債権法改正 要綱仮案 情報整理

第11 債務不履行による損害賠償

8 賠償額の予定(民法第420条第1項関係)

 民法第420条第1項後段を削除するものとする。

中間試案

10 賠償額の予定(民法第420条関係)
 (1) 民法第420条第1項後段を削除するものとする。
 (2) 賠償額の予定をした場合において,予定した賠償額が,債権者に現に生じた損害の額,当事者が賠償額の予定をした目的その他の事情に照らして著しく過大であるときは,債権者は,相当な部分を超える部分につき,債務者にその履行を請求することができないものとする。

(注1)上記(1)については,民法第420条第1項後段を維持するという考え方がある。
(注2)上記(2)については,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,民法第420条第1項後段を削除するものである。同項後段は,賠償額の予定がされた場合に,裁判所がこれを増減することができないと明文で規定するが,このような規定は比較法的にも異例であると言われており,その文言にもかかわらず,実際には,公序良俗(同法第90条)等による制約があることについては異論なく承認されていることを踏まえてのものである。この点につき,賠償額に関する当事者の合意を尊重する観点から,同法第420条第1項後段を維持するとの考え方があり,これを(注1)で取り上げている。
 本文(2)は,賠償額の予定をした場合において,予定賠償額が著しく過大であったときには,債権者は,相当な部分を越える部分につき,債務者に請求することができないとするものである。下級審裁判例では,実際に生じた損害額あるいは予想される損害額と比して過大な賠償額が予定されていた場合に,公序良俗違反(民法第90条)とし,一部無効の手法により認容賠償額を減額したものが多い。このような裁判実務や,諸外国の立法の動向等をも踏まえ,賠償額の予定についても,債権者に著しく過大な利得を与えるなど不当な帰結に至るような場合には,一定の要件の下で制約が及ぶこととその効果を条文に明記して,当事者の予測可能性を確保することを意図したものである。
 本文(2)については,実務上合理性のある賠償額の予定の効力まで否定されるおそれがあるとして,規定を設けないとの考え方があり,これを(注2)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案の規律は、中間試案(1)と同じである(中間試案概要の該当箇所、参照)。中間試案(2)の規律については、注2の考え方が採用された(部会資料79-3、12頁)。

現行法

(賠償額の予定)
第420条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
@ 【競業避止義務違反を理由とする違約金について,実損害と比べて著しく過大である違約金を定める条項は全部又は一部が無効となる】東京地裁平成25年3月19日判決・WestLaw独自収集裁判例
  BがAに委託してドライアイスを製造していたところ,AがB以外の業者からドライアイスの製造を受託したとして,競業避止義務違反を理由として,取引高の9年分(11億1000万円)という違約金を請求した。
  本件違約金が,Bの被る損害に比べて著しく過大である場合には,違約金条項は,公序良俗に反するものとして,その全部又は一部は無効であると解するのが相当であるところ,Bが取引機会を喪失して損害を被ったとしても,その額はAが委託取引によって得た営業利益と大差ないものと考えられるところ,Aの営業利益は年400万円ないし700万円に過ぎない,Aが競合避止義務を負うのは契約解消後は5年間にすぎないことから,違約金の額は,Bが現実に被ることが想定される損害額に比べ,著しく高額であるといわざるを得ないから,違約金条項の一部は無効である。請求できる違約金は1000万円。

A 【リース契約において,信義則又は公平の原則を理由として,残リース料とリース物件の残存価額を超える違約金の約定を無効とした事例】東京地裁平成9年11月12日判決・判タ981号124頁
  Aがリース料を支払わなかったため,リース会社Bは,残存期間(15回分)のリース料220万円,リース物件の残存価額50万円に加えて,約定違約金490万円を請求した。
  違約金490万円と上記270万円の220万円は,残リース料等と対比して多額であり,リース物件が当初から瑕疵があり,その後の故障も多く,それらが修復されないままであったこと(ただし,これはBに対して主張できない)など本件に表れた事情を考慮すると,違約金額をそのままAに支払わせることは,リース期間が満了した場合と比較して過大な利益を得させ(総リース料自体の中にBの利益は既に加算されている),著しく不公平な結果を生じさせるものというべきであるから,信義則ないし公平の原則から,Aは,違約金と残リース料等との差額については支払義務を負わない。

B 【売買契約において,売買代金の2割を違約金とする約定について,信義則に反するものとして,その3割だけを認容した事例】東京地裁平成2年10月26日判決・判時1394号94頁
  AがBに対して売却した土地について,一部第三者の所有建物の一部が侵入していたため,Bが契約を解除して,売買代金額2割(2億2700万円)の違約金の支払いを求めた。
  約定の内容が当事者にとって著しく苛酷であったり,約定の損害賠償の額が不当に過大であるなどのときは,公序良俗に反するものとして,その効力に影響が及ぶこともあるし,また,約定の損害賠償の額を請求する者が損害の発生等につき過失があり,これを斟酌しなければ不公平であるときは,過失相殺により,その効力の一部が否定され,その額が減額されることもあり,さらに,約定の内容,約定がなされるに至った経緯,当事者の関与の状況等の個々の事案の事情において,約定の効力をそのまま認めることが不当であるときは,信義誠実の原則により,その約定を全部無効とし,又はその約定の一部を無効とし,その額を減額することができるものと解するのが相当である。本件売買契約締結の目的,経緯,その後の履行の状況,Aの債務不履行の程度,本件売買契約を巡るABの利害関係等の諸事情に照らすと,違約金として約定の金2億2700万円全額を請求することができるとすることは,AB間の衡平を著しく損ない,不当であり,本件売買契約を巡る信義誠実の原則に反するものといわざるを得ないから,許されず,約定の範囲の違約金のうち3割に相当する金6800万円の支払いを請求することができるものと解するのが相当であり,衡平の理念に適うものというべきである。