債権法改正 要綱仮案 情報整理

第17 多数当事者

2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(3) 連帯債務者の一人に対する免除(民法第437条関係)

ア 民法第437条を削除するものとする。
イ 連帯債務者の一人に対する免除について、次のような規律を設けるものとする。
 債権者と連帯債務者の一人との間に債務の免除があった場合においても、他の連帯債務者は、免除があった連帯債務者に対し、4(1)又は(3)により求償の請求をすることができる。

中間試案

3 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等
(2) 更改,相殺等の事由(民法第435条から第440条まで関係)
 民法第435条から第440条まで(同法第436条第1項を除く。)の規律を次のように改めるものとする。
 ア 連帯債務者の一人について生じた更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとする。
 イ 債務の免除を受けた連帯債務者は,他の連帯債務者からの求償に応じたとしても,債権者に対してその償還を請求することはできないものとする。

(概要)

 本文アは,連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関して,援用された相殺を絶対的効力事由としている民法第436条第1項の規律は維持した上で,更改(同法第435条),債務の免除(同法第437条),混同(同法第438条)及び時効の完成(同法第439条)を絶対的効力事由としている現行法の規律を改め,当事者間(債権者と絶対的効力事由を及ぼし合う全ての連帯債務者との間)に別段の合意がある場合を除いてこれらが相対的効力事由(同法第440条)であるとするものである。連帯債務は,一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有するとされているところ,上記のような絶対的効力事由が広く存在することに対して,この担保的機能を弱める方向に作用し,通常の債権者の意思に反するという問題点が指摘されていることによる。
 なお,法律の規定により連帯債務とされる典型例である共同不法行為者が負担する損害賠償債務(民法第719条)については,共同不法行為者間には必ずしも主観的な関連があるわけではなく,絶対的効力事由を認める基礎を欠くという理論的な理由のほか,被害者の利益保護の観点から連帯債務の担保的機能を弱めることが適当ではないという実際上の理由から,絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がない「不真正連帯債務」に該当するとされている(最判昭和57年3月4日判時1042号87頁)。本文アは,前記(1)とともに,判例上の不真正連帯債務に関する規律を原則的な連帯債務の規律として位置づけるものである。

 本文イは,債務の免除を受けた連帯債務者が他の連帯債務者からの求償に応じたときに,債権者に対してその償還を請求することができるものとすると,債務の免除をした債権者の通常の意思に反することになるため,そのような償還の請求を認めないとするものである。

赫メモ

 要綱仮案アは、連帯債務者の一人に対する債務の免除は、その免除を受けた連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を生ずるとする民法437条の規律が、債権者の一般の意思と乖離しているとして、同条を削除し、連帯債務者の一人に対する免除が他の連帯債務者に対する効力を有しないという立場を採るものである(部会資料67A、7頁)。
 また、免除の相対効を前提とすると、他の連帯債務者は、免除があった連帯債務者に対し求償することができるものと解されるが、この点について根拠となる規定がないことから、要綱仮案イではこれを明記こととしたものである(部会資料83-2、14頁)。

【コメント】
 債権者が、すべての連帯債務者に対して債務を免除する趣旨で、一人の連帯債務者に対し免除の意思表示をした場合や、当該一人の連帯債務者の負担部分については他の連帯債務者に対しても債務を免除する趣旨で、一人の連帯債務者に対し免除の意思表示をした場合には、債権者の意思に対応する効果を認めるべきであり、当該効果の発生のために、さらに他の連帯債務者に対する意思表示を要求すべきではない。要綱仮案はデフォルトルールを変更したに過ぎず、現行法において可能であった意思表示の効力を否定する趣旨を含むものと解すべきではない(ただし部会資料80-3、7頁は反対)。ある連帯債務者が弁済をした場合には疑いなく絶対的効力が生じるところだが、債権者がある連帯債務者から弁済を受けたものと取扱う趣旨で当該連帯債務者への免除の意思表示をした場合に、他の連帯債務者への意思表示を待たずに、債権者の意思に従った効果を発生させることについて、これを制限すべき実質的理由は何ら存しないものといわなければならない。

現行法

(連帯債務者の一人に対する免除)
第437条 連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

@ 【連帯債務者全員を免除する意思表示】最高裁平成10年9月10日判決・民集52巻6号1494頁
  自動車のディーラーB1と販売会社B2が共謀して自動車の販売があったかのように装い,クレジット会社Aから3300万円のクレジット代金を詐取した。AがB1を提訴し,A・B1間で,B1がAに2000万円を支払い,その余の請求を放棄する旨の裁判上の和解が成立した。B1がB2に対して求償した。過失割合は,B1が4,B2が6である。
  被害者Aが,訴訟上の和解に際し,B2の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは,B2に対しても残債務の免除の効力及ぶものというべきである。この場合,B2はもはや被害者Aから残債務を訴求される可能性はないのであるから,B1のB2に対する求償金額は,確定した損害額であるB1の支払額2000万円を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて算定するのが相当である。

A 【不真正連帯債務において,免除は絶対的効力事由ではない】最高裁平成6年11月24日判決・判時1514号82頁
  B1・Aの夫婦の夫B1と関係をもった女性B2に対して,元妻Aが慰謝料請求した。A・B1との間では,離婚調停が成立し,そのなかで,本調停条項に定める以外A・B1の間では相互に金銭のやり取りをしない旨の条項がある。
  民法719条の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は,いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから,その損害賠償債務については連帯債務に関する民法437条の規定は適用されない。Aは,離婚調停成立後4カ月を経過しない間にB2を提訴しており,Aは,調停において,B1の債務のみを免除したにすぎず,B2に対する関係では後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべきであり,調停による債務の免除は,B2に対してその債務を免除する意思を含むものではないから,B2に対する関係では何らの効力を有しない。