債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

6 転得者に対する詐害行為取消権の要件

 転得者に対する詐害行為取消権の要件について、次のような規律を設けるものとする。
 債権者は、受益者に対して1の取消しの請求をすることができる場合において、債務者がした行為によって受益者に移転した財産を転得した者があるときは、当該転得者に対し、次の(1)又は(2)に掲げる区分に応じ、それぞれ当該(1)又は(2)に定める場合に限り、債務者がした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
(1) 当該転得者が受益者から転得した者である場合
  当該転得者が、その転得の当時、債務者がした行為について債権者を害することを知っていたとき。
(2) 当該転得者が他の転得者から転得した者である場合
  当該転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為について債権者を害することを知っていたとき。

中間試案

5 転得者に対する詐害行為取消権の要件
 (1) 債権者は,受益者に対する詐害行為取消権を行使することができる場合において,その詐害行為によって逸出した財産を転得した者があるときは,次のア又はイに掲げる区分に応じ,それぞれ当該ア又はイに定める場合に限り,転得者に対する詐害行為取消権の行使として,債務者がした受益者との間の行為の取消しを裁判所に請求することができるものとする。
  ア 当該転得者が受益者から転得した者である場合
    当該転得者が,その転得の当時,債務者がした受益者との間の行為について債権者を害すべき事実を知っていた場合
  イ 当該転得者が他の転得者から転得した者である場合
    当該転得者のほか,当該転得者の前に転得した全ての転得者が,それぞれの転得の当時,債務者がした受益者との間の行為について債権者を害すべき事実を知っていた場合
 (4) 上記(1)の適用については,転得者が債務者の親族,同居者,取締役,親会社その他の債務者の内部者であったときは,当該転得者は,その転得の当時,債務者がした受益者との間の行為について債権者を害すべき事実を知っていたものと推定するものとする。

(概要)

 本文(1)は,破産法第170条第1項第1号を参考としつつも,同号が「前者に対する否認の原因」についての転得者の悪意を要求しているため「前者の悪意」についての転得者の悪意(いわゆる二重の悪意)を要求する結果となっていることへの批判を踏まえ,そのような二重の悪意を要求せずに,転得者及び前者がいずれも「債権者を害すべき事実」について悪意であれば足りるとするものである。判例(最判昭和49年12月12日集民113号523頁)は,民法第424条第1項ただし書の「債権者を害すべき事実」について,受益者が善意で,転得者が悪意である場合にも,転得者に対する詐害行為取消権の行使を認めているが,破産法は,取引の安全を図る観点から,一旦善意者を経由した以上,その後に現れた転得者に対しては,たとえその転得者が悪意であったとしても,否認権を行使することができないとしている。
 なお,債務者がした受益者との間の行為が前記2(1)(相当価格処分行為)に該当する場合には,前記2(1)イ及びウの事実(債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたこと及び受益者がそのことを知っていたこと)についても転得者の悪意が要求されることを想定している。転得者が前記2(1)アの事実(債務者と受益者との間の行為が隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであること,例えば当該行為が「不動産の金銭への換価」であること)を知っているだけで転得者の悪意の要件を満たすことになると,転得者の取引の安全が不当に害されるおそれがあるからである。この限りでいわゆる二重の悪意に類似した要件を要求する結果となるが,上記の不都合を回避するためにはやむを得ないという考慮を前提とする。また,債務者の受益者に対する代物弁済が前記3(1)(偏頗行為)に該当する場合にも,前記3(1)アの事実(債務者が支払不能の時に当該代物弁済がされたこと)についての転得者の悪意に加えて,前記3(1)イの事実(債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって当該代物弁済をしたこと)についての転得者の悪意が要求されることを想定している(債務者の受益者に対する代物弁済が前記3(2)に該当する場合も同様である。)。以上のことを条文上も明記すべきか,又は本文(1)ア及びイの「債権者を害すべき事実を知っていた場合」という要件の解釈に委ねるべきかどうかについては,引き続き検討する必要がある。

 本文(4)は,破産法第170条第1項第2号と同様の趣旨のものである。

赫メモ

 中間試案5(1)と同じである(中間試案概要の該当部分、参照)。中間試案5(4)については、要綱仮案3に関する中間試案2(2)と同様の理由により規律を設けることが見送られた(部会資料73A、49頁)。

現行法

(参考)破産法
(転得者に対する否認権)
第170条 次に掲げる場合には、否認権は、転得者に対しても、行使することができる。
 一 転得者が転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知っていたとき。
 二 転得者が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知らなかったときは、この限りでない。
 三 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した場合において、それぞれその前者に対して否認の原因があるとき。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【転得者が善意であっても,再転得者が悪意であれば取消権を行使できる】最高裁昭和49年12月12日判決・集民113号523頁
 Bが所有していた不動産をC(悪意,子)に贈与し,Cはこの不動産上にD(善意)のために根抵当権を設定し,E(悪意,叔母)は,根抵当権の被担保債権を第三者弁済してDから根抵当権の譲渡を受けた。Aが,BC間の贈与契約の取消し,Cへの移転登記の抹消登記手続,Eへの抵当権移転付記登記の抹消登記を求めて提訴。
 民法424条所定の詐害行為の受益者又は転得者の善意,悪意は,その者の認識したところによって決すベきであって,その前者の善意,悪意を承継するものではない。また,受益者又は転得者から転得した者が悪意であるときは,たとえその前者が善意であっても債権者の追及を免れることができない。