債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

10 詐害行為の取消しの効果(民法第425条関係)

 民法第425条の規律を次のように改めるものとする。
 1又は6の取消しの請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

中間試案

6 詐害行為取消しの効果
 詐害行為取消しの訴えに係る請求を認容する確定判決は,債務者の全ての債権者(詐害行為の時又は判決確定の時より後に債権者となった者を含む。)に対してその効力を有するものとする。

(概要)

 詐害行為取消訴訟の認容判決の効力が,債務者の全ての債権者(詐害行為の時又は判決確定の時より後に現れた債権者を含む。)に及ぶことを示すものであり,民法第425条の解釈問題として議論されてきた点に関して,ルールの明確化を図るものである。もっとも,詐害行為取消訴訟の判決の効力が債務者にも及ぶという考え方を採る場合には(前記1(3),5(3)参照),本文のような規定がなくても,債務者の全ての債権者が債務者の責任財産の回復を前提として債務者に属する当該責任財産に対する強制執行の申立て等をすることができるようにも思われる。仮にそうであるとすれば,本文のような規定の要否についても引き続き検討する必要がある。

赫メモ

 従前の判例法理(大判明治44年3月24日)は、詐害行為取消しの効果は債務者には及ばないものと解してきたが、他方で、@逸出財産が不動産である場合には、当該不動産の登記名義が債務者の下に戻り、債務者の責任財産として強制執行の対象になるとされ、A詐害行為取消権を保全するための仮処分における仮処分解放金(供託金)の還付請求権が、債務者に帰属するとされ(民事保全法第65条参照)、B債務者の受益者に対する債務消滅行為が取り消された場合には、一旦消滅した受益者の債務者に対する債権が回復すると解されており(大判昭和16年2月10日)、整合性を欠いている。また、詐害行為取消権を行使された受益者は、詐害行為取消権の行使の結果として逸出財産を債務者に返還する義務を負うにもかかわらず、その逸出財産の返還を完了したとしても、詐害行為取消しの効果が債務者には及ばないために、その逸出財産を取得するためにした反対給付の返還等を債務者に請求することができないとされているが、その結論の妥当性に疑問がある。
 そこで要綱仮案は、上記の問題を踏まえ、詐害行為取消請求を認容する確定判決は、訴訟当事者(債権者及び受益者又は転得者)のほか、債務者に対してもその効力を有する旨を定めるものである。また、債務者の全ての債権者(民法425条)に対してもその効力を有することとしている。この債権者には、詐害行為の時又は判決確定の時より後に債権者となった者も含まれることを前提としている(以上につき、部会資料73A、56頁)。

【コメント】
 ここにいう「判決効」は、形成力及び既判力であると考えられるが、受益者に対する取消しの効力が転得者に及ばないこと(取消しの相対性)に鑑みれば、転得者がたまたま債権者であるとき(別口の債権を有しているとき)に、判決効が及ぼされ、当該債権者兼転得者が目的物の所有権を失うのは妥当でなく、形成力に限定しても、「すべての債権者」に及ぼすことは疑問である。この問題をクリアするためには、『「取消しの相手方(受益者等)との関係で」債務者受益者間の詐害行為が取り消されたこと』について、既判力・形成力が及ぶものと解することとなろうか。しかし、相対的に取り消したことの判決効を対世的に及ぼすことの分かりにくさは否めない。他方で、債務者に判決効が及ぼされれば、すべての債権者は回復財産に対する強制執行が可能であるから、わざわざ「すべての債権者」に判決効を及ぼす必要はなかったのである。立法論的には、やはり「すべての債権者」に判決効を及ぼすのは余計なことであったものといわざるを得ない。なお、部会資料には、この問題が現行425条にも存在する問題であるなどと記載されているが(部会資料83-2、13頁)、現行425条は、取消債権者が回復財産について優先権を有さないことを示すものと解されており(『新版注釈民法(10)U』931頁〔下森定執筆〕)、一般に判決効の規律とは解されていないから、部会資料の指摘は当たらず、結局、相当でない規律であるものといわざるを得ない。

現行法

(詐害行為の取消しの効果)
第425条 前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり