債権法改正 要綱仮案 情報整理

第11 債務不履行による損害賠償

3 不確定期限における履行遅滞(民法第412条第2項関係)

 民法第412条第2項の規律を次のように改めるものとする。
 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。

中間試案

2 履行遅滞の要件(民法第412条関係)
  民法第412条の規律を維持した上で,同条第2項の規律に付け加えて,債権者が不確定期限の到来したことを債務者に通知し,それが債務者に到達したときも,債務者はその到達の時から遅滞の責任を負うものとする。

(概要)

 不確定期限のある債務の履行遅滞の要件(民法第412条第2項)につき,債権者がその期限の到来を債務者に通知し,それが到達した場合には,債務者の知・不知を問わないで,その到達の時から遅滞の責任が生ずると解されていることから,このような異論のない解釈を条文上明記するものである。到達があったとされるための要件は,前記第3,4(2)(3)による。

赫メモ

 債務者が不確定期限の到来の事実を知らない場合であっても、債権者が不確定期限の到来後に債務者に対して履行の請求(催告)をしたときは、債務者はその履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うと解されていることから、要綱仮案はその旨を明らかにするものである。中間試案の表現からの変更は、民法412条3項の表現等を参照して、より適当な表現を用いるという趣旨のものである(部会資料68A、10頁)。

現行法

(履行期と履行遅滞) 
第412条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
【債権者から債務者に対する催告には,期限の到来を知らない債務者を遅滞に陥らせる実益がある】最高裁平成9年10月14日判決・判時1621号86頁
  Bは,昭和62年,Aが開発するゴルフ場に入会し,入会金及び預託金2200万円を支払った。ゴルフ場は,平成3年,スタート時刻10時,会員のみの利用ということで仮オープンした。Bは,平成4年2月契約を解除したが,7月に,ゴルフ場は,スタート時刻8時,ビジター同伴で正式開業した。
  一般に,ゴルフ場の建設工事中の時点において,将来における完成,開場を見込んで契約が締結された場合,履行期を記載した契約証書も作成されておらず,募集パンフレットに完成昭和63年秋予定などという記載があったにすぎず,入会契約当時においては平成1年に開場することが予定されていたと認められるというような事情のあるときは,その履行期は早くとも,平成1年以後であって,その後のゴルフ場建設工事の進ちょく状況並びに当時の社会経済状況に照らして,工事の遅延に関して予想される合理的な遅延期間が経過した時という,かなり幅のある弾力的なものであったとみるのが相当である。履行期はいわば不確定期限というべきものであるか,まったく未確定のものではなく,当初予定されていた時期より合理的な期間の遅延は許される限度のものであったということができる。本件ゴルフ場の建設工事は,現実に,調整池予定地の買収ができなくなり別の場所に調整池を設置せざるを得なかったこと及びゴルフ場につながる道路の拡幅工事についての用地買収が遅れたことなどが原因で遅延したのであるが,その後の努力により工事が進ちょくし,Aが解除の意思表示をした時点では,既に営業が開始され,近々債務の本旨に従った履行がされることがほぼ確実に見込まれるまでになっていたというのであって,これらの事実に照らすと,解除の意思表示の時点においては,債務の履行が既に到来していたものと断ずることはできない。
  判時コメント(87頁),「債権者から債務者に対する催告は,債務者に期限の到来を知らせるほか,期限の到来を知らない債務者を遅滞に陥らせる実益もある」。