債権法改正 要綱仮案 情報整理

第15 債権者代位権

2 債権者代位権の要件(民法第423条第2項関係)

 民法第423条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、1の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
(2) 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、1の権利を行使することができない。

中間試案

1 責任財産の保全を目的とする債権者代位権
 (2) 債権者は,被保全債権の期限が到来しない間は,保存行為を除き,上記(1)の権利の行使をすることができないものとする。

 (3) 次のいずれかに該当する場合には,債権者は,上記(1)の権利の行使をすることができないものとする。
  ウ 被保全債権が強制執行によって実現することのできないものである場合

(概要)

 本文(2)は,民法第423条第2項の規定による裁判上の代位の制度を廃止するほかは,同項の規定を維持するものである。裁判上の代位の制度については,その利用例が乏しく,基本的には民事保全の制度によって代替可能であると考えられること等から,これを廃止する。これに伴って,非訟事件手続法第85条から第91条までの規定は,削除することとなる。

 本文(3)イ及びウは,債権者代位権を行使することができない場合に関して,解釈上異論のないところを明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案(1)は、中間試案(2)と同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。転用型の債権者代位権につき、保存行為にあたらず、しかも被保全権利が期限未到来であるものの裁判上の代位の許可なしに債権者代位訴訟が提起された場合について、代位訴訟の判決の中で裁判上の代位の許可の要件を判断すれば足りるとして、代位行使を認めた判例(農地の買主が農地法上の許可を取得する前に、売主の前主に対する農地法上の許可申請手続協力請求権や登記請求権を代位行使した事案)が存する(宮崎地判昭和40年3月26日、名古屋地判昭和58年3月7日)。要綱仮案は、かかる判例の結論を否定する趣旨を含んでおらず、転用型の債権者代位権には、本規律が適用されないことを前提としているといえる(部会資料73A、28頁参照)。
 要綱仮案(2)は、中間試案(3)ウと同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。

現行法

(債権者代位権)
第423条
A 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【代位訴訟を提訴した場合には,非訟事件手続法に定める許可は不要である】宮崎地裁昭和40年3月26日判決・下民集16巻3号492頁
  農地がB→A→Dと転売されたが,県知事の許可がなく,移転登記ができない状態であった。BADC了解のもと,DがCに対して負担する債務のために,B名義の土地にCが抵当権を設定した。その後,AD間の売買契約は効力を失った。AがBに代位して,Cに対して抵当権抹消登記手続を求めた。
  AのBに対する権利は,停止条件付所有権移転登記請求権という期限未到来の債権である。Aが裁判外で代位権を行使しようとする場合であれば代位要件について非訟事件手続法による審査を受ける必要があるが,代位訴訟による場合,非訟事件手続によるか,又は非訟事件手続以上の厳格な手続によって代位権行使を認容してもらうかは,債権者の意思により自由に決定することができるのであるから,債権者が本来の訴訟手続において要件の具備についての判断を希望するならばこれを排斥する理由はない。

A 【同上】名古屋地裁昭和58年3月7日・判タ506号136頁
  農地がC→B→Aと転売されたが,県知事の許可がなく,移転登記ができない状態であった。AがBに代位して,Cに対して,「CはBに対して,農地法5条の許可申請手続きをせよ」「BはAに対し,許可があったときは売買を原因とする所有権移転登記手続きをせよ」との裁判を求めた。
  許可のない農地の転買人Aであっても,県知事の許可を法定条件とする所有権移転請求権を有している。許可のない農地の買主Aは法定条件付所有権移転請求権を保全するため,一般の債権の場合と同様に債権者代位権を行使することができる。Aは,本訴提起前に裁判上の代位に関する非訟事件手続法所定の裁判所の許可を得ていないが,債権者代位権を訴の形式によって行使する場合,その訴訟手続中において,非訟事件手続法72条に規定する要件を併せて審査できる。