債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

3 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則

 相当の対価を得てした財産の処分行為について、次のような規律を設けるものとする。
 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、当該行為について、1の取消しの請求をすることができる。
(1) 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この3において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
(2) 債務者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
(3) 受益者が、当該行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

中間試案

2 相当の対価を得てした行為の特則
 (1) 債務者が,その有する財産を処分する行為をした場合において,受益者から相当の対価を取得しているときは,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,その行為について前記1の取消しの請求をすることができるものとする。
  ア 当該行為が,不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により,債務者において隠匿,無償の供与その他の債権者を害する処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
  イ 債務者が,当該行為の当時,対価として取得した金銭その他の財産について,隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
  ウ 受益者が,当該行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
 (2) 上記(1)の適用については,受益者が債務者の親族,同居者,取締役,親会社その他の債務者の内部者であったときは,受益者は,当該行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定するものとする。

(概要)

 本文(1)は,相当価格処分行為に対する詐害行為取消権の要件について,破産法第161条第1項と同様の規定を設けるものである。破産法は,経済的危機に直面した債務者と取引をする相手方が否認権行使の可能性を意識して萎縮するおそれがあることなどを考慮し,相当価格処分行為に対する否認の対象範囲を限定しつつ明確化している。このように取引の相手方を萎縮させるおそれがある点では,詐害行為取消権も同様であるとの指摘がされている。また,現状では,否認の対象にはならない行為が詐害行為取消しの対象になるという事態が生じ得るため,平時における債権者が詐害行為取消権を行使することができるのに,破産手続開始後における破産管財人は否認権を行使することができないという結果が生じてしまうとの問題も指摘されている。本文(1)は,以上の観点から,破産法と同様の規定を設けるものである。
 本文(2)は,破産法第161条第2項と同様の趣旨のものである。

赫メモ

 中間試案2(1)と同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。中間試案2(2)については、「民法上の他の制度との関係における規律の密度や詳細さのバランス等を考慮し」規定を設けることが見送られたが、「実務上は、同項の類推適用や事実上の推定等によって対応が図られることを想定している」と説明されている(部会資料73A、42頁)。

現行法

(参考)破産法
(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
第161条 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
 一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第百六十八条第二項及び第三項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
 二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
 三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
2 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
 一 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
 二 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
  イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
  ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
  ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
 三 破産者の親族又は同居者

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【不当な目的による財産処分は価格が相当であっても詐害行為に該当する】大審院明治39年2月5日判決・民録12輯133頁(参考)
  債務者Bが不動産をCに売却した。
  債務者が弁済する目的なく財産を処分すれば,その価格が相当であるか否かを問わず,債権者を害する行為と推定すべきである。

A 【相当な価格で正当な目的でなされた財産処分は詐害行為に該当しない】大審院明治44年10月3日判決・民録17輯538頁
  債務者Bが不動産をCに売却した。
  不動産のほか資力のない債務者が不動産を売却して消費しやすい金銭に変えるのは債権担保の効力を削減するので,対価が相当であるか否かを問わず詐害行為となる。ただし,債権者への弁済その他有用の資を弁済するために相当の対価にて売却しその資に充てる場合は,債務者の正当な処分権行使となり,他から容喙されることはない。正当な処分権行使に該当することは,受益者・転得者が立証すべきである。

B 【不当な目的での財産処分は適正な価格であっても詐害行為に該当する】最高裁昭和39年11月17日判決・民集18巻9号1851頁
  債務超過のBが,取引先Cに対して,商品である繊維製品を売却し,売却代金と買掛債務を相殺した。
  債務超過の債務者が,特にある債権者と通謀して,その債権者のみをして優先的に債権の満足を得しめる意図のもとに,自己の有する重要な財産を債権者に売却して,売買代金債権と債権者の有する債権とを相殺する旨の約定をした場合には,たとえ売買価格が適正価格であるとしても,売却行為は詐害行為にあたる。

C 【担保権者に対する弁済のための相当価格での財産処分は詐害行為に該当しない】最高裁昭和41年5月27日判決・民集20巻5号1004頁
  Bは,土地(時価55万円だが,43万円の第1順位の抵当権設定あり)をCに20万円で売却し,2番抵当権者に対する35万円の債務を弁済した。
  債務者が既存の抵当権付債務の弁済をするために,被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる不動産を相当な価格で売却し,その代金を債務の支払に充てて抵当権の消滅をはかる場合は,その結果債務者の無資力を招いたとしても,一般債権者の共同担保を減少することにはならないから,詐害行為にあたらない。

D 【正当な目的のための担保提供は,価格が相当であり対価を目的外に利用しない限り,詐害行為に該当しない】最高裁昭和42年11月9日判決・民集21巻9号2323頁
  債務者Bに対して,Cが,生活費・子の進学費用を貸し付け,テレビ・冷蔵庫などの家財道具を譲渡担保として提供を受けた。
  譲渡担保による所有権移転行為は,当時Bの債権者の一般担保を減少せしめる行為ではあるが,他に資力のない債務者が,生計費及び子女の教育費にあてるため,その所有の家財衣料などを売却処分し,新たな借金のためにこれを担保に供するなど生活を営むためになした財産処分行為は,たとえ共同担保が減少したとしても,その売買価格が不当に廉価であったり,供与した担保物の価格が借入額を超過し,又は担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにするなど特別の事情のない限り,詐害行為は成立しない。