債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

2 受益者に対する詐害行為取消権の要件(民法第424条第2項関係)

 民法第424条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 1は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
(2) 債権者は、その債権が1の行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、1の取消しの請求をすることができる。
(3) 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、1の取消しの請求をすることができない。

中間試案

1 受益者に対する詐害行為取消権の要件
(1) 債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるものとする。
(4) 上記(1)の請求は,被保全債権が上記(1)の行為の前に生じたものである場合に限り,することができるものとする。
(5) 上記(1)の請求は,次のいずれかに該当する場合には,することができないものとする。
  イ 上記(1)の行為が財産権を目的としないものである場合
  ウ 被保全債権が強制執行によって実現することのできないものである場合

(注3)上記(4)については,被保全債権が上記(1)の行為の後に生じたものである場合であっても,それが上記(1)の行為の前の原因に基づいて生じたものであるときは,詐害行為取消権を行使することができるとする考え方がある。

(概要)

 本文(4)は,被保全債権が詐害行為の前に生じたものであることを要件とするものであり,判例法理(最判昭和33年2月21日民集12巻2号341頁,最判昭和46年9月21日民集25巻6号823頁)を明文化するものである。なお,本文(4)は,被保全債権に係る遅延損害金については詐害行為の後に生じたものであっても被保全債権たり得ること(最判平成8年2月8日集民178号215頁)を否定するものではないが,さらに,被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものである場合一般について,詐害行為取消権の行使を認めるべきであるという考え方があり,これを(注3)で取り上げている。

 本文(5)イは,同条第2項の規定を維持するものである。本文(5)ウは,詐害行為取消権を行使することができない場合に関して,解釈上異論のないところを明文化するものである。

赫メモ

 要綱仮案(1)は、中間試案(5)イに関する中間試案概要のとおりである。
 要綱仮案(2)は、中間試案(4)に関する(注3)の考え方を採用したものである(中間試案概要の該当部分、参照)。
 要綱仮案(3)は、中間試案(5)ウに関する中間試案概要のとおりである。

現行法

第424条(詐害行為取消権)
 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【被保全債権は詐害行為の前に発生したものであることが必要である】大審院大正6年10月30日判決・民録23輯1624頁
  BはCに対して,大正2年に宅地を売却していたが移転登記は未了であった。その後の大正3年にAのBに対する債権が発生した。
 債務者の行為が民法424条の適用ありとするには,少なくともその行為が取消権を行使する債権者の債権発生後であることを要することは,未だ発生しない債権が詐害行為の目的となるべき理なきに徴するも明白なる筋合いである。

A 【同上】最高裁昭和33年2月21日判決・民集12巻2号341頁
  Aの債務者(保証人)Bは,昭和29年6月頃,Cに対して不動産を譲渡した。Bが保証債務を負担したのは,昭和29年8月であった。
  債務者の行為が債権者の債権を害するものとして詐害行為取消しの適用ありとするには,その行為が取消権を行使する債権者の債権発生の後であることが必要である。

B 【被保全債権には詐害行為後に発生した遅延損害金も含まれる】最高裁昭和35年4月26日判決・民集14巻6号1046頁
  Aの債務者B(元金45万円)は,重要な資産である不動産(すでに先順位抵当権が設定されている)上に,Cのために抵当権を設定した。その後,当該不動産が競売となり,Cへの配当は100万円となったが,Cはこの配当金請求権を第3者Dに無償で譲渡した。Aは,Cに対する抵当権設定行為を取り消して,価額賠償を求めた。
  本件抵当権の設定が取り消されるときは,Aはその債権元本45万円及びこれに対する遅延損害金を配当分から総債権者の利益のために弁済をうけうる。

C 【同上】最高裁平成8年2月8日判決・集民178号215頁
  Aの債務者(保証人)Bは,昭和60年,農地41筆をCに対して贈与したため,Aが取消訴訟を提訴した。Aは,被保全債権として,元金2300万円,平成3年までの遅延損害金1400万円を主張したところ,原審は,Aの主張を認めて,13筆(3800万円)の範囲で贈与を取り消した。
  詐害行為取消権によって保全される債権の額には,詐害行為後に発生した遅延損害金も含まれる。
D 【被保全債権が将来の婚姻費用の支払請求権であっても,当事者間の婚姻関係その他の事情から,調停または審判の前提たる事実関係の存続がかなりの蓋然性をよって予測される限度においては,これを被保全債権として詐害行為の成否を判断することが許される】最高裁昭和46年9月21日判決・民集25巻6号823頁
  AB夫婦間において,昭和31年と33年に,BがAに対して生活費として毎月1万円を支払う等の調停が成立したが,Bは生活費をほとんど支払わず,かえって,未払額が110万円となっていた昭和37年に自宅をCに対して譲渡し,CはDのために抵当権を設定した。Bは,原審係属中の昭和41年に,同年までの未払額合計190万円を供託した。原審判決は昭和43年。
  将来の婚姻費用の支払に関する債権であっても,いったん調停によってその支払が決定されたものである以上,詐害行為取消権行使の許否にあたっては,それが婚姻費用であることから,直ちに,債権としてはいまだ発生していないものとすることはできない。
  婚姻費用の分担に関する債権は,婚姻関係の存続を前提とするものであるから,婚姻関係の終了によって以後の分は消滅すべきものであり,また,これに関する調停または審判は,夫婦間の紛争を前提としてされるのが通常であるから,債権者が自己の死亡に至るまで調停または審判に基づいて婚姻費用の支払を受けうるということは,むしろ稀な事例に属する。しかし,将来弁済期の到来する部分は全く算定しえないものとも即断し難いのであって,少なくとも,当事者間の婚姻関係その他の事情から,調停または審判の前提たる事実関係の存続がかなりの蓋然性をもって予測される限度においては,これを被保全債権として詐害行為の成否を判断することが許されるものというべきである。いま直ちに,Bの本件不動産の処分当時,調停に基づく婚姻費用分担債権が将来にわたりいかなる限度で確実に存しえたかを判定することはできないけれども,調停成立後処分時までには6年余の期間が経過しているのに,その間調停によって定められた金員の支払はほとんどされず,その後5年余を経過した原審口頭弁論終結時においても,なお両当事者間において,処分時と同様な別居状態が続いていたこと等の事情を考え合わせるならば,処分時においても,その当時の状況からみて,調停の効力が処分時以後少なくとも原審弁論終結時ごろまでは存続したであろうことが,かなりの蓋然性をもつて予測されえなかったものとは断じ難い。

E 【民法424条の債権者には,白地補充によって完全な手形上の権利者となりうる白地手形の所持人も含まれる】名古屋高裁昭和56年7月14日判決・
  Bは,昭和55年6月に受取人白地のまま約束手形を振り出し,その後9月に,不動産をCに処分する等して無資力となった。Aは11月に約束手形が不渡りとなったため,手形を買戻し,昭和56年3月白地を補充した。
  本件手形のような受取人欄を白地とする約束手形は,振出人の振出当時における一般財産をその信用の基礎として流通におかれ,経済的には完成手形と同一の価値を有するものとして取引の対象とされていることは周知の事実であるところ,かかる白地手形の所持人は,時効によって白地補充権が消滅しない限り,伺時でも白地を補充して完全な手形上の権利者となり得る法律上の地位を有するから,振出人の振出当時における一般財産の保全について法律上の利益を有するものということができる。民法424条の債権者の中には,このような法律的地位を有する者も含まれる。