債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

13 転得者の反対給付及び債権

 転得者の反対給付及び債権について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消されたときは、当該転得者は、次のア又はイに掲げる区分に応じ、それぞれ当該ア又はイに定める権利を行使することができる。
 ア 11に定める行為が取り消された場合
   当該行為が受益者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消されたとすれば11によって生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
 イ 12に定める行為が取り消された場合(5による取消しの場合を除く。)
   当該行為が受益者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消されたとすれば12によって回復すべき受益者の債務者に対する債権
(2) (1)による転得者の債務者に対する権利行使は、当該転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付の価額又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。

中間試案

13 転得者の前者に対する反対給付等
 債務者がした受益者との間の行為が転得者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消された場合において,転得者が前者から取得した財産を返還し,又はその価額を償還したときは,転得者は,受益者が当該財産を返還し,又はその価額を償還したとすれば前記10によって回復すべき債権又は前記11によって生ずべき反対給付の返還若しくは償還に係る請求権を,転得者の前者に対する反対給付の価額又は転得者が前者に対して有していた債権の価額の限度で,行使することができるものとする。

(注)このような規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方,詐害行為取消権を行使された転得者の前者に対する反対給付の全額の返還請求又は転得者が前者に対して有していた債権の全額の回復を無条件に認めるという考え方がある。

(概要)

 転得者が現物を返還し,又はその価額を償還した場合における転得者の前者に対する反対給付又は転得者が前者に対して有していた債権の取扱いについて定めるものである。転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及ばないことを前提とすると,転得者が債務者に現物返還又は価額償還をした場合であっても,前者に対する反対給付の返還請求又は前者に対して有していた債権の回復は認められず,転得者がした現物返還又は価額償還に係る財産によって取消債権者を含む債権者らが債務者に対する債権の満足を得たときに初めて,転得者は債務者に対する不当利得返還請求権を行使することができるにすぎないとされている。これに対して,本文は,転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及ばないことを前提としつつも,受益者の反対給付及び債権に関する前記10から12までの取扱いを踏まえ,転得者の反対給付及び債権についても一定の保護を図ることを意図するものである。この場合において,転得者の前者に対する反対給付等の価額が,受益者の債務者に対する反対給付等の価額より大きいために,転得者が受益者の行使することのできる権利を行使するだけでは,転得者の前者に対する反対給付等の価額に満たないというときは,前者に詐害行為取消しの原因があるときに限り,転得者は前者に対してその不足分の支払を請求することができるとする考え方もある。この考え方を採るかどうかについては,引き続き解釈に委ねることとしている。
 以上に対し,転得者の保護については特段の規定を設けずに引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり,他方,転得者の保護を本文より更に進めて,転得者の前者に対する反対給付の全額の返還請求又は転得者が前者に対して有していた債権の全額の回復を無条件に認めるべきであるという考え方がある。これらの考え方を(注)で取り上げている。後者の考え方は,転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及ばないことを前提としつつも,詐害行為取消権を行使された転得者の前者に対する反対給付の返還請求又は転得者が前者に対して有していた債権の回復の場面においてはそのことを殊更に強調すべきではないという発想に立つものと整理することも可能である。また,本文の救済方法と併存させることも可能であることを前提としている。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。倒産法上の否認権にも、同様の規律が整備されることを予定している。

現行法


関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり