債権法改正 要綱仮案 情報整理

第15 債権者代位権

8 登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権

 登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権について、次のような規律を設けるものとする。
 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、譲渡人に属する当該権利を行使することができる。この場合においては、5から7までを準用する。

中間試案

9 責任財産の保全を目的としない債権者代位権
 (1) 不動産の譲受人は,譲渡人が第三者に対する所有権移転の登記手続を求める権利を行使しないことによって,自己の譲渡人に対する所有権移転の登記手続を求める権利の実現が妨げられているときは,譲渡人の第三者に対する当該権利を行使することができるものとする。
 (2) 上記(1)の代位行使のほか,債権者は,債務者に属する権利が行使されないことによって,自己の債務者に対する権利の実現が妨げられている場合において,その権利を実現するために他に適当な方法がないときは,その権利の性質に応じて相当と認められる限りにおいて,債務者に属する権利を行使することができるものとする。
 (3) 上記(1)又は(2)による代位行使については,その性質に反しない限り,前記1(3)及び2から8までを準用するものとする。

(注1)上記(1)については,規定を設けないという考え方がある。
(注2)上記(2)については,その要件を「債権者代位権の行使により債務者が利益を享受し,その利益によって債権者の権利が保全される場合」とするという考え方がある。また,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

(概要)

 本文(1)は,転用型の債権者代位権(責任財産の保全を目的としない債権者代位権)の代表例として,判例上確立された不動産登記請求権を被保全債権とする不動産登記請求権の代位行使の例(大判明治43年7月6日民録16輯537頁)を明文化するものである。転用型の債権者代位権の一般的な要件に関する本文(2)に先立って,その具体例を示すことを意図するものである。もっとも,そのような具体例を示す規定を設ける必要はないという考え方があり,これを(注1)で取り上げている。
 本文(2)は,転用型の債権者代位権の一般的な要件を定めるものである。@債務者に属する権利が行使されないことによって自己の債務者に対する権利の実現が妨げられていること(必要性),Aその権利を実現するために他に適当な方法がないこと(補充性),Bその権利の性質に応じて相当と認められること(相当性)を要件とするものである。もっとも,転用型の債権者代位権の要件に関しては,「その権利の行使により債務者が利益を享受し,その利益によって債権者の権利が保全されるという関係が存在することを要する」と説示した判例(最判昭和38年4月23日民集17巻3号356頁)があり,この考え方を(注2)で取り上げている。この判例に対しては,具体的な事案に即した判断であって必ずしも汎用性のある要件を定立したものではないとの指摘や,捉え方次第で広くもなり狭くもなり得る不明確な要件であるとの指摘がされている。他方,そもそも転用型の債権者代位権の行使が認められる範囲を適切に画する要件を設けることは困難であるから,個別の事案に応じた解釈に委ねるのが相当であるとして,本文(2)のような一般的な規定を設けずに引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり,これも(注2)で取り上げている。
 本文(3)は,転用型の債権者代位権に関して,その性質に反しない限り本来型の債権者代位権と同様の規律を及ぼすことを示すものである。前記1(3)及び2から8までを包括的に準用しつつ,性質に反するかどうかを解釈に委ねることとしている。例えば,転用型の債権者代位権は責任財産の保全を目的とするものではないため,その代位行使に必要な費用の償還請求権(前記5第1文)について共益費用に関する一般の先取特権(前記5第2文)が問題となることはない。したがって,前記5第2文は,解釈上準用されないと考えられる。このほか,前記1(3)イ(差押禁止債権の代位行使),3(2)(債権回収機能の否定)についても,転用型の債権者代位権においては問題とならないため,解釈上準用されないと考えられる。

赫メモ

 要綱仮案は、判例法理上認められているいわゆる転用型の債権者代位権のうち、登記請求権の代位行使の場合(大判明治43年7月6日等)を明文化するものである。
 中間試案では、転用型の債権者代位権の一般的な要件として必要性、相当性、補充性を定めることとしていたが、要綱仮案では、当該規律を設けることが見送られ、一般的要件については要綱仮案8または要綱仮案1の規律の解釈や類推適用等に委ねることとされた。

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【転得者による登記請求権の代位行使】大審院明治43年7月6日判決・民録16輯537頁参考)
 C→B→Aと譲渡された土地につき,Aが債権者代位権によってBのCに対する登記請求権を代位行使した。
 後の売買による登記は登記法上前の売買による登記を経た後でなければすることができないため,C・Bが両人間の売買による登記をしないときは,Aは民法423条により,Bに対する登記手続請求権を保全するため,BのCに対する登記手続請求権を行使することができる。
 民法423条の適用を受ける債権は債務者の権利行使により保全されるべき性質を有すれば足りるものであって,債務者の資力の有無に関係を有するか否かは必ずしも問う必要はない。BのCに対する登記手続請求権を行使しなければAのBに対する登記手続請求権はBの資力の有無にかかわらずその目的を達することができず,前者の請求権の行使は後者の請求権を保全するのに適切かつ必要であることは明らかである。