債権法改正 要綱仮案 情報整理

第12 契約の解除

6 解除権者の故意等による解除権の消滅(民法第548条関係)

 民法第548条の規律を次のように改めるものとする。
 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。

中間試案

4 解除権の消滅(民法第547条及び第548条関係)
 (2) 民法第548条を削除するものとする。

(概要)

 本文(2)は,民法第548条を削除するものである。同条の規律については,例えば,売買契約の目的物に瑕疵があった場合に,買主がそれを知らないまま加工等したときにも解除権が消滅するなど,その帰結が妥当でない場合があると指摘されている。そして,解除権者が同条第1項の要件を満たす加工等をした場合であっても,目的物の価額返還による原状回復(前記3)で処理をすれば足りるから,解除権を否定するまでの必要はないとの指摘がある。本文(2)は,これらの指摘を踏まえたものである。

赫メモ

 要綱仮案は、民法548条1項の「行為」の文言を「故意」に変更したうえで、同条の適用を、解除権者が解除権を行使することができることを知っていた場合に限定するものである。例えば、売買の目的物に瑕疵があった場合に、買主がその瑕疵の存在を知らずに加工等をしたときであっても、解除権は消滅してしまうことになるが、この帰結は妥当でないからである(部会資料68A、31頁)。また、民法548条2項は、同条1項の要件を充足しない場面のうちの一部を取り出したものにすぎず、無用の混乱を招きかねないため削除するものである(部会資料83-2、11頁)。
 中間試案では民法548条を削除することとしていたが、パブリック・コメントの批判を踏まえて見送られた。

現行法

(解除権者の行為等による解除権の消滅)
第548条 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。
2 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【民法548条1項の契約目的物とは,解除の対象となる契約に基づく債務の履行として給付された物であって,解除によって解除権者が相手方に返還しなければならないものである】最高裁昭和50年7月17日判決・金法768号28頁
 借地上の建物の所有者(賃貸人)Aと建物の賃借人Bとの間で,Bが旧建物を取り壊して増築するが増改築された建物の所有権はAとする旨の契約が締結され,Bは増改築を始めた。ところが,地主からの異議が出て工事が中断した。AはBに対して,増改築部分の所有権がAにあることの確認を求め,Bは上記増改築契約を解除した。
 民法548条1項の契約目的物とは,解除の対象となる契約に基づく債務の履行として給付された物であって,解除によって解除権者が相手方に返還しなければならないものである。上記増改築契約では旧建物はこの目的物に該当しないので,解除は有効。