債権法改正 要綱仮案 情報整理

第15 債権者代位権

6 債務者の取立てその他の処分の権限等

 債務者の取立てその他の処分の権限等について、次のような規律を設けるものとする。
 債権者が1により債務者に属する権利を行使した場合であっても、債務者は、当該権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、当該権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

中間試案

7 債務者の処分権限
 債権者が前記1の代位行使をした場合であっても,債務者は,その代位行使に係る権利について,自ら取立てその他の処分をすることを妨げられないものとする。その代位行使が訴えの提起による場合であっても,同様とするものとする。

(概要)

 債権者代位権が行使された場合であっても,被代位権利についての債務者の処分権限は制限されないとするものである。判例には,代位債権者が債権者代位権の行使に着手し,債務者がその通知を受けるか,又はその権利行使を了知したときは,債務者は被代位権利についての処分権限を失い,自ら訴えを提起することができないとするものがある(大判昭和14年5月16日民集18巻557頁)。これに対しては,もともと債権者代位権は,債務者の権利行使の巧拙などには干渉することができず,債務者が自ら権利行使をしない場合に限ってその行使が認められるものであること等から,債務者の処分権限を奪うのは過剰であるとの批判があるため,判例と異なる帰結を明文化するものである。なお,現在の裁判実務においては,債権者代位訴訟の係属中に債務者が被代位権利を訴訟物とする別訴を提起することは重複訴訟の禁止(民事訴訟法第142条)に反するとされているため,債務者としては債権者代位訴訟に参加するという方法を採ることになる。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【債務者に代位権行使の事実を通知するか債務者がこれを了知した後,すなわち債権者が代位権の行使に着手した後は,債務者は被代位債権を行使することはできない】大審院昭和14年5月16日判決・民集18巻557頁
 Aは,B(公共団体)との契約に基づき,B所有地における大理石を採取する権利を取得したところ,Cがこれを妨害した。Aは,Bに代位して,Cに対して所有権に基づく妨害排除の訴えを提訴したところ,BもCに対して,土地所有権確認,土地明渡しの訴えを提訴した。
 債権者が適法に代位権の行使に着手したときは,債務者はその権利を処分することができなくなり,被代位債権を消滅させる一切の行為ができないのは当然として,被代位権利を自ら行使することもできなくなる。なぜなら,履行期到来前に代位をした場合においても債務者はその権利の処分権を喪失するのであるから(非訟事件手続法88条3項(現行法)),履行期到来後の行使が,履行期到来前の場合に比べて代位の効力が薄弱とならないのは当然であり,そうしないと,債権者は代位の目的を達することできないのみならず,いったん代位権を行使した債権者の行為が徒労に帰するためである。したがって,債務者は,第三債務者に対して処分行為とされている提訴をすることはできない。
 債権者が代位権を行使した後のいかなる時期にから債務者においてその権利を処分することができなくなるかについては法文上これを明記されていないが,非訟事件手続法88条2項の法意に準拠して,債権者は債務者に代位権の行使に着手したことを通知するか,債務者においてすでに債権者が代位権の行使に着手したことを了知したことを要する。債務者が知らない間にその権利の処分権を制限することは不当であり債権者の通知を要するが,すでに債務者に通知を受けたと同視すべき事実,すなわち債務者が了知した以上特に通知がなくても,債務者保護に欠くところはないからである。