債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

12 受益者の債権

 受益者の債権について、次のような規律を設けるものとする。
 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(5による取消しの場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

中間試案

10 受益者の債権の回復
 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,これによって原状に復するものとする。

(概要)

 受益者の債権の回復について定めるものであり,破産法第169条と同様の趣旨のものである。判例(大判昭和16年2月10日民集20巻79頁)も,債務者の受益者に対する弁済又は代物弁済が取り消されたときは,受益者の債務者に対する債権が復活するとしている。なお,受益者が給付の返還又はその価額の償還をする前に,その返還又は償還の債務に係る債権が差し押さえられた場合であっても,受益者は,その返還又は償還をすること(具体的には執行供託をすること)を停止条件として回復すべき債権を被保全債権として,上記差押えに係る債権(自己を債務者とする債権)に対する仮差押えをし(民事保全法第20条第2項参照),それによって上記差押えに係る執行手続において配当等を受けるべき債権者の地位を確保することができる(民事執行法第165条参照)。また,債務者がした過大な代物弁済のうち当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分以外の部分のみが前記4により取り消された場合には,受益者がその取り消された部分についての価額を償還したとしても,当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分についての価額を償還したことにはならないから,受益者の債権は回復しない。

赫メモ

 判例(大判昭和16年2月10日)は、債務者の受益者に対する弁済や代物弁済が取り消された場合には、受益者の債務者に対する債権は回復する旨を判示しており、要綱仮案は、その趣旨を明文化するものである(部会資料73A、60頁)。

現行法

(参考)破産法
(相手方の債権の回復)
第169条 第百六十二条第一項に規定する行為が否認された場合において、相手方がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、相手方の債権は、これによって原状に復する。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【代物弁済が取り消された場合,取り消された部分に相当する債権が復活する】大審院昭和16年2月10日判決・民集20巻79頁(参考)
 2万円の負債を抱えるBが,1万円の債権者であるCに対して,8000円の売掛債権を代物弁済として譲渡した。Cは,配当率50%に相当する5000円については弁済を受ける権利があるので,3000円の譲渡のみを取り消すべきであるとして上告した。
 詐害行為によって代物弁済が取り消された場合,代物弁済によって消滅したCの債権額のうち,取り消された部分に相当する額の債権が復活し,他の債権者と同順位でその権利を行使することができるので,5000円についても詐害行為としての性格を失わない。