債権法改正 要綱仮案 情報整理

第16 詐害行為取消権

14 詐害行為取消権の期間の制限(民法第426条関係)

 民法第426条の規律を次のように改めるものとする。
 1又は6の取消しの請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。

中間試案

14 詐害行為取消権の行使期間
 詐害行為取消しの訴えは,債務者が債権者を害することを知って詐害行為をした事実を債権者が知った時から2年を経過したときは,提起することができないものとする。詐害行為の時から[10年]を経過したときも,同様とするものとする。

(概要)

 民法第426条前段は,「取消しの原因」を債権者が知った時から2年の消滅時効を定めているが,これについて,判例(最判昭和47年4月13日判時669号63頁)は,「債務者が債権者を害することを知って法律行為をした事実」を債権者が知った時から起算されるのであって,「詐害行為の客観的事実」を債権者が知った時から起算されるのではないとする。本文第1文は,まず,この起算点についての判例法理を明文化するものである。また,本文第1文は,詐害行為取消権が民法第120条以下の取消権等の実体法上の形成権とは異なるという点に着目し,詐害行為取消権の2年の行使期間を除斥期間ないし出訴期間(会社法第865条第2項,民法第201条等参照)と捉えるものである。時効の中断等の時効障害に関する規定は適用されないこととなる。
 本文第2文は,民法第426条後段の20年の除斥期間を[10年]に改めるものである。詐害行為取消権を行使するには詐害行為時から詐害行為取消権の行使時(詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時)まで債務者の無資力状態が継続することを要するとされているから,20年もの長期間にわたって債務者の行為や財産状態を放置したまま推移させた債権者に詐害行為取消権を行使させる必要性は乏しいと考えられることを理由とする。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案概要のとおりである。倒産法上の否認権も、同様の期間制限に改められることを予定している。

現行法

(詐害行為取消権の期間の制限)
第426条 第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

関連部会資料等

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

【債権者を害することを知った時とは,債務者が債権者を害することを知って詐害行為をした事実を知ったことを要する】最高裁昭和47年4月13日判決・判時669号63頁
 B所有の不動産に,昭和34年にBからCに対して所有権移転仮登記がなされ,昭和39年,AがBに対する損害賠償請求権を被保全権利とする仮差押えをし,昭和40年に,Cから,本登記請求及びAに対する本登記承諾の裁判が提訴され,これに対して,Aが昭和34年の所有権移転仮登記の原因である代物弁済予約契約に関して詐害行為取消権を行使した。
 詐害行為取消の消滅時効の起算点である取消権者が取消の原因を覚知した時とは,取消権者が,詐害行為取消権発生の要件たる事実,すなわち,債務者が債権者を害することを知って当該法律行為をした事実を知ったことを意味し,単に取消権者が詐害の客観的事実を知っただけでは足りないと解すべきである。なぜなら,債権者の詐害の意思をも知るのでなければ,詐害行為取消権の行使を期待しえないからである。もっとも,一般の取引における債権者は,債務者の資産状態および弁済の意思等について知識を有するのを常とするから,特段の事情のないかぎり,詐害の客観的事実を知った場合は,詐害意思をも知ったものと推認するのを相当とする。本件において,AがBの害意を知っていたとはいえないので,消滅時効の抗弁は認められない。