債権法改正 要綱仮案 情報整理

第11 債務不履行による損害賠償

5 代償請求権

 代償請求権について、次のような規律を設けるものとする。
 債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務者がその債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度で、債務者に対し、当該権利の移転又は当該利益の償還を請求することができる。

中間試案

5 代償請求権
  履行請求権の限界事由が生じたのと同一の原因により債務者が債務の目的物の代償と認められる権利又は利益を取得した場合において,債務不履行による損害賠償につき前記1(2)又は(3)の免責事由があるときは,債権者は,自己の受けた損害の限度で,その権利の移転又は利益の償還を請求することができるものとする。

(注)「債務不履行による損害賠償につき前記1(2)又は(3)の免責事由があるとき」という要件を設けないという考え方がある。

(概要)

 履行不能と同一の原因によって債務者が利益を得たときは,債権者は,自己が受けた損害の限度で,債務者に対し,その利益の償還を請求することができるとするのが判例(最判昭和41年12月23日民集20巻10号2211頁)・通説である。本文は,この代償請求権を明文化するものである。代償請求権は,債務者が第三者に対して有する権利の移転を求めることも内容としており,この点で債務者の財産管理に関する干渉となる側面もあることから,上記判例が示した要件に加え,履行に代わる損害賠償請求権につき債務者に免責事由があること要するものとして,代償請求権の行使は補充的に認められるものとしている。これに対し,代償請求権を補充的な救済手段として位置付ける必要はないとして,債務者が履行に代わる損害賠償義務を免れるとの要件は不要であるとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案は、中間試案の(注)の考え方と同じである(中間試案概要、参照)。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
【履行不能を生ぜしめたと同一の原因によって債務者が履行の目的物の代償利益を取得した場合,債権者は,履行不能により債権者が被った損害の限度において,その利益の償還を請求することができる】最高裁昭和41年12月23日判決・民集20巻10号2211頁
  BがAに賃貸していた建物が原因不明の火災により焼失し,建物返還請求権は消滅したが,他方で,賃借人Aは保険金を受け取った。
  履行不能を生ぜしめたと同一の原因によって,債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には,公平の観念に基づき,債権者において債務者に対して,履行不能により債権者が被った損害の限度において,その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当であり,民法536条2項但書は,この法理の現れである。
  判例解説(S41年108事件,567頁)「原審は,履行不能について債務者の責めに帰すべき事由の存しない限りとして,債権者に損害賠償請求権が発生する場合には代償請求権は認められないとするようであるが,本判決は,このような限定はしていない」