債権法改正 要綱仮案 情報整理

第11 債務不履行による損害賠償

4 履行遅滞中の履行不能

 履行遅滞中の履行不能について、次のような規律を設けるものとする。
 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

中間試案

4 履行遅滞後に履行請求権の限界事由が生じた場合における損害賠償の免責事由
  履行期を経過し債務者が遅滞の責任を負う債務につき履行請求権の限界事由が生じた場合には,債務者は,その限界事由が生じたことにつき前記1(2)又は(3)の免責事由があるときであっても,前記3の損害賠償の責任を負うものとする。ただし,履行期までに債務を履行するかどうかにかかわらず履行請求権の限界事由が生ずべきであったとき(前記1(2)又は(3)の免責事由があるときに限る。)は,その責任を免れるものとする。

(概要)

 債務者に帰責事由がある履行遅滞中に履行不能が生じた場合には,履行不能につき債務者の帰責事由がない場合であっても,債務者は不履行による損害賠償責任を負うとするのが判例(大判明治39年10月29日民録12輯1358頁等)であり,学説にも異論を見ない。また,この場合であっても,債務者の帰責事由がない履行不能が履行を遅滞するか否かにかかわらずに生じたと認められる場合には,債務者が債務不履行による損害賠償責任を免れることにつき,異論はない。以上の規律を明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案の規律の趣旨は、要綱仮案本文に関する要綱仮案概要と同じである。ただし、要綱仮案1の規律との関係を分かりやすくするために、中間試案の表現から、債務者の帰責事由による履行不能と同様の扱いとする表現に改められた。また、中間試案ただし書の規律は、引続き解釈に委ねられることになった(部会資料79-3、11頁)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
@ 【履行遅滞中に債務者の帰責事由なくして履行不能となっても,債務者は責任を免れない】大審院明治39年10月20日判決・民集12巻1040頁
  煙草の引渡しを遅滞している間に法令により取引が不能となった。
  履行遅滞中に債務者の帰責事由なくして履行不能となったとしても,債務者は責任を免れない。なぜなら,遅滞より生じる当然の帰結であるからである。

A 【請負業者の帰責事由によって堤防修理を中断していた間に洪水が発生したときの損害賠償の範囲は民法416条により決まるのであって,洪水が予測できないものであったとして賠償額を裁量的に減額することはできない】最高裁昭和59年2月16日判決・集民141号201頁
  B(鰻の養殖業者)がAに対して,養魚池の堤防修理を発注していたところ,Aの帰責事由により工事が中断していた間に,洪水が発生し,未完成部分の堤防が決壊して,Bの鰻が流出した。(原審は,Bの損害2400万円に対して,Aの賠償の範囲を1700万円としていた。)
  仮に,降雨量が梅雨末期において通常予想される程度のものであれば堤防の未完成部分の決壊及び鰻の流出ということはなく,かかる事態が発生したのは予想を超える異常な降雨のためであったとすれば,これによって,Bが被った損害については,債務者であるAにおいてこのような特別の事情を予想したか又は予想すべきであったによって決まる。これが肯定される場合,賠償の範囲は,鰻の流出によってBが被った全損害に及ぶものであって,Aの履行遅滞又は本件被害の発生につきBにもその責に帰すべき事由が存在するのでない限り,裁判所の裁量的判断によって賠償額を減額しうる根拠はない。

B 【履行遅滞がなくても損害が発生したのであれば,損害と遅滞との間には因果関係は認められない】東京地裁昭和49年12月10日・判時781号89頁
  B(転貸人)はA(転借人)の債務不履行により,建物αに関する転貸借契約を3月に解除したが,5月に放火によりαが焼失した。BからAに対する損害賠償請求事件である。
  一般に履行遅滞発生後は債務者は事変に対してもその責に任ずるのを原則とするが,債務者が適法な時期に債務を履行してもなお債権者に損害が発生したであろうことを証明した場合においては責任を負わない。なぜなら,適法の時期に履行した場合になお損害が発生したであろうことが明らかな場合には,遅滞がなくても損害は発生したのであるから,損害と遅滞との間には因果関係がないからである。