債権法改正 要綱仮案 情報整理

第15 債権者代位権

3 代位行使の範囲

 代位行使の範囲について、次のような規律を設けるものとする。
 債権者は、1により債務者に属する権利を行使する場合において、当該権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、当該権利を行使することができる。

中間試案

2 代位行使の範囲
 債権者は,前記1の代位行使をする場合において,その代位行使に係る権利の全部を行使することができるものとする。この場合において,当該権利の価額が被保全債権の額を超えるときは,債権者は,当該権利以外の債務者の権利を行使することができないものとする。

(注)被代位権利の行使範囲を被保全債権の額の範囲に限定するという考え方がある。

(概要)

 被代位権利の価額が被保全債権の額を超える場合であっても,その被代位権利の全部を行使することができるとする一方,その場合には他の権利を行使することができない旨を定めるものであり,民事執行法第146条第1項及び民事保全法第50条第5項と基本的に同様の趣旨のものである。判例(最判昭和44年6月24日民集23巻7号1079頁)は,被代位権利を行使することができる範囲を被保全債権の額の範囲に限定しており,本文は,これよりも代位行使の範囲を拡げている。上記判例は,債権者代位権についていわゆる債権回収機能が認められていること(後記3の概要参照)を考慮したものとの指摘がされており,後記3の見直しの当否とも関連する。もっとも,後記3(2)のように債権回収機能を否定する場合であっても,代位債権者が後記3(1)により直接の引渡請求をする場合には,被代位権利の行使範囲を被保全債権の額の範囲に限定すべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案は、被代位権利を行使できる範囲についての判例法理(最判昭和44年6月24日)を明文化するものである。
 中間試案は、被保全債権の額に限らず被代位権利を行使できるものとしていたが、債権者代位権の制度は、債権者が自己の債権を保全するために行使するものであるから、その行使範囲は被保全債権の額の範囲に限定すべきであるとの指摘などを踏まえ、判例の結論を維持することとしたものである(部会資料73A、29頁)。

【コメント】
 現行法において、金銭債権者が債務者の金銭債権を代位行使する場合に、直接自己に支払うことを請求できること、及び、その後、事実上の優先弁済を得るのが可能であることは判例法理上認められている。自己の債権額の範囲の制限を判示した昭和44年最判の事案は、債権者が自己の債権額を超えて第三債務者に対し、被代位債権の自己への直接支払を請求した事案である。すなわち、自己の債権額による制限の規律は、かかる第三債務者に対する直接引渡請求の場面を念頭に妥当なものと評されてきたものといえ、それ以外の場面では、保全の必要性の判断の一要素にすぎず、厳格に捉えるべきでないものと解される。
 要綱仮案の審議過程においても、中間試案では、事実上の優先弁済が廃止されることを前提に自己の債権額の範囲の制限を設けないものとされ、その注記においても、直接引渡請求の場面に限って当該制限を設けることが提案されていたにすぎない。その後の審議において事実上の優先弁済は維持されることとなり、自己の債権額の制限の規律も設けることとなったが、その趣旨は、昭和44年最判の明文化に尽きるものであり、同最判の判示するところを超えて、被保全債権額の制限の規律を拡張する趣旨は含まれていない。
 以上の経緯に照らせば、要綱仮案の文言上は自己の債権額の制限の規律の適用範囲に限定はないものの、直接引渡請求以外の場面において、当該制限が及ぼされるか否かについては、現在の判例法理と同様、なお解釈に委ねられているというべきである。したがって例えば、要綱仮案のもとでも、債権者が、債務者の有する金銭債権の時効中断(時効の進行停止)を目的として、債務者への支払を求める代位訴訟を提起する場合に、保全の必要性が認められる事情があるときは、被保全債権額を超えて被代位権利を行使できるものと解する余地が十分にあるというべきである。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【被保全債権の範囲内にて,被代位債権を行使することができる】最高裁昭和44年6月24日判決・民集23巻7号1079頁
 AのBに対する債権が元利合計で440万円,BのCに対する債権が元利合計で660万円の場合,Aの代位行使する範囲が問題となった。
 債権者代位権は,債権者の債権を保全するために認められた制度であるから,これを行使しうる範囲は,債権の保全に必要な限度に限られるべきで,債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては,債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうる。