債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

5 過大な代物弁済等の特則

 過大な代物弁済等について、次のような規律を設けるものとする。
 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、1の要件に該当するときは、債権者は、4(1)にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、1の取消しの請求をすることができる。

中間試案

4 過大な代物弁済等の特則
 債務者がした債務の消滅に関する行為であって,受益者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて,前記1の要件(受益者に対する詐害行為取消権の要件)に該当するときは,債権者は,その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り,前記1の取消しの請求をすることができるものとする。

(概要)

 破産法第160条第2項と同様の趣旨のものである。債務の消滅に関する行為には前記3の規律が及ぶため,過大な代物弁済等が前記3の要件に該当するときは,その代物弁済等によって消滅した債務の額に相当する部分かそれ以外の部分かにかかわらず,その代物弁済等の全部の取消しを請求することができる。このことを前提に,本文は,過大な代物弁済等が前記3の要件に該当しない場合であっても,前記1の要件に該当するときは,その代物弁済等によって消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り,前記1の取消しの請求をすることができるとするものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。

【コメント】
 過大な代物弁済は、過大部分については財産減少行為にほかならないので、過大部分について詐害行為否認の対象となり、支払不能前の行為も取消対象となり得ることは当然である。要綱仮案は、破産法160条2項と同様に、その旨を明らかにする規律であるが、要綱仮案においては、破産法と異なって「4(1)の規律にかかわらず」との文言が入っており、あたかも過大部分についても性質上(有効な)債務消滅行為であることを前提としているように受け取られかねず、疑問である(民法349条(流質禁止)、参照。支払不能前の無資力下で過大な更改契約が締結され履行された場合の処理につき疑念を生じさせかねない。なお、過大な代物弁済は、要件をみたす限り、過大部分を含めて要綱仮案4(1)の規律により取り消すことも可能と解されるが、その点は解釈に委ねてよい)。

現行法

(参考)破産法
(破産債権者を害する行為の否認) 
第160条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
 一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
 二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【代物弁済は詐害行為に該当する】大審院大正8年7月11日判決・民録25輯1305頁
  BがC(いとこ)に対して土地を代物弁済として給付した。
  弁済は義務の履行であるから,たとえ共同の担保が減少しても債権者はこれを忍容せざるをえない。しかし,代物弁済は,債務の本旨に従った履行ではなく,これを行うか否かは債務者が自由に決定することができるのであり,債務者において,債権者を害することを知って代物弁済を行うことは,債権者の一般の担保を減少させる行為であり,詐害行為に該当しうる。

A 要綱仮案4Bの判例