債権法改正 要綱仮案 情報整理

第15 債権者代位権

1 債権者代位権の要件(民法第423条第1項関係)

 民法第423条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

中間試案

1  責任財産の保全を目的とする債権者代位権
 (1) 債権者は,自己の債権を保全するため必要があるときは,債務者に属する権利を行使することができるものとする。
 (3) 次のいずれかに該当する場合には,債権者は,上記(1)の権利の行使をすることができないものとする。
  ア 当該権利が債務者の一身に専属するものである場合
  イ 当該権利が差押えの禁止されたものである場合

(注) 上記(1)については,債務者の無資力を要件として明記するという考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,民法第423条第1項本文の規律の内容を維持した上で,保全の必要性があることを要する旨を明確にするため,同項本文の「保全するため」の次に「必要があるときは」という文言を補うものである。ただし,いわゆる転用型の債権者代位権については,後記9で規律することとしている。また,本来型の債権者代位権については,債務者の無資力を要件とする判例法理(最判昭和40年10月12日民集19巻7号1777頁)を明文化すべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。責任財産の保全を目的とする本来型の債権者代位権において一般的に債務者の無資力が要件となることについては,上記判例法理を明文化するかどうかにかかわらず,本文(1)の前提とされている。

 本文(3)アは,民法第423条第1項ただし書の規定を維持するものである。本文(3)イ及びウは,債権者代位権を行使することができない場合に関して,解釈上異論のないところを明文化するものである。

赫メモ

 中間試案1(1)(3)と同じである(中間試案概要の該当箇所、参照)。

【コメント】
 従前は、本来型の債権者代位権における「保全の必要性」の要件は、無資力要件と同義とされてきたように思われるが、無資力であれば必ず保全の必要性要件を充足するものと解すべきかは、要綱仮案において保全の「必要性」が明記されたことを機に、改めて検討する価値があるように思われる。すなわち、無資力要件をみたす場合でも、他に、より合理的な債権保全手段、債権回収手段がある等、債権者代位権を行使する合理性が認められない場合には、保全に必要性がないものとして、代位権行使を否定すべきであるものと考える。
 例えば、事実上の優先弁済を狙って代位訴訟を提起する場合については、要綱仮案のもとでは代位訴訟によっては債務者の処分禁止効、第三債務者の弁済禁止効が確保されないことから(要綱仮案6)、この場合においても代位債権者は被代位権利の仮差押えをしなければならず、他方、仮差押えがなされている状況下で、被代位権利の請求訴訟を提起せずに債権者代位訴訟を提起して被保全債権を保全するニーズは、被代位権利の時効中断の必要性など特段の事情がない限り、存在しないように思われる。事実上の優先弁済を狙った債権者代位権の行使については、第三債務者による任意の弁済を促す裁判外における行使においてこそ、簡易な回収に資する合理的なものとして認められるものであり、裁判上の行使については原則として保全の必要性がないものと解すべきである。

現行法

(債権者代位権)
第423条@ 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【名誉を侵害されたことを理由とする慰謝料請求権は,具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は,一身専属性を有する】最高裁昭和58年10月6日判決・民集37巻8号1041頁
  BがCに対して名誉棄損による損害賠償請求訴訟を提訴後に破産し,訴訟係属中に手続廃止となった。
  名誉を侵害されたことを理由とする慰藉料請求権は,本来,財産的価値それ自体の取得を目的とするものではなく,名誉という被害者の人格的価値を毀損せられたことによる損害の回復の方法として,被害者が受けた精神的苦痛を金銭に見積ってこれを加害者に支払わせることを目的とするものであるから,これを行使するかどうかは専ら被害者自身の意思によって決せられるべきである。その具体的金額自体も成立と同時に客観的に明らかとなるわけではなく,被害者の精神的苦痛の程度,主観的意識・感情,加害者の態度その他の不確定的要素をもつ諸般の状況を総合して決せられるべき性質のものであることに鑑みると,被害者が請求権を行使する意思を表示しただけでいまだその具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は,被害者がなおその請求意思を貫くかどうかをその自律的判断に委ねるのが相当であるから,権利はなお一身専属性を有するものというべきであって,債権者代位の目的とすることはできない。しかし,一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意又はかかる支払を命ずる債務名義が成立したなど,具体的な金額の慰藉料請求権が当事者間において客観的に確定したときは,客観的存在としての金銭債権となり,債権者代位の目的とすることができる。

A 【遺留分減殺請求権は,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる事情がない限り,債権者代位権の目的とすることはできない】最高裁平成13年11月22日判決・民集55巻6号1033頁
  AがBに対する金銭債権を有しており,Bは被相続人B´の相続人であるが,B´の遺言により相続する財産は皆無であった。AがBに代位して,遺留分減殺請求権を行使した。
  遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができない。なぜなら,遺留分制度は,被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものであり,被相続人の財産処分の自由を尊重して,いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとしたうえで,これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを遺留分権利者の自律的決定にゆだねているからである。

B 【免責決定を受けた債権を被保全債権とする債権者代位権の行使】東京高裁平成20年4月30日判決・金判1304号38頁
  AがBに対して損害賠償請求債権を有していたところ,AはBを代位して,Bが加入している損害保険会社に保険金を請求したが,Bが破産し廃止となり免責決定を受けた。
  Bに対する免責許可決定が確定したことにより,BのAに対する損害賠償債務はいわゆる自然債務となり,訴えをもって請求することができず,強制執行により実現することもできなくなったのであり,債権者代位権を行使することは許されない。