債権法改正 要綱仮案 情報整理

第11 債務不履行による損害賠償

7 過失相殺(民法第418条関係)

 民法第418条の規律を次のように改めるものとする。
 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

中間試案

7 過失相殺の要件・効果(民法第418条関係)
  民法第418条の規律を次のように改めるものとする。
  債務の不履行に関して,又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して,それらを防止するために状況に応じて債権者に求めるのが相当と認められる措置を債権者が講じなかったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができるものとする。

(概要)

 現行民法第418条は,債務不履行につき債権者に過失があった場合の過失相殺を規定しているが,この規定については,以下の改正を施すものとしている。
 民法第418条の文言では,債務の不履行に関する過失のみが取り上げられているが,債務不履行による損害の発生又は拡大に関して債権者に過失があった場合にも過失相殺が可能であることは,異論なく承認されていることから,このことを規定上も明確化するものとしている。
 民法第418条の「過失」という概念については,同法第709条の「過失」と同様の意味であるとは解されておらず,損害の公平な分担という見地から,債権者が損害を軽減するために契約の趣旨や信義則に照らして期待される措置をとったか否かによって判断されているとの指摘がある。これを踏まえ,同法第418条の「過失」という要件につき,「状況に応じて債権者に求めるのが相当と認められる措置を債権者が講じなかったとき」と改めているが,この文言の当否については引き続き検討する必要がある。ここで「状況に応じて」としているのは,契約の趣旨や信義則を踏まえて,損害の軽減等のために,不履行又は損害の発生・拡大が生じた時点において債権者にいかなる措置を期待することができたかを画定すべきことを示す趣旨である。
 民法第418条は,債権者の過失を考慮して「損害賠償の責任及びその額を定める」としているが,この文言からは,過失相殺が必要的であり,かつ,過失相殺により損害賠償の責任そのものを否定することが可能であると読める。しかし,不法行為に関する過失相殺を規定する同法第722条は,過失相殺を裁量的なものとしているとともに,責任自体の否定(全額の免除)はできないものとされているところ,債務不履行に関する過失相殺についても,同様の取扱いをすべきであるとの指摘がある。そこで,債務不履行による損害賠償に関する過失相殺についても,同条に合わせて,過失相殺をするか否かにつき裁判所の裁量の余地があることと,過失相殺の効果として損害賠償の減額のみをすることができる(全額の免除まではできない)旨を,条文上明記するものとしている。

赫メモ

 要綱仮案は、民法418条の「債務の不履行に関して債権者に過失があったとき」を「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったとき」に改め、定着した判例(東京地判平成21年9月15日、同平成20年4月18日、同平成20年3月3日、同平成13年9月28日等参照)実務を明文化した。
 「過失」の表現の見直すことや、過失相殺によって損害賠償責任を否定することまでは認めないこととする中間試案の規律を設けることは、見送られた(部会資料68A、18頁)。

現行法

(過失相殺)
第418条 債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
@ 東京地裁平成21年9月15日判決・LexisNesis独自収集裁判例
  Bタクシーがドアを開けたところ,後続のバイクが衝突しBが損害を受けた。Aの頸椎症の要素もあり,症状固定まで9カ月を要した。
  症状固定までに時間を要したことにつき,Aの身体的要素が影響を与えたことは否定できないが,その程度は5パーセントの素因減額が相当である。

A 東京地裁平成20年4月18日判決・NBL884号4頁
  広告代理店Aが関与して作成されたパッケージに著作権侵害があり,Bが著作権者に賠償金を支払った後に,Bに対して損害賠償を求めた。なお,Bは,著作権侵害である旨の苦情を知ってからも販売を継続している。
  Bとしても,自ら事実関係を調査するなどして自分の損害の拡大防止をすることが期待されていたものであり,AとBの過失割合を6対4と認めるのが相当である。

B 東京地裁平成20年3月3日判決・判タ1282号181頁
  AらはBのために韓国人スターを利用したキャンペーンを企画したが,来日したスターがポスター等をみて不快感を示しこれが実施できなくなった。
  Bがスターの来日に合わせてポスター等を一時撤去しておければ損害の拡大を防ぎ得た可能性がある等するので,2割の過失相殺。

C 東京地裁平成13年9月28日判決・LexisNesis独自収集裁判例
  AのミスでBのホームページファイルを消滅させた。Bは,パソコンが故障した際に,初期化したため元となるファイルが消失してしまった。
  Bは,ファイルの内容につき容易にバックアップ等の措置をとることができ,それによって損害の発生を防止し,又は損害の発生を極めて軽微なものにとどめることができたにもかかわらず,消滅事故当時,A側でファイルのデータ内容を何ら残していなかったものと認められる。過失相殺5割。