第17 多数当事者
民法第436条の規律を次のように改めるものとする。
ア 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。(民法第436条第1項と同文)
イ アの債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度で、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
3 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(2) 更改,相殺等の事由(民法第435条から第440条まで関係)
民法第435条から第440条まで(同法第436条第1項を除く。)の規律を次のように改めるものとする。
ア 連帯債務者の一人について生じた更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとする。
ウ 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度で,他の連帯債務者は,自己の債務の履行を拒絶することができるものとする。
本文アは,連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関して,援用された相殺を絶対的効力事由としている民法第436条第1項の規律は維持した上で,更改(同法第435条),債務の免除(同法第437条),混同(同法第438条)及び時効の完成(同法第439条)を絶対的効力事由としている現行法の規律を改め,当事者間(債権者と絶対的効力事由を及ぼし合う全ての連帯債務者との間)に別段の合意がある場合を除いてこれらが相対的効力事由(同法第440条)であるとするものである。…
本文ウは,連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合に関する民法第436条第2項について,他の連帯債務者が相殺の意思表示をすることができることを定めたものであるとする判例(大判昭和12年12月11日民集16巻1945頁)とは異なり,債権者に対して債権を有する連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者は自己の債務の履行を拒絶することができるにとどまることを明文化するものである。上記判例の結論
に対して,連帯債務者間で他人の債権を処分することができることになるのは不当であるとの問題点が指摘されていることによる。
要綱仮案(2)アは、連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関して、援用された相殺を絶対的効力事由としている民法436条1項の規律は維持するものである。
要綱仮案(2)イは、中間試案3(2)ウに関する中間試案概要のとおりである。
(連帯債務者の一人による相殺等)
第436条 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。
【他の連帯債務者が有する債権について,相殺できることを前提として判断がなされた事例】大審院昭和12年12月11日判決・民集16巻1945頁【参考】
B1・B2・B3がA1に対して連帯債務を負担し(B2・B3の負担部分はゼロ),A1がこの債権α347円をA2に譲渡し,その後に,B1がCからA1に対する債権β344円の譲渡を受けた。B1らは,αとβを相殺する旨の意思表示をしたところ,A2がB2・B3に対してαの支払いを求める訴訟を提訴した。B2・B3は,B1のA1に対する債権との相殺を主張し,この主張が認められて,A2の請求が棄却された(債権譲渡の効力に誤解があった?)。その後,A2がB1を相手取って提訴した。
A1の相殺は効力を有しない。B2・B3が相殺の援用によって免れた範囲においてB1の負担する債務を免れることもできない。