまう。


なんでも、マネしたがる...



うまくできないと、

はいつくばってゴネる...


(1歳10ヶ月)


どうでもいいようなことに、自分でもいやになるほどムキになってしまう瞬間がある。
せっかく作ったのに、ちっともご飯を食べてくれない。
そんな気分じゃないのかもしれない。
たいしてお腹もすいてないのかもしれない。
そう思いつつ、こういつもいつもだと、些細なことだと自分でもわかっているのに、
「これ食べないんだったら、公園にも行かないよ。」
つい、大人げのない怒り方をしてしまう。
そして、口から出てしまったその言葉にひっこみがつかなくなっていく。

菜月は顔を曇らせ、それでも、小さな声で
「いらんの...」
と拒絶の意思を表し、けして口を開けない。
しばらく不穏な空気が流れる。

が、ふと、テーブルの上に置かれた、いちごの形の鍋つかみを見つけると、菜月の顔がにわかに笑顔になり、
「いちごだね。」
うれしそうに言うのだ。
その言葉を聞いて、私もはっと我に返り
「ほんとだ、いちごだね。なっちゃんの好きないちごだ。」
怒っていたのも、怒られていたのも、それで終わり。
つまらないことで怒ってしまったと反省する。
そんなことの繰り返しの毎日。
気持ち的には「どしゃぶりのち晴れ」と言ったところだろうか。


ラーメンがおいしいですぅ〜

(1歳10ヶ月)


めずらしく、おとなしく1人でご飯を食べてるなぁと思いつつ、洗い物をかたづけて、ふと振り返って見れば、机の上は、みそ汁の海。
菜月は、お椀の中に手を入れて、豆腐をぐちゃぐちゃにつぶし、服も机も床もどろどろ。
「こいつぅ〜」
かぁ〜と頭にきてしまうところなのだけれど、私と目が会うと、菜月がうれしそうに言ったのだ。
「おとうふ、きったの。」


なんとしても、はしで食べたいのだ

(1歳10ヶ月)


こんなこともあった。
コップでお茶を飲んでいたと思ったら、何を思ったのか、菜月は、突然、何の躊躇もなく、麦茶の入ったコップをさかさまにひっくり返して、机から床から水浸し。
「こいつぅ〜」
思わず、頭をこづいてしまったのだけれど、菜月が言ったのだ。
「プーさんも飲むかな。」
見れば、水浸しの机の上には、菜月のプーさんのスプーンが横たわっており...
どうやら、スプーンの柄についてプーさんにも麦茶を飲ませてあげるつもりだったらしい。

子供って、思いもよらないようなことを考えるものだ。
そんな子供の純粋さに心うたれ、それに気づかず怒ってしまった自分の心の狭さに反省する。
「雨のち晴れ」


ぽぽちゃんにも、「はい、どうぞ」

(1歳9ヶ月)


ところが...

おふろに入ると、菜月は
「ミッキーもはみがきしましょうね。」
と私の歯ブラシを手にとり、おもちゃのミッキーをごしごし。
私も
「ミッキーきれいになったかな?」
そのほほえましい光景に、最初はにこにこだったのだけれど、ふと見ると、
「おふろもね、おふろもね。」
いつのまにやら、人の歯ブラシで、ふろおけまで磨いている菜月。
「くぉらぁ〜」
瞬時に、なごやかな雰囲気が砕け散ったりする。
「晴れのち雷」
そんなこともしばしば。


日々のお天気概況はかなり不安定だ(^^;;;
瞬時に変わる。
どかーーんと怒っては、次の瞬間には、ほほえまずにはいられなかったり、にこにこ笑顔も突然どしゃ降りになったりする。
怒ったり、すかしたり、一緒になって笑ったり、ほとほとうんざりしたり...
毎日同じことの繰り返し。
家の中なんて、いつも、ぐちゃぐちゃだ。

でも、月日がたつのははやいもので、菜月ももうすぐ2歳をむかえようとしている。
「たにぐちなつきさ〜ん。」
と言えば、
「はぁ〜い。」
と手をあげ、
「何歳?」
と聞けば、
「いっしゃぁ〜い。」
と答える。
何時の間に、とびっくりするくらい、いろんな言葉をしゃべり、いろんなことが出来るようになっている。


「たにぐちなつきさ〜ん」

「はぁ〜い」


(1歳11ヶ月)


「どしゃぶりのち晴れ」
それでもまぁいいか、と思う。
最後に晴れていれば、よしとしよう。
1日の最後に、
「明日もまた一緒に遊ぼうね。」
そう笑って終わりにできる毎日であれば、ま、いいとするか、そんなふうに、半ば開き直りの今日この頃。

おうちの中はぐちゃぐちゃだけど、菜月、1歳11ヶ月、とりあえず何よりも元気いっぱいなのだ。


ふとんにごろぉ〜ん!

(1歳11ヶ月)