債権法改正 要綱仮案 情報整理

第15 債権者代位権

4 直接の引渡し等

 直接の引渡し等について、次のような規律を設けるものとする。
 債権者は、1により債務者に属する権利を行使する場合において、当該権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、当該権利は、これによって消滅する。

中間試案

3 代位行使の方法等
 (1) 債権者は,前記1の代位行使をする場合において,その代位行使に係る権利が金銭その他の物の引渡しを求めるものであるときは,その物を自己に対して引き渡すことを求めることができるものとする。この場合において,相手方が債権者に対して金銭その他の物を引き渡したときは,代位行使に係る権利は,これによって消滅するものとする。
 (2) 上記(1)により相手方が債権者に対して金銭その他の物を引き渡したときは,債権者は,その金銭その他の物を債務者に対して返還しなければならないものとする。この場合において,債権者は,その返還に係る債務を受働債権とする相殺をすることができないものとする。

(注1)上記(1)については,代位債権者による直接の引渡請求を認めない旨の規定を設けるという考え方がある。
(注2)上記(2)については,規定を設けない(相殺を禁止しない)という考え方がある。

(概要)

 本文(1)第1文は,代位債権者による直接の引渡しの請求が認められることを示すものであり,判例法理(大判昭和10年3月12日民集14巻482頁)を明文化するものである。もっとも,この判例に対しては,債権者代位権の債権回収機能を否定する立場から,代位債権者による直接の引渡請求を認めた上で相殺を禁止するのではなく,直接の引渡請求自体を否定すべきであるという考え方があり,これを(注1)で取り上げている。
 本文(1)第2文は,代位債権者に対する直接の引渡しによって被代位権利が消滅することを示すものであり,解釈上異論のないところを明文化するものである。
 本文(2)は,代位債権者が直接の引渡しを受けた物を債務者に返還する債務を負うこと,代位債権者はその返還債務(金銭債務)を受働債権とする相殺をすることができないこと(債権回収機能の否定)をそれぞれ示すものである。判例(上記大判昭和10年3月12日等)は,本文(2)のような規定のない現行法の下で,債権回収機能は妨げられないことを前提としており,この考え方を(注2)で取り上げている。しかし,同じ機能を果たしている強制執行制度(債権差押え)と比較すると,代位債権者は,被保全債権の存在が債務名義によって確認されず,債務者や第三債務者の正当な利益を保護するための手続も履践されないままに,責任財産の保全という制度趣旨を超えて被保全債権の強制的な満足を得ており,制度間の不整合が生じているとの批判がされている。本文(2)は,このような不整合を是正する趣旨で,新たな規定を設けることとするものである。この規定の下では,代位債権者は,第三債務者から直接受領した金銭の債務者への返還債務(自己に対して債務者が有する返還債権)に対して強制執行(債権執行)をすることになる。なお,そもそも当初から本来型の債権者代位権を利用せずに,被代位権利(金銭債権)に対して民事保全(債権仮差押え)及び強制執行(債権差押え)をすることも可能である。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案(1)に関する中間試案概要のとおりである。中間試案(2)の相殺禁止の規律については、実務の運用や解釈等に委ねる趣旨で、要綱仮案では、規定を設けることが見送られた。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【代位債権者は,第三債務者に対して,直接の給付を求めることができる】大判昭和10年3月12日判決・民集14巻482頁
  AがBに対する債権を保全するために,Bの債務者であるCに対して支払いを求めて代位訴訟を提訴した。
  第三債務者をして債務者に対する債務の履行として代位債権者に給付させることは権利行使として許容される。なぜなら,債務者が受領しない限り,債権が保全されないからである。

A 【同上。転用型】最高裁昭和29年9月24日判決・民集8巻9号1685頁
  B所有の建物を賃借していたCが無断転貸をしたため,Bが賃貸借契約を解除し,Aに賃借した。AがBを代位して,Cに対して明渡しを求めた。
  建物の賃借人が,その賃借権を保全するため賃貸人たる建物所有者に代位して建物の不法占拠者に対しその明渡しを請求する場合においては,直接自己に対してその明渡しをなすべきことを請求することができる。