債権法改正 要綱仮案 情報整理

第14 受領遅滞

1 民法第413条の削除

 民法第413条を削除するものとする。

中間試案

第 13 受領(受取)遅滞
  民法第413条の規律を次のように改めるものとする。
  債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができないときは,履行の提供があった時から,次の効果が生ずるものとする。
  ア 増加した履行の費用は,債権者が負担するものとする。
  イ 債権の内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,前記第8,1の区分に従い,それぞれ前記第8,1よりも軽減される保存義務を負うものとする。

(注)前記第8,1で民法第400条の規律を維持することとする場合には,上記イにつき「自己の財産に対するのと同一の注意」をもって保存する義務を負う旨を定めるという考え方がある。

(概要)

 いわゆる受領遅滞の効果につき「遅滞の責めを負う」とのみ規定する民法第413条を改め,その具体的な効果として,増加費用の負担(本文ア。同法第485条ただし書参照)及び目的物の保存義務の軽減(本文イ)を明文化するものである。後者については,契約によって生じた債権とそれ以外の債権との区分(前記第8,1参照)に対応した規定を設けることが考えられるが,それをどのように法文上表現するかについては,引き続き検討する必要がある。契約によって生じた債権とそれ以外の債権の区分をしない(同法第400条を維持する)場合には,「自己の財産に対するのと同一の注意」による保存義務を負う旨を規定するという考え方があり得る。それを(注)で取り上げている。なお,ここで言う「受領」という文言は,客体の性状についての承認といった意思的要素を含まない物理的な引取行為(受取り)を指すものとして整理することが考えられる。
 なお,受領遅滞の効果といわれているもののうち,債務不履行による損害賠償の責任を負わず,契約の解除をされないことについては,弁済の提供(民法第492条)の効果として整理し,弁済のパートに規定を設けるものとしている(後記第22,8)。 また,債権者の給付の不受領を債務不履行となる場合の損害賠償及び契約の解除や,受領を拒み,又は受領不能に至った場合の危険の移転については,いずれも売買のパートに規定を設けるものとしている(後記第36,10及び同14)。これらの規定は,民法第559条により有償契約に適宜準用される。

赫メモ

 民法413条は、受領遅滞の効果について「遅滞の責任を負う」とのみ定めているが、一般に、@保存義務の軽減、A増加した履行費用(目的物の保存費用を含む。)の債権者負担、Bその後の履行不能の危険の債権者負担の各効果が生じるものと解されている(部会資料68A、35頁)。
 要綱仮案は、同1において民法413条を削除するものとしたうえで、同2以下において上記@〜Bの効果をそれぞれ表題を付して規律を設けるものである(部会資料83-2、11頁)。

現行法

(受領遅滞)
第413条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=債務者,B=債権者)
@ 【受領遅滞があっても引換給付判決をすべき】大審院明治44年12月1日判決・民輯17巻772頁(参考)
  事案は不明。原審は,Aが履行の提供をした以上,Bは同時履行の抗弁を失うとして,AのBに対する請求を無条件で認容したようである。これに対するBからの上告。
  債務者が一度提供したがこれを継続しなければ,相手方において同時履行の抗弁権を主張することができる。なぜなら,同時履行の抗弁は債務の履行につき与えられた一つの担保でありその債務の履行を求められた場合に常に提出することができる。そうしないと,一度履行の提供をした債務者Aが無資力となれば相手方Bは必ずその債務を履行しなければならなくなり,甚だしい不公平の結果となる。引換給付判決をすべきであるとして,原審に差戻し。

A 【受領遅滞を理由として契約を解除することはできない】最高裁昭和40年12月3日判決・民集19巻9号2090頁
  請負人Aは,タンクの受注を受け完成させたが,注文者Bが不要になったとして,これを受け取らないため,Aは,請負契約を解除して,損害賠償請求をした。
  債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは,その性質が異なるのであるから,一般に後者に前者とまったく同一の効果を認めることは民法の予想していないところというべきである。民法414条,415条,541条等は,いずれも債務者の債務不履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり,受領遅滞に対し債務者のとりうる措置としては,供託・自動売却等の規定を設けているのである。されば,特段の事由の認められない本件においてBの受領遅滞を理由としてAは契約を解除することができない旨の原判決は正当。

B 【信義則上債権者に受取義務があり,義務違反による損害賠償請求が認められた事例】最高裁昭和46年12月16日判決・民集25巻9号1472頁
  昭和32年,硫黄の採掘権を有する業者Aとの間で,採掘する硫黄鉱石全量を購入する内容の売買契約を締結した買主Bが,昭和33年7月以降,市況の悪化を理由に,突然鉱石出荷の中止を求めてきた。Aの採鉱事業は,当初から,Bの需要に依存し,契約締結後においても,索道の改良,ワイヤーの交換等を行い相当の投資をしていた。AからBに対する損害賠償請求。
  右事実関係によれば,鉱石売買契約においては,売主が契約期間を通じて採掘する鉱石の全量が売買されるべきものと定められており,売主は買主に対し鉱石を継続的に供給すべきものであるから,信義則に照らして考察するときは,売主は,約旨に基づいて,その採掘した鉱石全部を順次買主に出荷すべく,買主はこれを引き取り,かつ,その代金を支払うべき法律関係が存在していたものと解するのが相当である。したがって,買主には,売主が採掘し,提供した鉱石を引き取るべき義務があったものというべきであり,買主の引取の拒絶は,債務不履行の効果を生ずるものといわなければならない。