第16 詐害行為取消権
民法第424条第1項の規律を次のように改めるものとする。
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この第16において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
1 受益者に対する詐害行為取消権の要件
(1) 債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるものとする。
(5) 上記(1)の請求は,次のいずれかに該当する場合には,することができないものとする。
ア 受益者が,上記(1)の行為の当時,債権者を害すべき事実を知らなかった場合
(注1)上記(1)については,債務者の無資力を要件として明記するという考え方がある。
本文(1)は,民法第424条第1項本文の規律の内容を維持した上で,詐害行為取消しの対象を「法律行為」から「行為」に改めるものである。詐害行為取消しの対象は,厳密な意味での法律行為に限らず,弁済,時効中断事由としての債務の承認(民法第147条第3号),法定追認の効果を生ずる行為(同法第125条)などを含むと解されていることを理由とする。また,詐害行為取消権について債務者の無資力を要件とする判例法理(大判昭和12年2月18日民集16巻120頁等)を明文化すべきであるという考え方があり,これを(注1)で取り上げている。詐害行為取消権について債務者の無資力が要件となることについては,上記判例法理を明文化するかどうかにかかわらず,1及び後記2から4までを通じて本文の前提とされている。
本文(5)アは,民法第424条第1項ただし書の規定を維持するものである。
規律の趣旨は、中間試案1(1)及び(5)アに関する中間試案概要のとおりである。
第424条(詐害行為取消権)
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
【詐害行為後に無資力状態を脱出すれば取消権を行使できない】大審院昭和12年2月18日判決・民集16巻120頁
Aの債務者Bは,大正9年に,畑をC(弟)に譲渡したが,その際の負債の額は24,000円であった。その後大正10年には,不動産16,000円,動産5,000円の資産に対して,負債の額は15,000円となった(鑑定まで行っているようである)。
債務者Bは,大正10年の時点においては,詐害状態を脱却し,詐害状態はもはや治癒されており,取消請求はできない。