債権法改正 要綱仮案 情報整理

第12 契約の解除

5 契約の解除の効果(民法第545条第2項関係)

 民法第545条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 民法第545条第1項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。(民法第545条第2項と同文)
(2) 民法第545条第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後にその物から生じた果実を返還しなければならない。

中間試案

3 契約の解除の効果(民法第545条関係)
  民法第545条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その契約に基づく債務の履行を請求することができないものとする。
 (2) 上記(1)の場合には,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負うものとする。ただし,第三者の権利を害することはできないものとする。
 (3) 上記(2)の義務を負う場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならないものとする。
 (4) 上記(2)の義務を負う場合において,給付を受けた金銭以外のものを返還するときは,その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還しなければならないものとする。この場合において,その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還することができないときは,その価額を償還しなければならないものとする。
 (5) 上記(4)により償還の義務を負う者が相手方の債務不履行により契約の解除をした者であるときは,給付を受けたものの価額の償還義務は,自己が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価額又は現に受けている利益の額のいずれか多い額を限度とするものとする。
 (6) 解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げないものとする。

(注)上記(5)について,「自己が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価値の額又は現に受けている利益の額のいずれか多い額」を限度とするのではなく,「給付を受けた者が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価値の額」を限度とするという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,解除権行使の効果として,両当事者がその契約に基づく債務の履行を請求することができなくなる旨の規定を新たに設けるものである。現行法の解釈として異論のないところを明文化するものであり,いわゆる直接効果説と間接効果説の対立に関して特定の立場を採るものではない。
 本文(2)は民法第545条第1項を,本文(3)は同条第2項を,それぞれ維持するものである。
 本文(4)は,民法第545条第1項本文の原状回復義務の具体的内容として,受領した給付が金銭以外の場合の返還義務の内容を定める規定を新たに設けるものである。受領した給付のほか,その給付から生じた果実を返還する義務を負うこととしている。それらの返還をすることができないときには,近時の有力な学説を踏まえ,返還できない原因の如何を問わず,その給付等の客観的な価額を償還する義務を負うものとしている(同様の考え方に基づくものとして,前記第5,2(1)参照)。
 本文(5)は,償還義務者が相手方の債務不履行により契約の解除をした者である場合に限り,本文(4)による給付それ自体の価額が自己の負担する反対給付の価額又は現に受けている利益の額のいずれか多いほうを上回るときは,自己の負担する反対給付の価額又は現に受けている利益の額のいずれか多いほうを上限として償還すれば足りる旨の規律を設けるものである。これは,反対給付の価額を超える償還義務を負うとすると,目的物の価額が反対給付の価額を上回っていた場合に,債務の履行に落ち度のない償還義務者に不測の損害を与えるおそれがあり,ひいては解除をちゅうちょさせることにもなりかねないことを考慮したものである。もっとも,自己が負担する反対給付の価額よりも自己が受けた給付による現存利益の額(例えば,給付の目的物を転売して得た代金の額)のほうが高いときは,自己が受けた給付の客観的な価額を下回る限りで,現存利益の額を上限としても不合理ではない。そこで,給付の価額償還義務は,反対給付の価額か現存利益のいずれか多いほうを限度としている(自己が受けた給付の客観的価額がその負担する反対給付の価額を下回るときは,前者のみを償還すれば足りる)。なお,「現に受けている利益の額」を上限とする考え方は一般的に確立したものではないとして,上限とするのは,自己が負担する反対給付の価額のみとすべきであるとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 本文(6)は,民法第545条第3項を維持するものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案3(4)第一文に関する中間試案概要と同じである。中間試案3(4)第二文の価額償還義務については、要綱仮案第5、1に関する価額償還義務等と同じ理由により、規律を設けることが見送られた。

現行法

(解除の効果)
第545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【解除によって返還される物については,返還に至るまでの使用料を付加させるべきである】大審院昭和11年5月11日判決・民集15巻808頁
  BがAに売却して引き渡した家屋について,買主が割賦金の支払いをしないので,12年後に契約を解除した。
  買主が代金と対価関係にある家屋を返還するに際して買受の時以降これを使用したことによって得た利益はこれを返還することを要しないとするがごときは,決して衡平の要求に合致するものではなく,545条は,返還される家屋について,返還に至るまでの使用料を付させる法意である。

A 【使用収益した利益は償還すべきである】最高裁昭和34年9月22日判決・民集34年9月22日・13巻11号1451頁
  BがAに売却し引き渡した土地建物について,Aが代金を支払わないためBが契約を解除して,Aに対して,明渡しと引渡後の賃料相当損害金を請求した。
  特定物の売買により買主に移転した所有権は,解除によって当然遡及的に売主に復帰すると解すべきであるから,その間買主が所有者としてその物を使用収益した利益は,これを売主に償還すべきである。この償還の義務の法律的性質は,いわゆる原状回復義務に基く一種の不当利得返還義務にほかならない。

B 【原状回復義務の内容として,目的物の使用利益も返還させるべきである】最高裁昭和51年2月13日判決・民集30巻1号1頁
  C名義の自動車を売主Aが売却し,買主Bが使用していたところ,1年後Cから追奪されたため,Bが契約解除した。Bは,受け取った売買代金から,自動車の1年間の使用利益を差し引いた額を支払う旨主張した。
  売買契約が解除された場合に,目的物の引渡を受けていた買主は,原状回復義務の内容として,解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負う。なぜなら,解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として,契約当事者に該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるためには,買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるからである。